ラオスを思い出すための服
ສະບາຍດີ(さばいでぃー、こんにちは) JICA海外協力隊としてラオスで活動中、例のウイルスの影響を受けて一時帰国を余儀なくされ、延長に延長に延長に延長を重ねて現在も絶賛待機中の、ラオスのラオ子です。
ちょっとラオス関連のことで気分がブチあがってしまったので、とりとめなく残しておきたいと思います。
そう、それは2020年の3月中旬、もう1年半も前のことです。その時まだ私はラオスに居ました。SNSで、他国で活動中の隊員の「コロナの影響で日本に帰りました」の報告を見る機会が増えはじめていたころ。感染者ゼロでがんばっていたラオスも、「全世界の協力隊員、一時帰国せよ」との命を受けて、例外なく一時帰国が確定してしまいました。帰国予定日まではまだ1週間ほど余裕があったので、一旦上京して、任期満了で一足先に日本に帰る先輩隊員のお見送りをして、そのあと首都からビエンチャン県の任地に戻る乗り合いタクシーの中で、事態は急変。事務所からのメールには、明日の晩に出国が早まったと書かれていたのです。それから、生産者さんや大家さんにしばしのお別れを伝えたあと、悲愴感と闘いながら夜逃げのように荷造りをしました。
このどたばた一時帰国の荷造り、「どうせ3か月もしたら戻れるやろう」という甘い考えと、「でも、もし戻れんかったらどうしよう」という不安が浮かんでは消え、浮かんでは消え。本当は後者がずっと頭のなかに居座っていたのですが、1800名を超えるJICA海外協力隊一斉帰国という未曽有の事態に絶望しないために、「突然の一時帰国や~こんな真冬にどうしようwww」と楽観的な自分を無理やりつくっていたのかもしれません。
だから、荷造りのとき、任期満了で帰国であれば「もって帰るもの」「捨てるもの」「あげるもの」ぐらいにしか分けない荷物を、「ラオスに戻ったときに使いたいからそのまま置いておきたいもの」のほかに、「本当に大切だから持って帰りたいもの」「絶対に迎えにくるからあえて置いておきたいもの」など、ややこしく色々仕分けして、結局ほとんどラオスにほっぽってきたのです。(所員のみなさま、家の引き上げの際は大変ご迷惑をおかけいたしました。)
そして、まともに仕分けできないまま持って帰ってきたものの中に、数枚の布がありました。その中に、”うあいちゃっぷ”の布がありました。「うあい」はラオ語で「お姉さん」、「ちゃっぷ」は人の名前、つまり「ちゃっぷお姉さん」の布です。
うあいちゃっぷは、首都ビエンチャンから東の方向に約330キロ、ベトナムの県境のちょっと手前の村に住む生産者さんです。その存在は、先輩隊員のなほちゃんから聞いていましたが、直接会うのはこのLao Handicraft Festival 2019(ラオスで年に1度行われる、国内最大級の手工芸の展示販売会)が初めてでした。
先輩隊員のなほちゃんは、私と同じコミュニティ開発隊員として、県庁機関にあたる産業商業局のなかで一村一品に関わる活動をしていました。私よりも1年先にラオスに赴任して活動していたにも関わらず、私が着任したとき、「前職での経験を調整員さんから聞いて、話を聞きたかった。いろいろ教えてほしい」と言ってくれて、なんて柔らかくて優しい人なんだろうと思ったのが、最初の印象でした。
このイベント期間中、なほちゃんとうあいちゃっぷはまるで親子か姉妹のようで、丁寧に関係を築いてきたのがその雰囲気から十分に伝わってきました。私は二人の様子を見て、自分の任地の生産者さんともこんな風になりたいと強く思いました。
約50の民族が存在するラオスで、それぞれの生活や文化がつくってきた手工芸品に囲まれて過ごした、Lao Handicraft Festival 2019。9日間で感じ取り、刺激を受けたことはたくさんありましたが、その中でも、うあいちゃっぷに会えたこと、そして二人がつくってきた関係をほんの少しのぞき見できたことは、大きな収穫になったといえます。
