株式投資におけるIFRS財務諸表の留意点(メモ)
個人投資家でIFRS財務諸表に馴染みのない方は多いと思います。IFRSには日本基準との違いが多々あるのですが、投資家の立場からすると、IFRS財務諸表の読み方について解説した書籍でも説明されていない違いがあります。戸惑うことが多かったため、投資指標や異なる会計基準の企業同士を比較する上で気になったものをメモとして残します。
なお筆者は会計基準や個別の会計処理に関して実務家・専門家ではありません。内容の過不足や誤っている点、または記載内容が古い可能性がある点をご了承ください。
日本におけるIFRSベースでの開示
IFRSとは何かや導入のメリットについてここでは割愛します。
東証はIFRSの導入を推進しています。上場企業うちIFRS開示している企業は266社で、適用を決定している企業が11社(2024年1月末時点)。適用しているのは大企業のみと思われがちですが、IFRSを適用し新規上場する企業も増えてきています。
ここからが本題のIFRS開示で気を付けるべき点です。
全般
注記
いきなり萎えそうな話ですが、注記をしっかり読みましょう。これは決算短信だけでなく有価証券報告書を読むということです。
IFRSでは財務諸表での強制表示科目数が少ない(企業側で気を使っているよう見受けられますが…)からというのもありますが、開示要求のない項目でも追加の開示をすることを要請しています(IAS 第1号 第31項)。これを見逃すのは賢明ではありません。
営業外損益、特別損益の区分がない
日本基準において営業損益と営業外損益・特別損益は区別されています。一方、IFRSでは金融収益・金融費用を除きすべて当期の営業利益に含まれます。
この違いは大きく、IFRS開示では営業利益の前期とのブレについて財務諸表を読む側が注記や他資料から適切に読み解くことが求められます。
各論
のれん
無形資産である「のれん」はIFRSと日本基準の違いとしてもっとも有名です。
日本基準ではのれんを定額償却する一方、IFRSではのれんを償却しません。ただし、IFRSにおいていつまでも当初計上した金額というわけではなく、減損の兆候があれば減損テストを実施の上、必要であれば減損処理を行います。
リース
「のれん」同様、日本基準との違いとしてIFRSのリース会計も有名です。いわゆるオペレーティング・リース(借手)の会計処理は2019年1月に開始されたFASB16で大きく変わり、日本基準と以下の違いが生じます。X(旧Twitter)にて著名投資家の気になるやりとりがあったため、やや詳しめに記載しています。
1点目は資産・負債への影響です。IFRSでは「使用権資産」「リース債務」が計上されますが、日本基準では計上されません。言い換えれば、日本基準ではオフバランスですが、IFRSではオンバランスとして計上されます。
2点目はその費用に関してであり、計上される費用は日本基準では定額法ですが、IFRSでは期間の早い段階で多くの費用が計上される(日本のファイナンス・リース同様)ため、損益に違いが出ます。
3点目はキャッシュフローです。日本基準では貸借料として「営業活動によるキャッシュ・フロー」区分で計上されるもののみです。IFRSでは支払リース料のうち、元本返済部分については資金調達活動として「財務活動によるキャッシュ・フロー」に、利息部分については支払利息の記載方針に沿って区分されます。
ここでIFRSを導入しているRIZAP(2928)を見てみましょう。RIAZAPではリース会計処理によるキャッシュフローへの影響が顕著です。(注:この例はファイナンス・リースに該当し、リース会計によるCFへの影響の一般例として取り上げます。)
一見「営業活動によるキャッシュ・フロー」は1,261百万円とプラスです。しかし、日本基準と比較できるよう考えれば「財務活動によるキャッシュ・フロー」から「リース負債の返済による支出」△10,299百万円(うち元本返済部分)を差し引き「営業活動によるキャッシュ・フロー」に加えるのが適切でしょう。
決算説明会資料をよく見てみると、その旨を加味したグラフの表記になっていることがわかります。
参考までに、日本基準が採用され借主としてリース債務の記載があるCF計算書(必然的にファイナンス・リースが該当)として、株式会社日本アクア(1429)をのせておきます。
RIZAPの例でわかるように、財務諸表の科目ごと内訳を確認することはリース債務の影響を正しく評価する上で重要です。
なお日本ではIFRSとの差異を埋めるべくリース会計基準の見直しが進んでいます。2026年4月から日本基準でもファイナンス・リース、オペレーティング・リースの違いなくオンバランスで計上される見込みです。
信用損失
信用損失がIFRSではより早期に計上されます。この内容はまた後日。。
IFRSと日本基準の会計上の違いはもちろん他にもありますが、決算で気になるような点は何かあったかな…思い出したら適宜追加していきます。
収益認識については数年前に日本基準で変更されて差異が解消されたはず…
参考になりそうな資料
大手監査法人の資料、事業会社が自社の開示についてIFRS差異として出している参考資料は信頼度が高いでしょう。
トリドールは日本基準とIFRSの差異として説明資料を出しており、参考になるかと思います。
以下のKPMGの資料は近年更新されており、会計の観点でIFRSと日本基準との差異が網羅されているようです。
以上