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アート:お菊さんとジャコウアゲハ

ひだりねこぜさんにご厚意で書き下ろしていただきました。お菊虫と呼ばれるジャコウアゲハの蛹ですが、今回は「束縛からの解放」というテーマで、羽化するお菊虫を描いてもらいました。それで羽が生えています。血の色なのか炎なのか赤い模様も渦巻いています。

Judas Priestのアルバムジャケ「Sad Wings of Destiny」歌川国貞の「皿屋鋪化粧姿視」(1983)からインスピレーションを得ました。また、映画「羊たちの沈黙」で「チョウ類の蛹は、変化への渇望を象徴している」という言葉もどこかで影響しています。

アゲハチョウは、羽が大きく、やはり美しいです。そして、幼虫期のイモムシとのギャップがすごいですね。醜から美への変化が大きすぎます。

お菊さんの話は全国にあり、姫路特有の怪談ではないようです。お菊虫=ジャコウアゲハ蛹とも一概に言えず、虫ぽいもの全般を指していた可能性もあります。

一方、ジャコウアゲハの分布も、 日本では本州、四国、九州、南西諸島の各地に分布しており、東北地方北部では局部的です。西日本では普通に見られる種です。

しかし、お菊さんの伝説や、播州皿屋敷の怪談の下地があったことで、ジャコウアゲハは姫路では市蝶に登録され、市内では本種の繁殖支援活動が盛んで、姫路科学館、手柄山など食草のウマノスズクサを多数植え付けられた拠点周辺では本種をよく目撃されます。

幼虫が蛹化になるために壁によじ登って「お菊さん化」している姿は、確かに異様な光景ではあります。生物学的には何からの適応戦略と思います。

成虫の飛翔の仕方も優雅なもので、特に人を怖がっている様子もなく吸蜜しています。ジャコウアゲハは捕食者の鳥などが食べても、苦く、時には中毒をおこすなどして安全な食べ物ではないと学習するようです。そのためか、”食べるなら食べてみろ”的な怖いもの知らずの振る舞いができるのかもしれません。幼虫の摂食量も爆喰いです。ウマノスズクサを食べ尽くします。ただし、農作物は加害しないことから、嫌われ者ではありません。

黒くて体に赤い斑点のあるジャコウアゲハに、妖艶な魅力を感じます。ホラーチックな文化的背景も相まってなおさら惹きつけられます。

菅原道真公が政治的な思惑で、九州に左遷され、亡くなった後、京都に天変地異や疫病が続き、人々は菅原公を天神様として奉ったエピソードを思い出します。

お菊さんの怪談も天神さんのエピソードも「人の恨みは怖い」という教訓としても捉えられますが、その人がいかに才能に溢れ、あるいはその生き物の生態には興味深い戦略があり、その振る舞いが美しいことを、自分の目で確かめることも大切ではないかと思います。

2024/1/21描き下ろし作品
2024/1/21描き下ろし作品
2024/1/21描き下ろし作品



手柄山温室植物園 2023/6/11撮影

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