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Joy Division 繊細すぎたウェルテルを引き裂く二つの愛


真ん中のカーキ色のシャツを着ているのがイアン・カーティス。
彼の死後は残ったメンバーの三人がのちのNewOrderとなる。


まず、正直に言おう。
Joy Divisionなんて私は一生聴かないタイプだと思っていた。
なぜかと言うと、ああなんかあの有名な図柄のバンド?くらいの認識だったからである。
しかしこれは今回の記事で謝らさせてもらう。
それはJoy Divisionがこんなにも素晴らしく、私の大好きなThe Smithsとは違った繊細さを持つバンドだったからである。
Joy Divisionの事は、彼らの楽曲を聴いた事がない人でもファーストアルバムである『Unknown Pleasures』のシンボリック的なパルス波の図柄でありユニクロのTシャツや各企業とコラボされているので見たことのある人もいる事だろう。
もう一つは(ほぼイアンのであるが)映画「control」でその存在を知った人もいると思う。

私は後者の映画からイアン・カーティスの詳しい生い立ちやJoy Divisionの楽曲を知ったタイプであるが、ファーストアルバムの『Unknown Pleasures』は1979年6月15日に発売された。
映画の中で彼らの楽曲が当然の如く使われていたが、私は脳天をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
もちろん、それは彼らのバンド名の由来も理由である。
Joy Divisionとはイアンがつけたナチスの慰安婦の収容所の名前なのである。(もろにヒトラーユーゲントのプロパガンダポスターを想起させるジャケットのEPもある)
このタイトルの意味は「言い知れない喜び/未知の喜び」である。
タイトルに反して、楽曲は全て暗い。
特にその暗さが目立つのが、『Disorder』と『Day of the Lords』そしてあの代表曲である『She's Lost Control』であろう。
『Disorder』、ずばり障害という意味である。
イアン・カーティスがてんかんを持っていたというのは有名だろう。
彼の代名詞になっていたあの動きは実はてんかんの発作からくるものだったのだ。
例の映画はどこまでが真実かはわからないが、70年代~80年代といえば、現代医療ほど特効薬ができていない。
そのため、イアンはまるで実験動物のようにあらゆる種類の薬を処方されていた。
しかし、その薬は彼をますます苦しめるだけだった。

私がイアン・カーティスという人間に対して彼がとても繊細で優しい心の持ち主だと知ったのは、『She's Lost Control』が彼の担当していたてんかんを持った少女が亡くなってしまった、という知らせを受けて作られた曲であるという事だ。
不謹慎だが、モリッシーとイアンはどちらも障害のあるファンまたは人間と接しているが深く寄り添う訳ではなく、遠くから静観するようなモリッシーと、自己責任だと自分を追い立て、深い悲しみに浸るイアンはまさに対極的で面白い。
三国志でいえば、諸葛亮と司馬懿というところであろうか。
イアン・カーティスは元々、障害者の職業安定所で働いていた。
その部分は映画でも描写され、彼が一人一人にまっすぐ向き合う姿にはイアン・カーティスという人間を明確にするキーとなっていた。

ある意味では、Joy Divisionの遺作となってしまったセカンドアルバムの『Closer』では前作と違って一曲目の『Atrocity Exhibition』はステーヴン・モリスのドラムがまるで東洋の踊り子を思い起こさせるように縦横無尽に暴れ回る。
『Closer』とはより近い、という意味で名付けられたアルバムであるが、このアルバムは全体的にイアンがリラックスして音楽を楽しんでいるように思える。
そのどの曲もが、もはやイアンの遺書とも思えるのだから驚きだ。
2曲目の『Isolation』は完全にNewOrderのサウンドである。
しかし、イアンのボーカルスタイルは安定している。
イアン・カーティスは周囲が思う以上に複雑だ。
Nirvanaのカート・コベインと同じタイプだといえばわかりやすいだろう。
そしてこのアルバムは名盤とのちに語り継がれる事となる。

そして彼らをもっとも有名にしたのがあの名曲『Love Will Tear Us Apart』である。
この発売後の二週間後にイアンは自殺しまうのであるが、この曲はある意味原点回帰を図ったように思われる。
『Unknown Pleasures』より更に研ぎ澄まされたサウンドになり、歌詞もストレートに「僕を助けてくれ」と言っているようだからだ。
これには背景があり、イアンはこの当時愛人問題で、妻のデボラとの離婚が決まっていたからである。
特にイアンが彼の妻との仲について書かれている部分が『なぜ寝室は冷えてしまったのか?』『お互いのリスペクトは冷めたのか?』とまるでデボラにうなだれて訊ねているような歌詞であるが、3番目の歌詞では完全にわかりやすく、聴き手に自分が抱えている苦悩をストレートにぶつけてくる。
その部分が特に『君は眠りながら泣き叫び/僕の欠点を露呈した』という部分だ。
デボラと愛人に挟まれ、拒絶されたイアンが苦悩するのが目に浮かぶようだ。

『Love Will Tear Us Apart』が素晴らしい曲であるのが、歌詞だけではなく、アウトロの部分で静けさのようなシンセサイザーと連打されるドラムのリズムである。
どこまでも力強く、タイトル通りの愛の引き裂かれる瞬間を思わせる。
ジャケット写真の、イタリアの霊廟に設置されている悲しみに嘆く天使像はイアン・カーティスそのものである。
しかし、悲しい事にイアン・カーティスはこの曲のリリース直後に自殺をしてしまう。
それも、首に縄をかけ、巨大な氷が溶けていくのを待つという残酷すぎる方法で。
モリッシーがJoy Divisionの本が発売された時にテレビでコメントしていたが、「なぜ彼の死を隠す?まるで彼がいなかったみたいじゃないか」と一種の怒りをあらわにしていた。
これには全く私は同意した。
イアン、みっともなくなっていいじゃないか。みっともなくても、生きて、君の好きな事をすればいいし、誰も君を責めたりしない。
そんな気持ちがモリッシーから伝わってきた。
人間嫌いのモリッシーにも、イアンの自殺が打撃を与えたに違いない。
しかしどちらも労働者階級の出身で、文学青年というのは不思議な共通点である。
実際、同番組でJoy Divisionを良きライバルとして見ていたようなコメントをモリッシーはしていた。

イアン・カーティスというのは、早すぎた天才ゆえにウェルテルとなったのかもしれない。
もし、イアンが生きていたらどのみちJoy Divisionは解散になっていたかもしれないが、イアン・カーティスはソロで活動していたかもしれない。
そんなもしも、の未来をJoy Divisionは常にそのサウンドから思い起こさせる。



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