第15回 「Red Hot Chili Peppers - Dani California」の思ひ出
2006年とは、どのような年であったか?
正解は……
『DEATH NOTE』の年であるッ!!!!!
2003年に「週刊少年ジャンプ」で連載を開始した本作も、物語はいよいよ佳境に入り、おれの通っていた学習塾では、
「今週のデスノート読んだか!?」
「読んだぜェ……マジヤベェよな……」
と、いつもデスノートの話題で持ち切りであった。そんな話題の漫画も5月には2年半に及ぶ連載を終え、ブームは収束するかに思えたが、6月には実写映画の前編が公開され、むしろ読者は一般層へとさらに拡大した。10月からはテレビアニメの放映も開始され、11月には後編の公開をもって実写映画が堂々たるフィナーレを迎える。ネット上には膨大なデスノートのコラ画像やMAD動画が溢れ、ネットのミーム文化を発展させる重要な機能をも果たした。
もちろん、我が家にもデスノートの単行本は全巻揃っており、おれも中学生らしく人並みにハマっていた。ちょっぴり大人向けの内容でもあったため、これは「ビッグコミック」の読者であった父も気に入ったようである。映画マニアの父が気に入ったということは、実写映画への強制連行イベントが発生するということであり、おれは公開して間もなく劇場へと足を運んだ。
藤原竜也の顔芸を堪能し、エンドロールが流れ始めると、なんだかよく分からん英語の歌が流れ始めた。
「ははァ、なるほど。レッチリの骨太なロック・サウンドを劇場の大音響で浴びて、チミはロックに目覚めたというわけだね」
と、お思いのそこのアナタ。
残念ッ!!!!!!!!!!!!!!!!!
切腹しなさいッ!!!!!!!!!!!!!
おれは初めてこの曲を聴いたとき、
「英語の歌だあ」
と思った。今まで日本語の歌しか聴いたことがない者にとって、英語の歌なんてものはエイリアンのようなものである。洋楽という未知なるシニフィアンに適切なシニフィエを充当することができず、我が脳髄は活動を停止、
「英語の歌だあ」
という以上の認識をすることは不可能であった。むしろ、
「ははァ、海外のミュージシャンを主題歌に起用することで『普通の邦画とは一味違うぜ!』感を醸し出したいのだな」
と勘繰り、映画の製作陣をいけすかねえ野郎どもだと思った。
こうして微塵もロックに目覚めることなく、おれは劇場を後にしたわけだが、パンフレット・マニアの父と共に劇場を後にするということは、パンフレットの強制購入イベントが発生するということである。帰ってからパンフレットを開いてみると、どうやらこのレッド・ホット・チリ・ペッパーズなるバンドは、世界的にかなり有名なグループらしく、一味違うどころか、彼らを主題歌に起用できたのは奇跡に近いものであったらしい。曰く、ダメもとでデスノートの原作コミックをレッチリに送り付けたところ、メンバーたちが作品を気に入り、主題歌の提供を快諾してくれたということらしかった。
このパンフレットのくだりを読んでおれは、
と思った。どこの馬の骨とも分からぬ凡百のバンドならいざ知らず、それが世界的に有名なバンドとなれば話は別である。流石は我が大日本帝国が誇る漫画文化! 我が宗主国たるアメリカ様が誇るロックバンド様をも唸らせる力があったというわけだ。おれは権威の匂いを嗅ぎつければいつでも手のひら返しをする用意のある金魚の糞のような存在なので、制作陣を「いけすかねえ野郎ども」と認定した記憶は、真理省へ送りつけて即座に歴史から抹消した。
さて、映画を見ればすかさずサントラを購入する父がデスノートの映画を見たということは、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの4年ぶりのアルバム『ステイディアム・アーケイディアム』の強制購入イベントが発生するということである。おれはさっそく、今や失われたテクノロジーであるMDへのダビングを遂行し、ヘヴィー・ローテーションを開始した。
劇場では「英語の歌だあ」としか思わなかった楽曲も、繰り返し聴いているうちに、次第に耳に馴染んでいった。この現象は、どのようなアニメの主題歌であっても毎週聴いているうちに耳に馴染んでくる現象になぞらえて、アニソン効果と呼ばれる。呼ばれるというか、おれが勝手にそう呼んでいるだけだが。こうして、おれの脳には洋楽を音楽として認識できる回路が新たに形成され、その後の音楽体験の下地となったのであった。
また「ダニ・カリフォルニア」は、初めて覚えた洋楽の歌詞ともなった。生真面目にCD付属のブックレットを眺めながら、生真面目に英詞を和訳しているうちに、自然と覚えてしまったのである。ただ、歌詞のリテラルな意味が分かっただけで、なにを歌っている楽曲なのかについてはよく分からなかった。まあ、中学2年のガキからすれば、アメリカの社会的な背景や文化的な背景など知る由もないし、乏しい英語力では隠された比喩に気づけるはずもないので、これは仕方のないことであろう。
中学2年の自分自身へ向けて簡単に解説してやると、この楽曲はだいたい以下のような内容になっている。
まず「ダニ・カリフォルニア」とは、ヴォーカルのアンソニー・キーディスが今まで出会った女性たちをモデルとして創作した架空の人物である。実は「バイ・ザ・ウェイ」などの過去の楽曲にも登場しており、今回ついにその生い立ちが明かされるというわけだ。
ダニは警官の父とヒッピーの母のもと、アメリカ南部のミシシッピ州に生まれる。「Poppa」や「Momma」という表現からは、彼女が貧しい田舎町に生まれ育ったのであろうことが窺われる。大きくなってからは、どうやらアラバマ州で逮捕され、刑務所で囚役としてハンマーを振るっていたようである。貧しい環境で育った彼女からすれば、犯罪以外で生計を立てる方法など、想像だにできなかったのであろう。
ルイジアナ州ではギャングの一員となる。黒いバンダナで顔を隠して悪事を働くような輩どもだ。ギャングの一員としてインディアナ州へ赴いたダニは、そこで銀行強盗を働く。45口径のコルト拳銃の銃身を覗き込むダニ。これが彼女の生き方だ。
しかし、彼女の命運も尽きてしまう。ミネソタ州へ向かう途上、彼女を逮捕することで名を上げようとした警察官によって射殺されてしまったのだ。ノース・ダコタ州のセオドア・ルーズベルト国立公園にて、ゆっくりと息を引き取るダニ・カリフォルニア。嗚呼、カリフォルニア(=若者に夢を植え付ける堕落の象徴)よ、安らかに眠れ……
……以上は、歌詞サイト「Genius」から丸パクリした解説である。「Genius」とは、有志が自由に歌詞に注釈をつけられるオンライン百科事典であり、おれのような無教養のアホでも英詞が理解できるよう助けてくれる有難いサイトである。おれが中高生のときに「Genius」が存在していれば、歌詞の意味が分からんと悩むこともなかったであろうと悔やまれるばかりだが、まあ嘆いたところで仕方がない。もし、洋楽を理解したいが歌詞の意味が分からないと悩んでいる方がいるなら、まずは「Genius」を参照してみることをお勧めする。
なに? 英語が分からないって?
勉強しろッ!!!!!!!!!!
おわり
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