いいじゃないか
あしたここにひとつの全てを包む爆弾が落ちてしまえば
すべてはなくなる
この前入った保険も
積み重ねている退職金も
努力も美も恐怖も
ぜんぶ何も残らない
生きた人間だけが残る
生き残った事実が残る
その虚しさが残る
全ては最初から虚だったはずだ
生み出すことは消えていくこと
失うことだ
得たものは壊れるし、奪われるし、崩れて、消えていくのだ
いいじゃないか
死にたいと思った人が今にも死にそうな顔をしていなくたって
逆に楽しくてたまらないという顔をしている人が
明日死んでもいいじゃないか
いいじゃないか
考えても無駄だと言える人が
明日になっていれば言わずと知れた何かに絶望していても
生きるのが嫌でたまらない人が
明日生きていてもいいじゃないか
人間賛美を説いた哲学者が
明日になれば馬を抱いて発狂して死んだとしても
ペシミストの皆が死ななければいけないわけじゃない
彼の説いた讃美歌は
幻でも狂言でも夢でもない
彼の死はただの死であった
私の生は殉教ではない
私は生きる
生きているのは負けたからだ
きっと勝てないだろう
いいじゃないか
私だけが解釈の外に出た
この存在が真実だ