The Shangri-Lasの不良少女の純愛
The Shangri-Lasについて、60年代という時代背景を考えれば素行の悪い不良少女とみなされていた。
彼女たちの学曲の主題は、甘酸っぱいティーンエイジャーの恋愛の歌という訳ではなく、多くが失恋や思春期の葛藤、嫉妬や悲しみをテーマにしている。
代表作である『Remember (Walking in the Sand)』は、世界中でもヒットし、日本では『リメンバー~渚の思い出』という邦題でヒットした。
この曲を聴いた時、私は衝撃が走った事を覚えている。
60年代のよくあるガールズコーラスグループだろうと思っていたのだが、頭を殴られたような感覚だった。
まず、その楽曲の完成度の高さと、カモメの声のSEとともに歌いあげられるリードボーカルのMaryによる恋人は変ってしまった、という悲痛なストーリーだ。
しかし私はこれがありふれた失恋の歌ではないと思っている。
どうにもこの曲の背景に浮かぶのは、戦争で旅立ってしまった恋人が主人公であるMaryを忘れ(あるいは死んだか)恋人からの手紙が届かなくなった、という情景が浮かぶ。
The Shangri-Lasが不良少女のイメージがもっとも印象強い曲といえば『Leader of the Pack』、『I Can Never Go Home Any More』、『Give Him a Great Big Kiss』である。
特にこの四曲はバイカーの荒っぽい恋人、少女の家出などがメインである。
『Leader of the Pack』に関しては、60年代、イギリスでもサンディー・ショウのライバルといわれたトゥインクルも『Terry』というバイカーの恋人をテーマにした曲を出している。
個人的にはTerryよりもLeader of the Packの方が完成度が高いような気がするが…。
とにかく、この曲のオチには誰しもが驚いただろう。
恋人が死んでしまうのである。
『I Can Never Go Home Any More』では更に主人公であるMaryの不幸は続き、こちらは一目惚れした恋人と刺激が欲しくて駆け落ちをするものの、母の死の知らせを聞きつけたMaryが家に戻ると、母は既に死んでおり後悔をしている。
しかしそんなMaryにも『Give Him a Great Big Kiss』では幸福が訪れる。
意味は「彼にでっかいキスをしようぜ!」という意味である。
荒っぽい不良の男の子を好きになり、「長いくせっ毛の髪も/彼のゴワゴワしたセーター/汚い爪もうっとりしちゃう/なんて素敵なの」
「街で彼を見かけたら/でっかいキスをしちゃう」と少女らしい純愛がつまった一曲である。
60年代という時代は、女性蔑視も残る時代で、ましてや女性から男性にこんなに大胆にアピールをするのは「下品」とされるような時代である。
親たちはティーンエイジャーの子供たちが彼女らのレコードを持っていたら悪影響になると考えただろう。
The Shangri-Lasの特徴でよく言われるのが、芝居がかった台詞とSE、そしって決して上手いとは言えないが純粋さにあふれるとがったボーカルである。
確かにThe SupremesやThe Chiffonsなどと比較すると高校のコーラスグループレベルだと人によっては思うかもしれない。
しかし、そこが彼女たちの素人っぽさが良い意味で残っているからこそ、The Shangri-Lasというグループの魅力が成りたつのだ。
プロレベルのグループに思春期の悩みや苦痛、失恋を歌われても心に響かない。
The Shangri-Lasの良いところは、彼女たちがプロレベルの歌唱力ではないからこそ、歌詞のメッセージ性が強くなるのだ。
The Shangri-Lasといえば、非常に有名なのが『Past, Present and Future』がレイプに関する歌だと言われ、フェミニズムの歌とされている事である。
Mary Weissはこれに関して「よくある思春期のロマンチックなデートと失恋の歌」と言ってはいるが、歌詞の内容も「過去、さて過去についてお話しましょう/過去は静かな喜びと壊れたおもちゃで満ちている」「もう二度と起きないと思う」となるほど、そう考えられてもおかしくない歌詞である。
しかし、私が考えるにセンセーショナルな歌を出してきた彼女たちであるのだから、これも過去の楽曲以上の捉え方によってはショックを聴き手に与ええる事を狙ったのではないかと思う。
The Shangri-Lasは残念ながら1966年に過去に所属していたレコード会社が倒産し、マーキュリーレコードに移籍をするもチャートインする曲がもはや少なくなり1969年に解散し、メアリー・アン・ガンサーに至っては1968年に薬物やアルコール依存症で22歳という若さで亡くなっている。
私自身もThe Shangri-Lasのファンなので、非常に悲しいと思っている。
The Shangri-Lasというグループは、70年代に差し掛かる前に解散してしまっっているが、彼女たちの歌声は今も時を超え、「大丈夫?すごく悲しいわよね。でも、安心して私たちがついているし、あなたは一人じゃないわ」と何時間でも聴き手の心を慰め、抱きしめ、寄添ってくれる存在なのだ。
だからMary Weissの歌声は、涙を誘うと私は思うのだ。