恋沼勘違い片想〜サクラと梅〜
小説【恋沼】さくらと梅
雪が今にも降ってきそうな天気。
肌寒くなってきた。
急行電車で3駅ほど行き、
普通電車へ乗り換えひと駅。
商店街でネギと豚肉を買う。
商店街の肉屋
『おまけに鶏肉もいれておくよ』
『ありがとう、おじいちゃん』
今日はなんかついてるなぁ。
と思いつつ、
一度会ってから連絡パタリとこなくなった、
あの人についてモヤモヤしていた。
サクラ
『会ったら違ったんだろうな。ちぇっ』
もう恋なんかするもんか。
もう傷つくのは怖すぎる。
哀しみに絆創膏を貼るのはごめんだわ。
足元をみながら、ぼーとしていたら、
道に迷ってしまった。
サクラ
『ここはどこの細道なのかしら?』
細道の先に猫が一匹いた。
サクラ
『猫さん、ここはどこなのかしら?
商店街はどちら?』
猫を追いかけ、細道を進んだ。
暗闇の向こうにかすかに光がみえた。
『うっ眩しい。ん?』
すると、庭についた。
そこには綺麗な髪の長い優しそうな
女性がひとり。
彼女
『いらっしゃい』
彼女はゆっくり微笑んだ。
サクラ
『すみません。迷っちゃって』
サクラ
『あっ猫さん。こちらが猫さんのおうちだったんですね』
猫はすまし顔で彼女の足の下にいる。
彼女
『うちの梅さんなんです。
梅さんが連れてきたお友達ね』
彼女
『だったら、これも何かのご縁。
お茶でも飲んでいったらどうかしら?』
私はうなずき椅子にこしかけた。
彼女は抹茶を品よくしたたてくれた。
彼女
『どうぞ』
彼女はストーブを用意してくれた。
さらにひざ掛けまでもだ。
私が彼女だったら、
あの人は好きでいてくれたのかしら?
心がモヤモヤして、
それから彼女に恋愛の話をした。
おかしなもので、
知らない人だからこそ
人にいえない恋沼を話せる
女性特有の話方なんだよなぁ。
彼女は深く頷いてこう言った。
彼女
『恋愛をすると脳が
麻薬のようなものがでるそうです。
だから、あなたが我を忘れて
恋沼にハマってもそれは致し方ないこと。
麻薬には抵抗できなくて当然なのですよ』
縁側で彼女と話す時間は、
私の心を癒やしてくれた。
彼女は私にこういった。
彼女
『あなたは彼が好きだったのか?
彼が好きな私が好きだったのか?
どちらなのかしら?』
彼が好きだったつもり。
ん?
ん?
冷静に考えてみよう。
恋酔をしている私が、
好きだったのかもしれない。
恋という幻想を見たかっただけかもしれない。
相手のことを考えていないオナニー恋愛。
どうりで振られるわけだ。
考えれば考えるほど、
虚しくなっていった。
彼女は私の気持ちを察知したようで、
抹茶をつぎながら、
私に抹茶と言葉をプレゼントした。
彼女
『片想いでもね、
誰かを想えることは素敵じゃないかしら。
とてもいい経験をしたのね』
彼女の一言で心の氷が溶けて、
涙となり頬を落ちていった。
彼女
『泣くほどお好きだったのでしょう』
『泣いていいのよ』
彼女は大きなタオルを私へそっと渡した。
嗚咽をあげながら、
しばらくサクラは泣いた。
梅はサクラの足元でそっと寝る。
何も言わずにただそばにいる。
サクラ
『日も暮れるから帰るわ。今日はありがとう』
彼女
『また、いつでもおいでくださいね』
サクラはペコリとおじきをした。
サクラは軽くなった心で帰宅した。
もう道は真っ暗で雪もしんしんと降っている。
サクラ
『寒っ』
さきまでは温かったのは、
嘘のよう。
こんなに寒かったのかと、
かじかんだ手をこする。
サクラ
『ただいま』
ガチャ!
部屋を開けると、いい匂いがしていた。
サクラ
『わぁーいい匂い♪』
龍太郎
『今日は寒くなったから、煮物だよ』
サクラ
『龍太郎の煮物が私のお気に入り♪』
『今日はついてるなぁ』
テーブルに座り、箸をもつサクラ。
龍太郎はお皿を並べている。
『龍太郎、大好き』
ふくよかな彼を抱きしめる。
彼の汗のにおいをかぎながら、
肌を触る。
女は平然と目を見て、嘘をつく。
外で猫の梅がそぉっと、
その様子をみている。