【過去記事】ラオス、世界遺産の町ルアンパバーン
※本稿は、2012年11月に『ザイ・オンライン×橘玲 海外投資の歩き方サイト』に執筆した内容を、掲載元の許諾を得て掲載しています。
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高まる日本人観光客への期待
世界遺産に認定、世界中から観光客が集まる
10月下旬、久しぶりにラオスの古都ルアンパバーンを訪ねた。この都市は、1995年にユネスコにより世界遺産に認定され、以来、山間の小さな街並に世界中から旅行者が訪れるようになった。
ルアンパバーンの歴史は14世紀から始まる。ファーグム王により、現ラオスの領土に加え、北は中国雲南省、東はベトナムの一部、南はタイの東北部(イサーン地方)のほぼ全てを掌握してランサーン王国を建国した。その王国の首都がルアンパバーンに置かれた。建国1353年、日本では室町幕府の時代である。王制は、その後、社会主義現政権による1975年まで続いた。
王都ルアンパバーンは、16世紀、ビルマの脅威からビエンチャンに遷都が行われた末にラオス国内が3つの小王国に分裂した後、小王国の王都として返り咲き、以後存続を続けた。
フランス領インドシナに編入されてからは、王宮も含めて町中にコロニアル建築が建てられるようになった。メコン川と支流のカン川に挟まれ半島のような土地の中心に小高い丘がそびえ、起伏の富んだ地形の中に椰子の木々が生い茂り、伝統的な高床式住居と白亜のコロニアル建築が混在する。
このコンパウンド(混合体)の美しさをして、世界遺産として保護すべき都市とされた。その人気は特に欧米で高く、イギリスの旅行雑誌では3年連続、「今行くべき目的地」の1位に取り上げられている。
山間に建てられた小さな空港には、現在、ラオス、ベトナム、タイの都市から4つの航空会社が就航している。日本からの定期便はないが、今年からチャーター便が何本か就航した。人気急上昇都市の割に国際線は意外と少ない。欧米から見れば極東に近い地域であり、東南アジアへはハブであるバンコクを経由すれば良い。日本を含めた東アジア地域からは、ベトナムの首都ハノイ経由が主流となりつつある。古都ルアンパバーンが国際的な世界遺産都市へと飛躍するために、現在、空港の拡張工事が行なわれている。貧困国からの脱却は国家政策の重要項目に挙げられ、観光業が担う役目は大きい。
ラオスの歳入(2011年)のうち、観光業の位置づけを見てみる。1位は鉱物資源で12億3720万ドル、2位が観光業で4億610万ドル、ちなみに3位は発電(売電)で3億4100万ドルであった。
ラオスへの訪問者数は、1990年に1万4400人であったのが、ルアンパバーン世界遺産登録の95年には前年比倍の34万人となり、2011年時点では、272万人を記録している。このうち日本人は約3万8000人(全体の1.39%)が年間ラオスを訪れている。最多訪問者数の国ランクでは、タイ、ベトナム、アメリカ、フランスに次いで5位だった。
欧州危機とミャンマー人気の影響
さて、私は、そのラオスが誇る世界遺産都市ルアンパバーンにいる。空港から中心部までは、距離約3km、タクシーに乗り込み約10分ほどで到着する。10月といえば乾季の始まりで観光のハイシーズンにあたる。逆に5月から9月の雨期、観光業は落ち込む。雨が多く緑が美しい時期にかけて、レインシーズンからグリーンシーズンという呼称を浸透させようという試みもあったが、うまく定着していない。
10月下旬の天気は良く、暑い日差しが日中は続いた。首都ビエンチャンから約400km北上した位置にあり、標高は290m(首都ビエンチャンは170m)にあるためか、朝夕は涼しい。過ごしやすい季節に突入しているはずだが、町中を行き来する人影はどこか寂しい。
レストランやショップを経営する外国人に話を聞いてみると、今年はヨーロッパからの観光客の落ち込みが激しいのだという。3~5割の減少ではないかと経営者たちはこぼす。原因は、欧州の経済危機とミャンマー人気にあるという。投資も観光もミャンマーに客を吸い取られているのだ、と。
一方、日本人観光客への期待が急速に高まっている。チャーターによる直行便の影響だろう。今年は、ヨーロッパ人の人影は例年より減少し、町中で見かける日本人の姿が急増した。「日本人客の心を上手く掴むにはどうすれば良いのか?」そんな質問を方々で受けた。こんなに真剣に問われたことは、10年間のラオス滞在で初めてだった。これは劇的な変化といえる。
しかし、現地の人々は気まぐれだ。来年、ヨーロッパからの観光客が回復すれば、人々はまたそちらに向くだろう。数カ月の結果をもとに、来年の営業方針を決める店舗も少なくない。ただ、日本人観光客数の上昇がこのまま続けば、人々は日本人向けの商品開発を真剣に考えるだろう。日本の観光業者にとってもここはチャンスかもしれない。