さて、このイベントの最後の日、9日間お世話になったお礼の気持ちをこめて、うあいちゃっぷから1枚のシンを買いました。シンというのは、ラオスの巻きスカートです。シティの若者はどんどんシン離れしていると生産者さんは嘆いていましたが、それでもラオスの女性は、あらゆる正装、たとえば冠婚葬祭や仏教行事、学校や仕事の制服、普段着など、様々な場面でシンを履きます。
自分で好みのシンを選ぶと、色の系統が似たようなものばかりになるので、うあいちゃっぷに「わたしに似合うものを選んで」とお願いしました。うあいちゃっぷは、迷うことなく、この鮮やかな緑のシンを選んでくれました。うあいちゃっぷはゆったりのんびりしたお姉さんで、口数多いほうではないので、わたしの腰にこの布をあててじーーーっと見た後、「がーーーーーむ(綺麗よ~)」と言ってくれました。
ラオスに居るあいだ、わたしは、この布を何かに仕立てることはありませんでした。それは、大家さんのセンスがきらりと光るま緑色の客間で、テーブルクロスとして使いたかったから(上の写真参照)、という理由もありますが、なんでもかんでもシンに仕立てず、もっとたくさんの布や服に触れて、何かアイデアが浮かぶのを待ちたいという思いがありました。
そして、そのアイデアが浮かぶ前に、私は日本に帰ることになりました。日本に持って帰ってきた大切な荷物の中には、各地で集めた宝物と共に、この布がありました。ラオスロスで沈んでばかりいた私は、早く何かの形にしてこの布を纏いたかったのですが、趣味とも呼べないナンチャッテな縫製しかできない私にはこの布にハサミを入れる勇気がなくて、ずっとそのままにしていました。
その布を、なほちゃんに託しました。ラオスのコミュニティ開発隊員で手工芸関連の活動をする隊員なら誰もがぶち当たる、「もっとじぶんにモノ作りの技術があれば」の壁を、見なかったことにせず、忘れもせず、大切に日本に持って帰ってあの頃の気持ちと向き合い続けている、なほちゃんに。縫製を学び、ブランドを立ち上げて、うあいちゃっぷと共にあゆみ始めた彼女に縫ってもらうのを、この布もきっと待っていたんだと思います。
ほんとうなら、シンの仕立て屋さんに行ったときみたいに、この丈はガーム(綺麗)だの、あんまり長くしすぎるとボーガーム(美しくない)だの、キャッキャいいながら採寸してもらいたかったところですが、このご時世につきセルフ採寸で我慢。多少ウエストでサバを読みながら、できあがるのを楽しみに待ちました。
それから数か月経って、なほちゃんと再会したとき、彼女は自分が立ち上げたブランドのロゴが入った小さな紙袋を渡してくれました。その中にはもちろん、うあいちゃっぷのシンで仕立てたスカートが入っていました。
鮮やかなグリーンを基調に、色とりどりの絣。綿の手織り布は、風をまとうような軽い着心地です。ちょっと厚めのティンシン(裾布)がついているおかげで、裾部分がふわっと膨らんで、全体の絣模様もよく見えます。
私にはこれが似合うと、うあいチャップが選んでくれた布。その布の魅力を最大限引き出すために、なほちゃんが考えて考えて仕立ててくれた一着。最近どこに行くにもこれを着ていて、「ラオスの布?かわいい~」と言ってもらえるたび、ここまでの流れをすべて説明し、あふれ出るラオスへの愛を全力で伝えています。
実は、シーケミー(化学染料)を使った染色を、「自らの文化を壊すもの」なのではと思ったときもありました。この、シーケミーにしか作れない鮮やかなピンクや紫をつかった表現もアリなのではないかと、肯定的に見られるようになったのは、うあいちゃっぷの布のおかげです。ムーイ族がもつ色彩感覚や世界観、その表現の幅を広げる手段としてシーケミ―を使うのであれば、それはきっと正解なのでしょう。
