メタバースを「性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)」で考える-自分らしい生き方ができる社会への概念
皆さんこんにちは。マイノリティ・メタバースアイドルの蘭茶みすみです。今回は、私のメタバースでのコミュニケーションや在り方の自由に対する捉え方を、自分の性・身体のことを自分で決められる権利である、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)の観点からお話ししようと思います。
VRChatなどのいわゆるVRメタバース。自分の在り方を自分で決めて、自分らしい生き方を表現できるプラットホームとして、「メタバースブーム」のあとも文化的にユーザー中心の広がりを見せています。
自由なコミュニケーションと表現ができるメタバースでは、ユーザー同士での関心ごともコミュニケーションや表現が中心です。特にジェンダーに関する議論では、「お砂糖(メタバース上での恋愛関係やパートナーシップ関係)」や「Just (メタバース上での性的コミュニケーション)」、「バ美肉(メタバース上でのジェンダーを超えた在り方の表現)」などが話題に上がります。
メタバースとジェンダーに関する話題については、たびたびメディアで取り上げられるなど、社会的な注目度も高まっています。
人間にとって幸せなメタバース上でのコミュニケーションの在り方の自由とは何なのか。セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)という観点での捉え方がヒントになると思います。
セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)とは
セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ-Sexual and Reproductive Health and Rightsは、日本語で「性と生殖に関する健康と権利」と訳されます。1994(平成6)年にエジプト・カイロで開催された国際人口開発会議において提唱された概念です。
セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツは、すべての人にとっての、性の在り方と心身の健康、生き方を自分で決めることに関する大切な概念です。SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」や目標5「ジェンダー平等を達成しよう」においてもリプロダクティブ・ヘルス/ライツを保障することが記されています。
もともと、中絶の合法化を求める女性の自己決定権を獲得する運動の中で形成されてきた概念で、一部の国では人口管理政策として、女性への避妊や不妊手術が本人の意思を十分に確認しないまま行われてるとへの問題意識の高まりから重要視されるようになりました。
2018年には、各国の専門家により構成されるグットマッハー・ランセット委員会が、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツの新定義を発表。「性と生殖に関する健康(SRH)の実現には、性と生殖の権利を達成する必要がある」とされ、「プライバシー、性の多様性、性的パートナー、性行動の選択、子どもを持つこと」といった個人の人権の尊重が強調されました。思春期の若者など特に支援が必要な人がいることが明記されています。
「性と生殖に関する健康と権利」の4つの概念
セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツは、4つの概念を組み合わせてつくられています。
①セクシュアル・ヘルス
自分の「性」に関することについて、心身ともに満たされて幸せを感じられ、またその状態を社会的にも認められていること。
②リプロダクティブ・ヘルス
妊娠したい人、妊娠したくない人、産む・産まないに興味も関心もない人、アセクシャルな人(無性愛、非性愛の人)問わず、心身ともに満たされ健康にいられること。
③セクシュアル・ライツ
セクシュアリティ「性」を、自分で決められる権利のこと。自分の愛する人、自分のプライバシー、自分の性的な快楽、自分の性のあり方(男か女かそのどちらでもないか)を自分で決められる権利です。
④リプロダクティブ ・ライツ
産むか産まないか、いつ・何人子どもを持つかを自分で決める権利。
妊娠、出産、中絶について十分な情報を得られ、「生殖」に関するすべてのことを自分で決められる権利です。
メタバースと「性と生殖に関する健康と権利」
メタバースにおける在り方の自由やコミュニケーションの自由を考える上でも、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツは重要な要素になってくると思います。
「在り方」と「性と生殖に関する健康と権利」
いわゆる「バ美肉」に代表されるように、メタバース上では、自分らしい在り方を、自分で表現して他者と関わることができます。特にアバターを使い、自分らしい「ジェンダー・エクスプレッション(性表現)」でコミュニケーションをとることは、メタバース上では普遍的に行われています。
また、性自認と生まれたときに割り当てられた性別に不合がある人や、トランスジェンダー当事者も多く、VRChat上ではプライドイベントも開催されています。自分の性のあり方を決める権利は、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」でも重要です。
「性的コミュニケーション」と「性と生殖に関する健康と権利」
当事者の間では「Just」といわれるメタバース上での性的なコミュニケーション。性的表現を許可しているプラットホームやアバターもあり、自分らしい在り方で、愛する相手と性的な深いコミュニケーションをとることも、一部で行われています。
自分の「性」に関することについて、心身ともに満たされて幸せを感じられ、その状態を社会的にも認められていることを、「セクシュアル・ヘルス」といいます。また、自分の愛する人、自分のプライバシーや性的な快楽、自分の性のあり方を自分で決められる権利は、「セクシュアル・ライツ」と言われる大切な権利です。
「パートナーシップ」と「性と生殖に関する健康と権利」
ユーザーの間では「お砂糖」と言われる恋愛関係やパートナーシップ関係。自分らしいあり方で、自分らしいあり方で生きている相手を好きになることは、メタバース上ではごく当たり前にあることです。
メタバース上での出会いは、必ずしも生まれたときに割り当てられた性別が異性同士とは限りません。その後リアルで出会うとしても、妊娠や出産、その時期やこどもの数、そして産む産まない、妊娠する妊娠しないはその人個人に自由に決められます。「リプロダクティブ・ライツ」という大切な権利です。また、どのような選択をしても、満たされて健康にいられることは、「リプロダクティブ・ヘルス」といいます。
リアルもメタバースも「自分らしく」
「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」は、リアルもバーチャルも、誰もが自分らしく生きられる社会を形づくるうえで、大切な概念です。一方、母子保健や少子化対策の文脈のなかで「産む」支援のみを優遇するような施策が中心となり、若者、男性、性的マイノリティー、障がいのある人など、脆弱性を抱え支援のニーズがあるにもかかわらず、サービスを受けづらいと思う背景をもつ人々もいます。
メタバースには、そういった支援のニーズがある脆弱性を抱えた人が、居場所を求めに来ている側面もあります。誰もが自分らしく生きられる社会をつくるために、「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の観点から、メタバースの居場所、そして在り方やコミュニケーションの自由を守り、育てていく必要があると感じています。それと同時に、現実世界における「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」に関する課題も解決していく必要があります。
みすみんのメタバース文化の発信スタンスとしては、お砂糖やJustやバ美肉を前面に押し出して面白いものとして消費させたくはありません。人間のもつ「在り方」や「愛のかたち」に対する普遍的な権利として尊重する社会的合意を形成するためには尽力していきます。
みすみんにも、ジェンダーや障害の問題があり、自分らしく生きられる社会をつくるためには「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の概念は非常に重要だと感じています。そして、メタバース上でのジェンダーエクスプレッション(性表現)の自由や、コミュニケーションの自由により、心身が救われる経験もしてきました。今後も誰もが自分らしく生きられる社会を目指していきたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。