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やはり、と言う印象しかない「EUDRの一年延期」
欧州委員会が、EUの森林破壊防止規則(EUDR)の施行の移行期間を1年間延長することを提案したようです。
この法案は、森林破壊につながる高リスク品目とされている大豆、家畜、パーム油、コーヒー、ココア、ゴム、木材をEUに輸入する際、それが森林破壊を伴っていないことを証明する必要がある、というものです。それだけではなく、それらを生産している農地のポリゴンデータの提出も必要となっていました。
大企業では今年12月30日までに、中小企業では2025年6月30日までに、デューデリジェンス要件を遵守する必要がありました。
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この法案が提示されて以降、農産物生産地では大きな反対運動が起こっていました。
EUDRを満たすことは、現時点では小農園には負担が大きすぎるからです。
日本の農家ですら農地のポジゴンデータなど持っていないはず。まして、途上国の小農園が、敷地境界をデータ化する能力も、予算も持ち合わせていないのは誰にでもわかるはず。
たとえは、下記のような記事があります。
ロイター 焦点:コーヒー企業「アフリカ離れ」も、EUが森林破壊防止法
https://jp.reuters.com/world/europe/7BOYT7TYOBIEBJONGE7HW7KTTQ-2024-01-01/
欧州のサステナブル規制に身構えるカカオ豆生産国
https://www.swissinfo.ch/eng/business/west-africa-braces-for-tough-sustainable-cocoa-rules-in-europe/47713236
農産物生産国が強固に反対するのは当然のことです。
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このような規制が実施されたら、どうなるか。
対応できない小農園はEU市場を失い、その代わりの市場として、ロシア、中国、中東向けに輸出することを考えるでしょう。
しかし、これらの国々はサスティナビリティには無関心です。
よって、EUのサスティナブルな規制に対応するために努力をしていた小農園は、その取り組みをやめてしまうことになります。
本来、サスティナビリティを求めた規制が、生産地の自然を棄損してしまう訳です。
なぜ、こうなるか。
EUが、EU内のサスティナビリティにしか興味がないからです。生産地の意見を聞く気がないからです。
彼らは、規制によって生産地にもサスティナビリティを強要できると主張していますが、規制を作るだけで、なんら支援をする気はありません。
結果、規制によって生産地の自然が棄損されることになり、且つ、EUは非常に高い農産物を買うことになるのです。
ネスレ、モンデリーズといった大手企業、レインフォレスト・アライアンスなどはEUDR延期に反対していますが、彼らが対応した小農園は、世界中の小農園の僅かな割合しか占めていないはずです。
サスティナビリティは重要です。
実際に、これら高リスクコモディティーと言われている農産物によって、森林が破壊され、
GHGが大量に排泄されていることは事実です。
商品化による森林破壊と泥炭地の減少はドイツよりも多くの炭素を排出している
https://globalcanopy.org/insights/insight/commodity-driven-deforestation-and-peatland-loss-emits-more-carbon-than-germany/
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だからこそ綿密で目配りした対応が必要なのに、常にEUは上から目線で準備不足の規制を決め、結果、失敗を続けています。
今朝の日経新聞にはEVについても同様の失敗をして、EUの重要産業である自動車産業の弱体化を招いていることが報道されています。
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保護主義が招くEV不況 中国勢突出、摩擦生む 安い電池作れず排除裏目に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241004&ng=DGKKZO83882950T01C24A0EA2000
「EUの規制によってサスティナビリティを推進し、サスティナビリティで先行している対応したEUが市場を席巻する」という今では通用しない理論を、そろそろ疑ってほしいと思うのは私だけでしょうか?
影響を受ける生産地の人々に参加してもらい、議論し、決定に関わってもらうこと。
ランドスケープ・アプローチのこの考え方が、解決策だと思います。