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古道具の新しい風、「剥離家具」

状態がいい古いものは、それだけで価値があるものだ。衣食住すべてにおいて通じている。状態がいいとはつまり、修理することなく(もしくは修理された)そのままの状態で使うことができるものを指す。ただ、大体の古いもの=古道具(ジャパンヴィンテージ)は長年使い続けられた木材や加工の劣化、金具の不備等が多くみられる。

それは仕方のないことだ。何十年もの、下手したら何百年ものだって考えられる古道具。状態を維持する方が至難の業である。そんな古道具たち、たまに人の手によって不器用に修理されていることがある。職人というよりはおそらく素人であろうやっつけ感のある木材の貼り方だったり、取っ手の付け方。”使える”状態をどうにか維持しようとする当時使っていた人たちなりの丁寧を感じる。

僕はそういったプロダクトをみると嬉しくなる。”まだ使える””まだ使いたい”そんな思いがあるかどうかは分からないけど、そう考えたいと僕は思う。ファスト〇〇という概念すらない、現代よりモノを大切にしていた時代のはずだ。どんな状態のものであっても道具愛を感じずにはいられない。


道具愛、これからも”まだ使える”と思える新しい風を古道具に与えることができないかと常に模索をしていた。そんな時、ある流行りを見つけた。
「ストリップド家具『剥離家具』」だ。劣化してしまった塗装、加工された木材家具の表面を鑢にかけて加工前の無垢や白木のように木素地状態に戻すことをいう。

フランスアンティークのようなシャビーな質感を出し、定着した和モダンのように素朴で温かみのあるナチュラルな雰囲気にも変化する。現代のニーズには特にフィットした家具デザインになる。流行りはとりあえず手をつけてみる、食わず嫌いは勿体無い。流行りでやってみたものの、実際につくってみると楽しいし、息を吹き返すように新しいを価値を見出す古道具に感動すらしている。

そのままでは見放されてしまった古道具たちが、「僕を見て!」と言わんばかりの高揚感に溢れているのを感じた。


「全部この状態にすればいんじゃないか…?」といった考えが頭の中を染めたのだが、それでは剥離家具一辺倒になってしまうし、全てにおいて剥離した状態がいいというわけでもないのだ。”剥離することで逆に古道具の良さを壊しかねない”ことだってある。鑢をかけた時に、思ったより素地の色が出なかったりとせっかくの加工を台無しにしてしまったこともあったが、実はそれもボロボロになってしまった加工を全て落としてもう一度塗装や蜜蝋を入れてあげることで、綺麗な深みのある色味を出す。

剥離する状態ばかりに拘らなくても、その状態の方が可愛いのか、それとも加工した方が格好いいのか。家具の原点に戻るということは同時に選択肢を増やすことにも繋がる。デザインの相性も見ながら自在に空間の雰囲気に合わせることができることこそが「剥離家具」のいいところなのかもしれない。


用途としてはどうしたって使いにくい一部の古道具。現代に合わせた道具のデザイン性を考えて、変化させていく楽しみをこれからも見つけていきたい。自身が生きた時間と変化し続ける古道具や空間を流行りにばかり身を任せるだけでなく、そこから派生させた自己流を見つけていく楽しさがこれからは人生を楽しむ一つの要素として必要なのかもしれない。

”まだ使いたい”を僕が届けられるように。





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