時事:自動車が歓迎されないドイツの都市(2021年3月14日NYTimes記事)
昨年より週1で購読しているニューヨークタイムズの一面に、ドイツの環境都市ハイデルベルクについての記事が掲載されていました。
The German City Where Cars Are Not Welcome(ドイツ:自動車が歓迎されない都市)というタイトル。
・環境先進都市として有名なハイデルベルクでは、電気自動車(EV)の普及が予想外に進んでいない。
・古城の町の構造上、通勤ラッシュ時の渋滞の緩和のためのインフラ整備が迅速に行われていないことが主たる要因。
・通勤にも中心部への自家用車乗り入れを規制するなど、市民はトラムと自転車の利用が推奨されてきたことが、クルマ離れになった。
・充電スタンドの設置数が伸びないこと、ガソリン車からEVへの買い替えるにはEVが高価すぎること、市内でのクルマの利用自体が規制されていることも要因。
ドイツ南西部の都市ハイデルベルクでは市長ヴュルツナー氏の目標である「温室効果ガスの排出量を削減する」ために、電気自動車の普及が推進されています。電気自動車を購入した住民には1,000ユーロの特別手当を出す制度を設けました。さらに充電スタンドを導入すれば追加で1,000ユーロ付与されます。クルマを売却した場合は1年間公共交通が無料で利用できます。
一方で、「市内の公共交通機関(トラムや水素エンジンバス)と自転車利用をさらに推進するため、市街地の環境整備をし、市内中心部での自家用車利用率を低減させること」も目標に掲げています。その背景には、市内の交通事情があります。市民の約20%しか自家用車を利用していないにもかかわらず、市内は通勤ラッシュ時の車の渋滞に苦しんでいます。交通渋滞緩和のために、郊外に住む住民の市内中心部へのクルマ乗り入れは制限されており、最寄りの駅から電車に乗り、中心部にアクセスすることが推奨されています。市外へ通勤する場合も、市内で自転車利用をする住民は、トラムと路上駐車のクルマの隙間を縫うように走行する必要があるため、交通事故にあう危険が高く、不満を述べています。
ガソリン車から電気自動車へシフトさせたくても、そもそも、古城の街ハイデルベルクでは電気自動車とて都市の構造上、利用が不便であり、普及が進みにくいという問題点が浮き彫りになりました。
旧市街地に隣接するバーンシュタット(電車の街)では、断熱材が導入されたマンションが計画的に建設され、職場も近くにあり、バーンシュタットでは交通量が少ないです。しかしそれでも、建築構造上、充電スタンドを設置しにくかったり、道が狭いなどの問題は抱えていると指摘されています。高次元な不満ではあるのですが。
市長のヴュルツナー氏は、ハイデルベルクがいままで模範例として示してきた「環境に優しい都市計画」は、他のすべての都市が施行できる余裕があるわけではないことを認めています。しかし、ヨーロッパ、アメリカやアジアの市長からは、模倣することを望む声がしばしば聞かれます。「方向性ははっきりしている。問題はいかに早く取り組むかだ」と市長は述べています。
感想
ニューヨーク・タイムズはアメリカの新聞であり、気候変動やその対策に関する記事も積極的に取り入れているように思います。僕はアメリカ本土には行ったことはないのですが、ヨーロッパに比べれば、アメリカの大都市の中心部を除いては、クルマ利用を前提としたライフスタイルが根付いていると予想しています。ヨーロッパの都市の歴史は長いので、ガソリン、電気を問わず、クルマ利用を想定した街づくりへのシフトは、すぐには進まないのかもしれません。環境先進都市ハイデルベルクは、僕は8年前に旅行したことがあります。早くから、トラムの利用、自転車専用道の整備、環境教育、太陽光発電、風力発電といった再生可能エネルギーの利用、脱化石燃料、原発停止といったことに取り組んできたことで有名です。しかし、ここに来て、電気自動車への乗り換えが進まないという問題が起こっているのを知り、自国のクルマ産業の発展の後押しができなくなるのではと考えました。また、日本と比べると、欧米では新車文化がそれほど根付いておらず、古いクルマも修理しながら何年ものることに価値観を置いている人も、日本よりはるかに多い気がします。どこの国のクルマメーカーが電気自動車でトップシェアを勝ち取っていくのか、各国の都市の構造やいままでの都市計画のあり方が関係してくるのかもしれません。EVの普及のためには、「Car Friendly(クルマ・フレンドリー)な都市構造というものもありえるかもしれません。