探すべき自分なんて最初からどこにもない

 ふとした時に、瞼の裏側に浮かぶのは、耳を塞いで蹲る幼子。何も聞きたくないし、どこへも行きたくない。誰にも見つからない部屋の隅と同化していたい。
 泣いたって余計に惨めさが募るばかりで、なんならもう、泣き方なんて忘れている。

 わたしだけのかみさまが欲しかった。加護と寵愛の箱に入れて、閉じ込めてほしかった。自由なんて望んでいない。ただただ守られて、安心していたかった。
 自由はいつだって恐ろしく、細かい破片で傷をつける。アドレナリンがどばどば出るような興奮も幸運も歓喜も要らないから、ただただ穏やかに凪いだ安心が欲しかった。不安に怯えない日々か欲しかった。見捨てられない確信が欲しかった。
 いつだってわたしの願いは「過去形」で、叶わないと決めつけられている。わたしはわたしを信用していないけれど、かといって見捨てることもできない。呪いを吐き続ける唇で、言霊を信じているだなんて嘯いてみたりする。そのどれもが本心で、全部が嘘だ。

 誰も抱きしめてくれなかった幼子の幻に、大丈夫だよと言い聞かせ続けるだけの人生。大丈夫、大丈夫、どんなことにも全て終わりがあるから。みんな等しく終わってゆくから。永遠なんてないから。そうやって哀れんで哀れんで、慈しんでもらえない惨めさを有耶無耶にして、なんとか浅く息をする。臆病なわたしの一生は、そうして終わってゆく。
 わたしが遠い昔に危惧したことは全てその通りになってしまった。回避しようと動いたことが、また悪路へと導いて、延々と悪循環が続いた。全部自己責任だと知っている。わたしの待ち合わせる選択肢には、いつだって正解がひとつもないことも、とうの昔に気づいていた。
 憧れも希望も期待も、物心ついた頃には霧散して、諦めきれない執着と絶望に変わっていた。そしていつしか執着にも疲れ果て、諦念と絶望だけが残った。本当は、正しく生きてみたかった。背筋を伸ばした美しい強さを持っていたかった。恨んだり、呪ったりなんてしたくなかった。

 別に誰のことも許すも許さないもない。そんなこと考えたこともない。そんな段階になんて、はなからいない。だって、取り戻したいものも、やり直したい場所もないから。ただただ、生まれたくなかったなあと、ぼんやり思い続けているだけだ。そうして惨めな孤独を拗らせて、ひとりで死んでゆく。
 誰かに必要とされてみたかった。穏やかで安心していたかった。見捨てられることや嫌われることに怯え続けない日々を送ってみたかった。言いようのない不安や焦燥に突き動かされない人生を見てみたかった。
 そういうきらきら光った夢物語が、いつだってわたしを余計に惨めにさせる。

 

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