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86歳。「さくらさくら」を戦時中の女学校で「イイロイイロ」と習ったという世代のマダム、ピアノレッスン再開!

86歳のIさんが初めてレッスンに来たのは79歳の頃。
一度もピアノ経験が無く、音楽を習った経験は戦時中の女学校。
「さくら~~さくら~~」と
「イイロ~~イイロ~~(ララシーーララシー)」と習ったとのこと。


何かお好きな曲を弾けるようになる感じの進め方にしますか?
それとも正式なレッスンの形、いわゆる基礎から。バイエルから、
どちらにしますか?とお聞きすると迷わず「基礎から」

ということなのでバイエルからスタートして(大人には意外とバイエルが分かりやすい)ちゃんとツェルニー、ブルグミュラーという感じで進んできていた。


「脳が衰えないように」というのが大きな目標なわけで、
見栄えの良い曲を弾くのではなく、丁寧に基礎からやってて、
それでも発表会では、最高齢として
「エリーゼ」や「幻想曲さくらさくら」などを弾かれた。


レッスンの合間にお話するどの話題にも、私のほうが勉強させてもらうことが沢山。


世の中にコロナが蔓延しはじめた頃、
「大変なことになりましたね」と言ったら、きっぱりと
「戦争よりはマシ」
「戦争中は食べるものも着るものもなかった」
「今は、食べるものもあるし温かい家もある」

世の中がコロナで右往左往してる中、
毅然とそう言い切ったIさんの言葉を聞いて、ほんとその通りだと思った。
そして思った。
年齢を重ねることって、こういうことなんだな。
経験を積んで、困難なことも克服して、その「経験」が
凛とした精神を造り上げるのだな、って。



Iさんは、
30歳くらいでご主人と始めた飲食業を、
60歳の頃ご主人を亡くしてからも続け、
「一代だけで50年続けたお店」として市内では一軒だけだったとのこと。
入れ替わりの激しい飲食業でそれだけ長く繁盛を続けられたこと、
丁寧に人生を送られたんだと思う。
80歳で引退された時の、その「仕舞いかた」もご立派で、そして美しかった。勉強になった。同じ夫婦ともに自営業の私は参考にもなった。



発表会に初めて参加された年のこと。
ホールのある会場の隣に、カフェが新規オープン。
そのカフェのママさんとIさんは親しいとのこと。

発表会前に、Iさんは私にこんなことをおっしゃった。



「発表会の日」
「子供さんや親御さん達に」
「カフェの無料チケットを配る」


驚きました。

「それはあまりにもカフェさんに申し訳ない」
「だって、生徒さんの数も相当。そしてその家族、となると」
「相当な人数になりますよ?」


Iさんはきっぱりとおっしゃった
「新規オープンするのだから」
「皆さんに知ってもらうことが一番大事」
「だから無料チケットを配って」
「たくさんの人に知ってもらうことが」
「良いのです」


長年、お商売されたIさんがそうおっしゃるから、
「そんなもんかな」なんて私もすぐ納得しちゃって。


ご厚意に甘え、
生徒さん達に無料チケットを配り、
この日、発表会に出た生徒さん、その家族、おじいちゃんやおばあちゃんまで、みんなカフェに立ち寄り、アイスやコーヒーやジュースをご馳走になってそれはそれはみな、大喜び。


後日、
私はカフェさんにお礼に行きました。
そこでびっくりする話を聞いた!


カフェのママさんから
「実は、これ」
「全部、Iさんが、払ってくれたのですよ」とお聞きして・・・


・・・・・・

なんと!


知らなかった!!


「ピアノを楽しんでる若い皆さんが」
「喜んでくださったのなら」
「やったかいがありました」とIさん。

私は今はまだ未熟者だけど、
出来るならば、こういう年齢の重ね方をしようと
かたく心に誓いました。



そんなIさんが去年
「一年間だけお休みを頂きたいと思います」と。

ご年齢のことを考えると、当然、
「どこか具合が悪いのでは?」と考える。

それが・・・
全然違ってて(笑)



「一年間だけ、ひ孫のお世話をしようと思って」


お孫さんに生まれたベビーを、
両親の仕事の関係もあって、
(どうしても休止出来ないご職業)
自分の家に泊めて一年間、ひ孫さんのお世話をすると。


孫のお守でさえ「しんどい」と思うのに、それがひ孫さん!
しかも生まれたてのベビー!


「やってみようと思います」


あれから一年、
昨日、LINEが来て。


「またご教授お願いします」と。




86歳。
ピアノレッスン再開。


素晴らしい。
そしてとても嬉しくて。



しかもとても驚いちゃったのは、
昨夜、主人と夕食を食べながら、
よもやま話で「Iさん、またレッスンに来れると嬉しいなあ」と私がしゃべったら、
その直後、PCがポワンとなり、LINEの着信。
物凄いタイミング。
以心伝心?


また、レッスンを再開できて
本当に嬉しいと思うのでした。


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