深読み:イネと昆虫
2009年4月の投稿した私の論文が、2020年4月にPlant Cell and Environmentという雑誌に掲載された論文に引用されました。
引用先の論文の内容は、イネの葉にあるケイ素(二酸化ケイ素、シリカ、シリコン)を含むトリコーム(毛状突起)が、葉を摂食する昆虫(イチモンジセセリ、イナゴ)の消化の妨げになっている可能性を示唆する内容です。日本で普及しているニッポンバレと新品種ネリカを同じように、イチモンジセセリ、イナゴに摂食させてみると、ニッポンバレに比べて、ネリカの食害が有意に大きい結果が示されました。そこで、SEMで葉の表面構造を観察してみると、ニッポンバレの葉表面にはトリコーム(毛状突起)がある一方で、ネリカはほぼ無毛でした。葉表面の物理的構造の違いが、害虫による食害(消化)の違いに影響している可能性があると考察されています。
引用元の私の論文は、イチモンジセセリとその天敵の寄生バチの一種についての論文です。害虫がイネ葉を摂食する際に生じる揮発性物質が、天敵の捕食者・捕食寄生者を引き寄せることを示す論文としてイントロ部分で引用されています。
この論文で取り上げられているネリカ米(New Rice for Africa:NERICA)というのは、高収量のアジアイネと病気や雑草に強いアフリカ稲を交配することによって出来上がったイネ品種の総称です。アフリカ稲センター(Africa Rice Center(旧West Africa Rice Development Association:WARDA))が、1992年にアジア稲とアフリカ稲の種間交雑に初めて成功し、現在は水稲60種、陸稲18種が登録されています。日本は、1996年以降、JIRCAS、JICAから研究者、専門家を派遣し、品種開発・普及を支援してきました。
ネリカの特長は、1)生育期間が短く、短い雨季での栽培や、干ばつのリスクを回避できる点、2)耐乾性・耐病性が高く、アフリカ特有の高温で乾燥した気候にも負けない点、3)従来のアフリカ稲よりも収量が高い点などが挙げられます。
参考
Effects of Host Instar at the Time of Parasitization on the Development of Apanteles baoris (Hymenoptera: Braconidae), a Larval Parasitoid of Parnara guttata guttata (Lepidoptera: Hesperiidae)
https://www.researchgate.net/publication/240741950_Effects_of_Host_Instar_at_the_Time_of_Parasitization_on_the_Development_of_Apanteles_baoris_Hymenoptera_Braconidae_a_Larval_Parasitoid_of_Parnara_guttata_guttata_Lepidoptera_Hesperiidae/citations?latestCitations=PB%3A340867120
Non‐glandular silicified trichomes are essential for rice defense against chewing herbivores
https://www.researchgate.net/publication/340867120_Non-glandular_silicified_trichomes_are_essential_for_rice_defense_against_chewing_herbivores
ネリカ(NERICA)
https://www.jica.go.jp/activities/issues/agricul/approach/nerica.html