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CSRD/CSDDDの大幅な簡易化の可能性

EU委員会は、来週発表予定の「競争力コンパス」報告書草案の中で、いわゆるオムニバス草案の大幅な簡易化を提案するようです。
Responsible Investorが、漏洩したものを閲覧したという「競争力コンパス」報告書草案の中で述べられていたとのこと。(既にPDFが出回っています)
基本的な考え方として、「投資家のニーズ」に対して、「釣り合いの取れたスケジュール」で、「最も重要な課題の解決に絞る」とのこと。特に、中小企業が付いて来れるような配慮を行うようです。

https://www.responsible-investor.com/first-details-of-eu-omnibus-plans-emerge-in-leaked-draft-commission-report/?utm_source=newsletter-daily&utm_medium=email&utm_campaign=ri-daily-bronze&utm_content=24-01-2025

この考え方は、極めて妥当だと思います。
要はアジャイルでいくという意思表明と受け止めました。
投資家がサスティナビリティに向けた要求を企業に行うことは当然の権利だと思いますが、一方で求めた開示内容を十二分に活用できているのか、と言えば大きな疑問を持っています。
そもそも、それを活用できる人材と人員が投資家側に揃っているとは思えません。決して彼ら全員が問題の起こっている現地へ行き、自らの目と耳で確認して発言しているのではなく、多くの投資家はきれいな欧州のオフィスで、誰かが書いたレポートを見ながら議論しているだけのように見えます。
投資家側が企業のサスティナビリティ報告を十二分に活用し、社会全体、および投資先企業の持続可能性を吟味し、誘導するにも、彼ら自身が学ぶ時間が必要なはずです。

ここまで大きな譲歩をEU委員会が言い出しそうになった背景には、ドイツに続き、フランスがCSRDとCSDDDの大幅延期を正式にEUに要請したことにあります。

フランスは、CSDDDの「無期限の延期」も提案したようです。
CSRDについても、2年延期、中小企業への適用の更なる延期と、開示項目の大幅削減を要請しています。

フランスは提出書類の中で、
「欧州企業の競争力を向上させる強力な手段は、EUでの投資プロジェクトを促進するための行政手続きを簡素化および加速することだ。」
「延期は指令の改善に必要な時間を与えるものでなければならない」
と述べているそうですが、実はフランスこそが、いの一番にCSRDの国内法制化を行った国です。いまさら感も強く、あの段階でよく検討していなかった証左とも言えます。

EUが、この一連の環境法規を決議したときには、これらの首脳は、EUが世界を牽引すると本気で思っていたのでしょう。しかし、EVカーの失敗を見て、企業競争力を大きく毀損することに、ようやく気づいたのだとすれば、認知能力に疑問符が付きます。
環境を守ることは大事ですが、企業にこんなに大きな影響を与え、EU加盟国だけではなく、生産地まで大変な迷惑を掛けたことへの反省が必要です。

繰り返しになりますが、CSDDDが求めている内容とレベル感には賛成です。しかし、実現するには長い長い道を辿らなければ到達できない内容であることは自明です。実現するには適切な手順が必要なのです。過激な主張は必ず副作用を生じさせ、反対の大きな声を誘引します。その結果、本来は慎重に適用を進めれば到着できる一合目にすら辿り着くことも困難になり、場合によっては崖から転落することもあり得るのです。地球は広く様々な価値観と立場があり、且つ人は感情の生き物なのです。理屈だけでは人は動きません。
いきなりの大規模な法施行は副作用が大きすぎます。理想の姿と目指す方向をまずは共有し、アジャイルで、国も企業も生産地もついて来れるかどうかを確認しながら適切に範囲を広げ、レベルアップして行くべきです。