時事:人間に見落とされがちなアリたちを称賛する(2021年6月27日NYTimes記事)

原題:「Celebration the Ants, Often Overlooked by Humans」New York Times Intl. Weekly June 27, 2021

・地球上には、少なくとも15,000種のアリが記録されているが、実際にはもっと多いことが予想される。アマゾンの熱帯雨林に生息する全動物を重量に換算すると、アリの総重量はその4分の1以上にもなる。

・アリは、多様性に富み、様々な環境に適応して数百万年以上の進化を遂げてきた。ライス博士はアリを「自然界のバウハウスの創造物」と呼ぶ。その理由は、「形態は機能に従う」という建築原理を思わせるほど特異な形態(姿形)が見られるからである。アリの多種多様な適応は、生物全般で見られる「贅沢のための余分な部分がほとんどない(機能性重視である)」ことも象徴している。

・長いクモのような脚を持つ砂漠アリの一種Cataglyphis bicolorは、サハラ砂漠に生息しており、灼熱の砂の上で涼しく保つためには、素早い動きと地面からの一定の距離の確保をするための適応と考えられる。一方、ハキリアリは、凶暴な外見で、その棘と針で覆われてた鎧のような体は、戦闘のためではなく、実はガーデニングの道具である。彼らは農園主であり、精巧な地下室で栽培する真菌に餌を運ぶ。棘のおかげで、葉を背負う際にバランスをとることができる。熱帯地方では、せっせと物を運ぶ彼らの行列によって林床には高速道路が張り巡らされているようだ。

・我々が、日常生活で遭遇するアリは、ほとんどがメスである。博物学者で作家のエドワード・O・ウィルソン博士は、オスは「彷徨う精子ミサイルにすぎない」と例えるほど、オスは短命で、アリとしても認識されない。女王は生まれるのではなく、作られる。すなわち、受精卵は女王アリや働きアリになる潜在能力があるが、与えられる物質や餌、そしてコロニーのニーズに応じて、個体ごとに成長が異なる。また、非常に多くの匂い受容体を有しており、化学物質の痕跡や伝達情報を認識できる。種によっては、標準の2つの複眼に加えて、飛行時に役立つオセリと呼ばれる3つの光検出単眼もある。

・生態系全体がアリを中心として構築されており、植物から甲虫、鳥に至るまで、多数の種がアリのコロニーとの関係に完全に依存している。北米ではウィノウ・アリは非常に多くの草本の種子を分散させる役割を担っており、その種がいなければ、野花の量が50パーセント減少するとも言われる。

キーワード
・spiracle 気門
the pores in their exoskeletons through which ants breathe アリが呼吸をするための外骨格の小孔

・compound eyes 複眼
それぞれにレンズを持つ個眼が蜂の巣のように集合した器官。単一の個眼では図形を識別することはできないが、複眼を構成することで、図形認識能力を備える。

・simple light-detecting eyes 光感知のための単眼
完全変態する昆虫の幼虫の眼を単眼ocellus(複数形はocelli)という。

・Forms Follows Function.  形態は機能に従う。
20世紀に入り、ドイツのバウハウスで掲げられたデザインのコンセプトのひとつ。19世紀の生物学から生まれたと言われる。生物が生涯の間に身につけた形質(獲得形質)が子孫に伝わるとした、「用不用説」がその源流とされる。現代では、本来の意味や当時の建築物が再評価され、芸術やデザインにとどまらず、プログラミングやサービスなど、多くの分野で有効な基準として、また思考のベースとして利用されている。


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