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第四章 人格主体 4 規範的規範主体としての法人

 これらの〈法人〉はいずれも、規範的水準において、規範を負課される人格を付与されることがあるが(というより、人格を付与されているから〈法人〉であるが)、〈幻影法人〉や〈陰謀法人〉では、そもそもそこには人格を付与されることになる実体がなく、ただ人格的な現象があるだけである。これに対して、〈集団法人〉や〈混濁法人〉や〈組織法人〉では、その集団の成員に集合的に人格が付与されることになる。しかし、その人格の付与の仕方は、あくまでその集団の成員に集合的にであって、個々の成員に付与されるわけではない。したがって、その〈法人〉に負課される規範は、個々の成員に負課されるわけではない。つまり、〈法人〉そのものが、〈規範的規範主体〉である。もっとも、実際は、〈集団法人〉は、共同生活体すらなく、また、〈混濁法人〉は、共同生活体はあるにしても、〈私我〉としての全般的意図能力も、〈生活意志〉としての全般的統整能力もなく、したがって、〈生活主体〉としての全般的行動能力もない。それゆえ、これらは〈実質的規範主体〉となることはできない。そして、ただ〈組織法人〉だけが、①〈生活主体〉としての全般的行動能力、②〈生活意志〉としての全般的統整能力、③〈私我〉としての全般的意図能力という〈人格主体〉としての基本条件である規範従則能力を完全に具備しており、〈実質的規範主体〉となることもできる。

 むしろ、〈組織法人〉の場合は、付加的な規範として、〈実質的規範主体〉となる能力、すなわち、規範能力、すなわち、規範定義能力と規範従則能力、すなわち、〈私我〉の意図能力・〈生活意志〉の統整能力・〈生活主体〉の行動能力を保持していないといけないのであり、この規範を反則する場合には、〈人格主体〉としての〈身分〉を失格する、すなわち、人格を認められなくなり、ただの集団となり、さらにはその集団も解散となる。

 また、〈組織法人〉は、その成員の共同生活体であり、〈自然人〉と違って容易に分裂することがある。しかし、そうなると、せっかく協証された〈人格主体〉に規範として負課されている権利や責任の所在が、つまり、[何が規範的規範主体であるか]が、曖昧になり、混乱することになる。このために、〈自然人〉が身体の連続同一性を〈規範的規範主体〉であることの根拠とするように、〈組織法人〉もまた、擬制的に、なんらかの連続同一性を確保していることが、付加的な規範として負課される。

 〈組織法人〉の連続同一性は、一般には、成員の連続同一性によって定義される。つまり、二つの〈組織法人〉の主要成員が連続同一的であるならば、いかに名称や精神を変更しようと、社会的には、連続同一的な規範が負課される。もちろん、たしかに、〈組織法人〉は、法律的には、その名称と主要成員を登記するのであり、いかに成員が連続同一的であっても、[その名称における契約]と[他の名称における契約]は区別されるのだが、しかし、社会的には、成員が連続同一的である以上は、同一視されがちであり、そのような場合、法律を盾にとって名称の相違による規範の区別を主張することなどは、むしろかえって倫理的に非難されることになる。

 もっとも、まれには、成員の連続同一性よりも、精神の連続同一性こそが、〈規範的規範主体〉の根拠となることもある。

 〈組織法人〉の成員の定義は、名簿による確定的方法と、承認による連鎖的方法とがある。名簿確定的方法は、成員の全員の名前を唯一の名簿に登録するものである。この場合、名簿は唯一でなければならない。名簿は、成員である〈人格主体〉の名前を記録してあるだけだが、しかし、名前は、〈協証様相規範〉によって社会的に連続同一的な〈人格主体〉を確保することになり、名簿は、この名前という社会一般の〈協証様相規範〉によって、間接的に成員を定義することができる。また、承認連鎖的方法は、すでに成員である〈人格主体〉に照会して成員として承認するならば、もしくは、成員である〈人格主体〉が成員として紹介するならば、その承認されたり紹介されたりした〈人格主体〉は成員であるというものである。

 もっとも、たとえば、スパイのコードネームの名簿のようなものの場合は、〈協証様相規範〉によって〈人格主体〉を確保することができず、成員の定義としては無意味である。また、たとえば、宗教団体や圧力団体の名簿のようなものの場合は、架空名義などで名簿が水増されていることがあるが、架空名義とは〈協証様相規範〉のない名前であり、名前として無意味である。

 スパイなどは、むしろ承認連鎖的方法を採っている。つまり、間違いのない成員の紹介する人物は成員である。

 我々は、両方の方法を複雑に併用している。すなわち、名簿確定的方法によって、〈組織法人〉は、公的にその〈組織法人〉の主要成員、とくに代表成員を登記している。そして、承認連鎖的方法によって、その主要成員が承認した者、また、一般成員が承認した者は、その〈組織法人〉の成員である。また、名簿確定的方法によって、こうして承認によって所属することになった成員を成員名簿に登記している。しかし、その成員名簿は、一般には組織の内部資料であり、外部においては、再び承認連鎖的方法によって、成員が成員として紹介する人物が成員である。ある成員がある人物を成員として承認し、他の成員がその人物を成員として否認する場合、承認連鎖的方法によって、より上位の承認で決済される。主要成員の承認や否認は、代表成員による。また、代表成員の承認や否認は、つまり、代表成員の交代であり、旧代表成員は、自己否認と新代表成員の承認とを、つまり、辞任と指名とを行う。もっとも、[ある下位の成員を成員として承認した上位の成員]が[さらに上位の成員]によって成員として否認されたとしても、名簿確定的方法によって、その下位の成員は成員として登記されており、連鎖的に成員として否認されることにはならない。したがって、ときには、[代表成員によって成員として承認された主要成員]が、旧代表成員を否認し、新代表成員を承認することもある。

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