「昭和少年事件帳⑪」洞窟ギョンの穴でおこした最後の事件!
(はじめに)これは、私が青少年期を過ごした昭和時代の話です。
同じ時代を生きた皆さんをはじめ昭和をご存じない世代の皆さんにも楽しんでいただければ幸いです・・では、事件の始まりです。
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散々なデビューとなったギョンの穴(洞窟)の探検ですが、穴に入ること自体に懲りたわけではありません。
それどころか、完全に虜(とりこ)になってしまいました。
静寂と漆黒の闇の中で研ぎ澄まされる感覚、通気口から差し込む光の柱の神秘性・・他では味わえない世界に魅了されてしまったのです。
あの日以降、小学5年~6年の2年間で50回ぐらい入ったんじゃないかと思います。
回数を重ねてくると、単に入口と左側にある空洞との往復だけではなく、行き止まりになっている右側や小さな分岐点までくまなく探索しました。
それは、「ギョンの穴には、もう一つ出口がある」という都市伝説(田舎伝説?)を自らの手で解き明かしたい一心だったのですが、結局、何度トライしても見つけることはできませんでした。
でも、その代わりに最初の探検から一年ほどすると、懐中電灯なしで入れるほどの域に達していたのです。
この頃になると私の評判は同級生の間で広まり案内役を頼まれることが多くなってきました。
恐怖心で通り抜けを断念し勇気ある男の仲間入りを果たせなかった子にとって、私は一縷の望みになったのです。
経験豊富で詳しいヤツが一緒に入ると、安心感が違いますからねぇ~
ギョンの穴での嘘が原因で失恋した男は・・どのルートが通り抜けやすく、最短で空洞にたどり着けるかを知っている男として完全復活を遂げたのです(笑)
しかし良いときは長くは続かず、ギョンの穴最後の日は刻々と近づいており、その日は突然やって来ました。
まさかその日が最後になるなんて考えてもいなかったので何人で穴に入りメンバーが誰だったのかも覚えていません。
いつものように先頭で穴に入り、みんなを案内して空洞までたどり着くと、当然のように焚き火を始めました。
ギョンの穴での焚き火は、通り抜けを祝う儀式のようなもので我々にとってはお約束事でした。
揺らめく炎の中に浮かぶ達成感に包まれた仲間の顔・・これが気分を盛り上げるのです。
ただし、毎回わざわざマッチを持って行ったりはしていません。
空洞には大きなマッチ箱が常備されていたのです。
それは、先人達(上級生)が後輩に残したバトンのような存在でした。
では、焚火の材料となる枯葉や小枝などの木くずはどうしていたのかと言いますと、穴に入る前に通気口から投げ入れておくのです。
どれくらい時間が経っていたのでしょう?突然、洞窟内に大きな声が響きました。
“こらぁ~!お前達そこで何やってるんだぁ~”
びっくりして見上げると、通気口から覗き込んでいる人がいます・・逆光で顔は確認できませんが、声の主は明らかに大人です。
“火を消して直ぐに入口まで戻ってこい!”
有無を言わせぬ勢いに言葉を発することも出来ず、来た道を急いで引き返します。
この時点で分かっているのは、相手が激怒しているということだけです。
相手は一体誰で、何に怒っているのか?不安と恐怖で心臓がバクバクしています。
大急ぎで穴の入口まで戻ってきました。
この時のスピードは、もしかしたらこれまでの最速記録だったかも知れません(苦笑)
真っ先に穴から出た私は、外の光景に思わず仰け反りそうになりました。
そこには大人がズラリと並んで立っており、それが全員地元の消防団員であることは着ていた法被(はっぴ)で直ぐに分かりました。
その奥には、赤色灯が点滅したままの消防車も見えます。
当然、サイレンを鳴らして穴の入り口まで乗り付けたんだと思いますが、洞窟の中にその音は全く届きませんでした。
“山火事騒ぎで駆け付けて見れば、ギョンの穴で火遊びとは・・リーダーは誰だ!”
参加していたメンバー全員が私を見ます・・
確かに穴の案内役は私だし、マッチ箱の在処を知っていたのも私だし、木くずに着火したのも私なので主犯扱いされても致し方ありません。
思い起こせば、この前日に雨が降ったこともあり、木くずが湿っていてなかなか火が付かず、炎が上がるまで暫くはモウモウと白い煙が出ました。
恐らくこれが通気口からノロシのように立ち上り山火事騒ぎに発展したんだと思います。
この後、団員の多くは解散となりましたが、残った上役数人から延々と長い説教が始まりました。
きっと、この人たちも子供のころに同じ体験していたと思うのですが、大人はいざという時、大事なことは都合よく忘れますからねぇ~(笑)
ではこの時の私はというと、いかにも反省したような顔をして聞き流すことに徹していました。
ですが、もうそろそろ終わるかな?って時に聞き洩らしようのない言葉が発せられたのです。
“警察にも通報してあるから、帰りに駐在所(派出所)に寄ってお巡りさんに説明してこい!”
これには正直愕然としました。
これまで親や学校の先生、近所のおじさんおばさんなどいろんな大人から怒られたことがあったもののお巡りさんは未体験だったのです。
消防団から解放された後、重い足を引きずるように駐在所に出頭しました。
「ギョンの穴で火遊びをしたのは僕達です。どうもすみませんでした。」と申し出たのですが・・お巡りさんはなぜか不思議そうな顔をしています。
この時点で「しまった~通報なんてされていない!消防団にやられた!」と気付いたのですが、時既に遅く、状況を理解したお巡りさんは笑いをかみ殺しています。
普段、何の事件や事故もなく暇を持て余している田舎の駐在所ですので、自首してきた絶好の獲物を簡単に手放すはずがありません・・結果、消防団よりも長い時間拘束されることになりました。
なお、既にお気づきの方もいらっしゃると思いますが、穴に入った最後の日に事件が起きたというより、事件を起こしたから最後になったのです。
何しろお巡りさんと消防団に名前と顔を覚えられちゃいましたからねぇ~・・以後は、穴ではなく、更生の道に入らせていただきました・・・
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