(もちろん、環境負荷や伝統の継承といった観点から、天然染色の価値は高まっていってほしいと願っています。これは、うあいちゃっぷが作った自然の染色液。彼女は天然染色のスペシャリストでもあります。)
もう少し遡って、2019年12月、まだコロナの存在が対岸の火事にすらなっていなかった頃。うあいちゃっぷの故郷であり、なほちゃんの任地だったボリカムサイ県の県都パークサンを訪れたことがあります。当時まだ協力隊としてラオスに居たなほちゃんと、うあいちゃっぷ、そして同期隊員の、夢のコラボレーションにより実現した子供向け天然染色体験を見学するためです。
ボリカムサイ県は、東部と西部に2つの国立自然保護区を有する自然豊かな場所でありながら、首都ビエンチャンからベトナム中部に抜ける主要道路が通っている中継地点でもあるので、パークサンはとても栄えていました。
昼間のパークサンは、とにかく”活気のある街”という印象でしたが、陽が落ち始めると、南側の県境になっている雄大なメコンの向こうがわに、タイの人たちの生活がゆらゆらと揺れているのが見えてきました。うあいちゃっぷが染めるやさしい緋褪色のような空が、こんどは何度も何度も染めたような深い藍の色になり、最後は真っ暗になって・・・その様子をぼんやり眺めただけなのですが、わたしはこの街のことが大好きになりました。たった2日間の滞在でしたが、ここには私の任地にはない表情があって、改めてラオスめっちゃええなあ、って心の底から思ったのでした。
なほちゃんがかたちにしてくれたのは、この気持ちをまとっているような、ラオスでのあたたかかった日々に包まれているような気持ちにさせてくれる服です。スカートを見るたび履くたび、ラオスが恋しくなるけど、きっとラオスに戻って、このスカートをうあいちゃっぷに自慢するんだ、と明るい気持ちにさせてくれます。「うあいの妹が仕立ててくれたんやで、がーーーむやろ???」って言ったら、きっとうあいちゃっぷは「がーーーむ」って言ってくれるはず。このままいけば、9月下旬にはラオスでの活動を再開できるはずなので、私は日々このお気に入りのスカートで気分をあげて、その日が来るのを待ちたいと思います。
ちょっと宣伝。なほちゃんのブランド、こちらです。
うあいちゃっぷが自然の染料で染めたコットンをなほちゃんが仕立てた、かわいいトップスが買えます。ぜひ。
実は、うあいちゃっぷのシンと別に、もう一着分布を預けていて、そのシンも素敵に仕立ててくれました。うあいちゃっぷのシンはウエストゴムでふんわりゆったり履けるタイプですが、こちらはウエスト部分がチャックになっていて、すっきりしたシルエットでとても良い感じ。
この布について語ろうと思うと、ここまでの文章量かそれより多いぐらいの記事になってしまいそうなので、簡単に。これは、わたしが一番仲良くしている生産者さんがくれたバンビエンのシンです。裾布部分の模様がお気に入り。おそらく鹿と思われる動物が裾布1周分チュッチュしてます。
この生産者さんを最初に視察した時は、カウンターパートが同行してくれましたが、そのあとバイクを手に入れて初めて一人で活動に行き、丸一日生産者さんと一緒に過ごした後に「これから頑張ろうね」とくれたものです。これも、どうしていいか迷って迷ってそのままにしていましたが、なほちゃんに預けてこんなに素敵なスカートになってくれたので、チャックが悲鳴をあげるまで履きたいと思います。
なほちゃん、わたしの大切な布たちを素敵に仕立ててくれて、本当にありがとう。
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