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【過去記事】ラオス人が共に生きる メコン川の開発事情

※本稿は、2012年12月に『ザイ・オンライン×橘玲 海外投資の歩き方サイト』に執筆した内容を、掲載元の許諾を得て掲載しています。
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ラオス人とメコン川の深いつながり

 メコン川は、総流域4425km、中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムに跨がる世界で10番目に長い東南アジアの代表的な河川だ。その源流はチベット高原に発する。メコン川周辺6カ国の中で首都圏を流れるのはカンボジアとラオスの二カ国のみ。ラオスでは、隣接するタイとの国境線の3分の2を形成している。その存在感は大きく、ラオスのイメージの代表格にもなっている。メコン川の夕日とピンガイ(鶏の丸焼き)、ビアラオ(ラオス国産ビール)は、ラオスの代名詞だった。

雄大なメコン川の夕日を眺めながら焼鳥をつまみにビアラオを飲み干す。ラオスの至福の時だ【撮影/『テイスト・オブ・ラオス』 】

 ラオスの祖先たちは、メコン川を下って中国雲南省から古都ルアンパバーンへ南下してきたと伝えられている。支流と本流に挟まれた半島のような山間盆地に長い船旅を終えた人々は辿り着いた。メコン川がもたらす肥沃な栄養分は、河岸の砂地に新鮮な野菜をもたらしてくれる。ルアンパバーンの名物麺カオソーイには、メコン河岸で育った美味しいウォータークレスなどの緑黄野菜が添えられる。

名物のカオソーイ。横には必ず青々とした野菜が添えられる【撮影/『テイスト・オブ・ラオス』】

 南部チャンパサック県では、メコン川を巨大な輸送路に変えようとしたかつての宗主国フランスの夢を阻んだ大瀑布コーンパペーンで、穏やかなメコン川の顔が一変する。この地域はシーパンドーン(4000の島々)といわれ、島々に渡っての観光も重要な観光資源の一つだ。カンボジア国境付近では、珍しい川イルカも見られる。

南部シーパンドーン地域。4000の島々と呼ばれ大小の島々が連なる。この地域のメコン魚は特に美味しいと評判だ【撮影/『テイスト・オブ・ラオス』】
フランスの夢を啄んだ大瀑布。落差はそれほどないが、その勢いは凄まじく、全てを飲み込む【撮影/『テイスト・オブ・ラオス』】

 川に沿って暮らす人々は、早朝、網を仕掛けにメコン川へ赴き、日中は田圃へ稲作に出かけ、夕方、網に掛かった収穫物を楽しみにメコン川へ戻る。子供たちにとってもメコン川は格好の遊び場だ。暑い時間帯をメコン川でじゃれ合う姿が首都圏でもまだ多く見られる。ラオスの人々の側には、いつもメコン川があった。

 しかし、時代の流れとともにメコン川の様子、人々との関わり方も変わってきている。

開発が相次ぐメコン川

 まず、首都ビエンチャンでは、2008年のメコン川洪水を契機に、護岸工事が加速され、立派なプロムナードが建設された。夕方になるとジョギングやエアロビクスに興じる人たちで溢れ、ナイトマーケットが国内外の人々で賑わっている。この開発とともに、赤土の地道に連なった焼鳥屋台は姿を消し、バックパッカーに愛されたかつての代名詞は、貴重な存在となった。

 さらに、メコンの本流にダムを建設するというプロジェクトが立ち上がった。開発を急ぐ政府だがプロジェクトは難航。下流に位置するタイ、カンボジア、ベトナムが反対しているためだ。水位が下がることで、メコン川に生息する生物の生態系が崩れ、農作物にも多大な被害を被ることが懸念されるのだ。メコン川流域国で構成するメコン委員会のラオス代表は、「ダムは世界の最新技術が導入され、船、魚が通過でき、沈殿物が下流に流れるよう配慮された透明なダムであって、下流域国に影響がないような十分な配慮がされている」と最終的な見解を示したが、最友好国であるベトナムが異例の非難を示していることから、ラオス政府は慎重な対応を迫られた。

 また、外国企業がラオスへ投資する対象は、発電、鉱物資源、安価な電気と労働力に合わせた集約労働型工場など。メコン川は運送路の障害となるため、橋の建設が相次ぐ。現在、タイとを結ぶメコン国際架橋は4カ所あり、現在も5つ目の橋が掛かろうとしている。

パクセーに掛かるラオー日本大橋(現地でもラオーニッポン橋と呼ばれ親しまれている)。日本の支援は物流インフラにも及ぶ【撮影/『テイスト・オブ・ラオス』】

 ラオスの人々にとって、メコン川とは何だろう。国の形を成す国境線の大部分を占める河川。かつては、人口の9割がメコン川に依存しているとも言われていた。そこに川があったから人々は生活の恵みを求めて依存した。しかし、首都の中心部では、水量の低下により、川底が見えることが年間を通して多くなった。それでも、生活習慣の変わった多くの人々が気にすることはない。

首都ビエンチャン中心部のメコン川。1年のうち数カ月しか水で満たされない。中国内のメコン本流のダム建設の影響は大きい【撮影/『テイスト・オブ・ラオス』】

 ラオスの代表的な風景とされるメコン川の夕日。そこに水のある風景は少なくなった。代わりに、開発の波が押し寄せる。ラオスらしさを残した開発を願ってやまない。

ゆったりとした流れに身を任せるアンパバーンのメコンクルーズは旅行者に人気。優しい風が吹き抜ける【撮影/『テイスト・オブ・ラオス』】

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