見出し画像

【過去記事】ラオスでも中国、韓国の存在感が増大その流れで日本語人気が低下中…。

※本稿は、2012年9月に『ザイ・オンライン×橘玲 海外投資の歩き方サイト』に執筆した内容を、掲載元の許諾を得て掲載しています。
=====================================

ラオスと日本は古くから交流があるのだが…

 日本では、ほとんど知られていないラオスだが、両国間の結びつきは意外に古い。日本の公的機関であるJICA(国際協力機構)の海外青年協力隊が初めて派遣されたのがラオスである。トヨタがクラウンを発売し、ラジオ東京テレビ(TBS前身)が創設される等、日本は高度成長期の始まりでだった1955年のことだ。一方、ラオスは王制でありながらも共産党軍(現政権)と内戦の真っ只中にあった。

 ラオス人と知り合いになると、50代以上の年配からは、こんな質問がよく出る。
「ショーキチを知っているか?」

 村社会に生きてきた年配ラオス人は、かつて、JICAから派遣されてきた”ショーキチさん”や、”ケンゾーさん”たちから日本語を学んだという。

 この”ショーキチさん”や”ケンゾーさん”のような人たちがプライベートの時間にボランティア活動として”日本語教室”を開いてたという。語学学校などではなく、人々のつながりから自然に日本語を学ぶ人が出てきたわけだ。その後、ラオスにきちんと日本語教育者が派遣されるようになったのは1965年になってからのことだ。


日本武道を習うラオスの少年少女たち。日本との交流は古くからある【撮影/テイスト・オブ・ラオス】
ラオスにある日本語学校【撮影/テイスト・オブ・ラオス】

 だが以前、首都で活動する日本語教師から気になる話を聞いたことがある。それは、ラオスの日本語教育がこれまでと比べて衰退しているという内容だった。

日本語人気低下の理由

 ラオスで日本語を学ぶ人は、2008年には、全国(その殆どが首都圏)で600人(全人口の約0.00009%、首都人口の0.00085%)以上いた。だが2年後の2011年には400名ほどに減少、徐々に注目度が低くなっているという。その理由は以下のようなものだ

(1)日系企業の進出が少ない

 2011年現在、日系進出企業は60社ほどしかない。しかもラオスに進出しているのはほとんどが中小企業で、労働者200~300人程度の工場が多い。そこでは1~3人の日本人が管理しその下に中間管理職が配置されるが、タイから移転してきた工場ではタイ人の日本語もしくは英語レベルが高いため、日本語ができるラオス人の必要性が低い。

(2)日本語を学習しても就職先がない

 日本に留学して帰って来たラオス人たちがいる。彼らの受け皿となるのは、大使館や国際協力機構などの公的機関や民間企業。公的機関の場合、初任給は300~500ドル程度。民間企業の場合、700~800ドル程度だという。

 だが、ラオス人によると、総じて日系よりも欧米系の給料が高い場合が多いらしい。留学生の多くは、日本語だけでなく英語、仏語など第三、第四の言語を習得している。日本留学から帰っても、日系機関・企業に就職するとは限らず、より良い条件で働ける欧米系を選ぶことが多い。

(2)韓国人、中国人が増加

 韓国でいうと、中古車販売で財を成した企業であるKOLAOグループが有名だ。バイオディーゼル開発や、銀行など関連会社をいくつも創立してきた。その勢いに伴って韓国人の移住が勢いを増している。在住日本人600人に対し、一説では韓国人が3000人いると言われている。

 中国人は、陸続きで法規も緩く、経済的伸びしろが大きいラオスに一攫千金のチャンスを求めて続々と入国している。その数は数十万とも噂されるほどだ。

 以上のような理由で、日本語よりも英、仏、そして韓、中の言語のプレゼンスが高く、日本語以外の学習(投資)が即ち、就職(利益)に繋がると考える人が多い。そうしたことから、日本語人気が低下してしまったようだ。

英語と韓国語コースがある専門学校【撮影/テイスト・オブ・ラオス】
ラオスにある韓国系の銀行。彼らの勢いはすごいと現地でも評判【撮影/テイスト・オブ・ラオス】

日本語の授業料が一番安い……!

日本語コースにはお坊さんの生徒も多く、お坊さん割引もある【撮影/テイスト・オブ・ラオス】

 実際の語学学校の授業料も調べてみた。

 ある日本語学校での授業料は、平日コース48時間(約3カ月)で18万キープ(約1800円)、土日コース36時間で14万キープ(約1400円)である。

 英語は、3カ月コースで65万キープ(約6500円)から。仏語は1カ月で50万キープ(約5000円)。韓国語は3カ月で55万キープ(約5500円)。中国語は、3カ月で40万キープ(約4000円)である。

 月額に直し、高い順に並べてみると、
(1)仏語 50万キープ
(2)英語 約22万キープ
(3)韓国語 約18万キープ
(4)中国語 約14万キープ
(5)日本語 6万キープ

 ちなみに、公務員の最低賃金は55万キープ(約5500円)、レストラン・ウェイターが70万キープ(約7000円)、大卒新入社員が150万キープ(約1万5000円)である。

 仏語は、外国人や高所得層のラオス人が学んでいるため、料金が抜きん出て高い。一方、日本語は韓国語、中国語よりも安く設定されているのが人気の低さを物語っている。

 言語学習を始める時、彼らは、より早く、より大きなリターンを得られるものを選ぶ。世界の中での経済力が、ラオス人の語学学習事情にもあらわれているとも言えそうだ。

昨年盛大に行なわれた日系イベント「ジャパン・フェスティバル」で浴衣を着るラオス人学生たち。日本に興味を持つ学生は決して少なくない【撮影/テイスト・オブ・ラオス】


いいなと思ったら応援しよう!