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vacations The Smithsから産まれた反抗児


左から左端がリードギターの Nate Delizzotti、二番目がバンドの創始者であるCampbell Burns、右端がベーシストのJake Johnson、そして一番奥にいる背の高い男がドラマーのJoseph Van Lierである。

最近、60年代~80年代中心だったので、たまには現代のバンドも取り上げようと思う。
このバンドとの出会いはそもそも、某ファッションセンターの有線BGMで流れていたからだった。
私は音楽の趣味は多種に渡って好きなので、Lo-Fiやchill系なども聴くほうだ。
涼やかなギターの音、ゆったりとしたボーカルの伸びやかな声、無駄のないサウンドにふと惹かれ、某音楽検索アプリで調べたのがvacationsとの出会いだった。
最初に聴いた楽曲は彼らの代表曲といってもいい、ファーストアルバム『Changes』収録の『moving out』である。
「この家はめちゃくちゃで崩壊している/自分の銀行口座の事を考えると怖くなる」
この歌詞に私は一発でノックアウトされてしまった。
なんだこれは、もしもThe Smithsが現代のバンドだったらというパロディではないかというのが正直な感想だった。
PVでは、ボーカルのCampbell以外のメンバーが引っ越しの荷造りをしたり、テレビゲームで遊んだりしてはしゃいでおり、特に着飾ったり、いかにも「肉食」でありがちなメンバーがブロンド美女をプールサイドではべらせ、「俺は女にモテる」だの「かわいいあの子とセックスしたい」だのという歌詞でもない。

vacationsについて調べてみると、彼らはオーストラリアを活動拠点としている、インディーズバンドでSpotifyでファーストシングルの『young』が昨年の6月の時点で4億2000万回以上再生され、オーストラリアを代表するインディーズバンドとなったらしい。
vacationのはじまりは、Campbell Burnsが2015年に自身のtumblerアカウントに『sad boy songs』という楽曲をアップロードしたのを彼の親友であるJake JohnsonがリードギターのNate DelizzottiとドラマーのJoseph Van Lierに声をかけたのがはじまりである。
なるほど、若干にThe Smithsの結成秘話である、Johnny MarrがMorrisseyの家を訪ね、究極の俗世・もしくは人間嫌いの引きこもりのMorrisseyにバンド結成を持ちかけたというあの話と似ている。
The SmithsのMorrissey/Marrが荊の同盟なら、vacationsの荊の同盟はBurns/Johnsonである。
さきほどの『moving out』の話に戻るが、メンバーはあるがままの姿を見せ、そしてゆったりと野外で演奏しているシーンでこのPVは終わる。
他の『Home』や『Relax』にしても、シンプルを極めたPVである。

vacationsはThe Smithsの再来と日本でも取り上げられている。
特にその影響が分かるのが、ファーストアルバムの『Changes』で、全体的にシンプルなサウンド、シリアスな歌詞がまさにThe Smithsである。
The Smithsのファーストアルバム『The Smiths』は、歌詞がMorrisseyの個人的な日記と言われていた。
比較してみると、確かにvacationsも「僕は心の平穏を求めているけど、不安なままなんだ」と訴える『moving out』、恋人からの電話が来ないと電話機の効果音からはじまる『Telephone』など、Campbell Burnsの個人的な感情を吐き出しているように思えるし、特に『steady』はNateのギターやJosephのドラムがJohnny Marrの無駄のない洗練されたギターサウンド、Mike Joyceのシンプルながらも存在感のあるリズムの影響を強く感じる。
しかしvacationsは一つだけオリジナリティがある。
それはよりゆったりとしたいわゆる「Lo-Fi」を特色としたサウンドである。
Lo-Fiは現代の音楽で、いわゆる「作業用BGM」の一種で、hiphopの要素を取り入れたLo-Fi hip hopというジャンルもある。
いうなれば、肩の力を抜いて日暮れを眺めながらゆったりと読書するようなタイプである。

そんな現代的なエッセンスを、vacationsは取り入れている。
セカンドアルバム『Forever in Bloom』収録の『Lavender』はイントロは『William, It Was Really Nothing』を彷彿とさせ、間奏は『There Is a Light That Never Goes Out』のような雰囲気で、CampbellのボーカルスタイルもMorrisseyのようである。
歌詞も『これを他のものと変えるつもりはまったくないよ/僕は自分の選択をしたことを分かっている/もう後戻りはできない』
と現代版『There Is a Light That Never Goes Out』のような、刹那的で詩的な
Campbellが聴き手に語りかけている。
vacationsは通常ならどんな先輩バンドに影響を受けたか書くものだが、その表記は彼らのホームページにもない。
最もすごいことは、彼らがファーストシングルをレーベルの助けも借りず自分達の手で宣伝し、完売した事である。
しかし、vacationsとは正反対にもっともThe Smithsの影響を感じ取れるのはThe Rare Occasions(これもインディーズバンド)の『Notion』であろう。
こちらは歌詞が非常に鋭く、宗教という不安定な概念について皮肉な風刺をしており、Morrisseyの切れ味そのものである。
余談ではあるが、『Notion』もまた名曲で、『祈っている間に海を渡れよ/とたえ人生で陽の光が当たる事がたった一瞬でもいいじゃないか』という歌詞が私は好きだ。

最新アルバムの『No Place Like Home』がリリースとされたというのを見て早速サブスクで聴いてみたが、Campbellは強迫性障害であると診断され、アメリカに引っ越したと書いてあるのを見た。
歌詞は全曲に渡って、Campbellの苦しみ、痛み、苦悩が反映されているがJoy Divisionのように閉塞感はなく、むしろ開放的なサウンドである事に驚いた。
vacationsはThe Smithsを尊敬しつつ、「そんなに人生に深刻になる事はないじゃないか、もっとリラックスすればいいのに」と背を向けて、彼ららしいオリジナリティを完全に創造している。
私は彼らがいつかメジャーデビューしないかと思っている。
vacationsは「某ファッションセンターの有線BGMで流れているなんとなく良い雰囲気の曲」ではなく、もっと彼らの素晴らしさを知ってほしいからだ。
彼らのYouTubeのアカウントトップに、「「家」は必ずしも文字通りの場所ではない。「家」は、内なる平和とシンプルさを表すこともある」と書いてあるが、まさに「moving out」をしていて、彼らの内なる平和がある場所を探している。
だからこそまさに「vacations(休暇中)」なのだ。

今回は彼らの情報が少ないため、(Instagram、Tik Tok、YouTube、X含む)おまけとして『Forever in Bloom』の宣材写真を載せる事とする。
どこかThe SmithsのThis charming manを彷彿とさせるのが良いと思う。

 




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