OpenAI 66億ドル資金調達の裏側:Khosla Venturesは何故小切手を切ったのか
2024年10月2日、OpenAIは、66億ドルの資金調達を行ったことを発表しました。この資金調達ラウンドは、スライブ・キャピタルが主導し、コースラ・ベンチャーズ、アルティメーター・キャピタル、フィデリティ・マネジメント・アンド・リサーチなどが参加しました。既に130億ドルを投資しているマイクロソフトは、約7億5000万ドル、ソフトバンクグループが5億ドル、タイガー・グローバル・マネジメントが3億5000万ドル、アルティメーター・キャピタルが2億5000万ドル規模、そして、エヌビディアが約1億ドルを投じた他、UAEの投資会社MGXなどが出資を行ったとされています。
この投稿は、OpenAIの黎明期(2019年)の初期投資家でOpenAIの育ての親ともいえるコースラ・ベンチャー(Khosla Ventures)の創業者であるビノッド・コースラ(Vinod Khosla)を迎えてのBloombergインタビューの内容を紹介するもので、今回のOpenAI投資案件の舞台裏を伺うことのできる内容となっています。インタビューの中の主なサブテーマは以下の通りです。
OpenAIへの投資の意義
OpenAIのIPOについて
OpenAIの企業構造変革
組織の変化とチームの技術力
OpenAI経営陣の評価
AIによるディストピアとユートピア
AI普及のロードマップ
尚、以下リンクでは、Khosla Venturesが投資したポートフォリオ企業のうち、イクジットした代表的な企業を確認できます。
(1)インタビュー
[エド・ラドロー](Bloomberg)
既に何度もお聞きしていますが、あなたがOpenAIに最初に投資した理由についてもう少し詳しく教えてください。このラウンドに参加された背景にはどのような意図があったのでしょうか?規模やその歴史的な意義についてもすでにお話しされていますよね。
[ビノッド・コースラ](Khosla Ventures)
私は、AIが社会のあらゆる部分に与える影響について非常に楽観的に考えています。今後10年から15年の間に、その影響は非常に大きくなると考えています。私は長期投資家ですので、そのような観点から参加するのは合理的だと考えています。
[エド・ラドロー](Bloomberg)
あなたはLP(リミテッド・パートナー)に対して受託者責任を負う立場であり、長期的な投資家です。いつも私が番組にあなたをお迎えすることをSNSで発信すると、Bloomberg Technologyの視聴者の多くが、「Vinod Khosla氏はOpenAIのIPOが近いと感じているからこのラウンドに参加したのではないか?」と言いますが、その点についてはいかがでしょうか?
[ビノッド・コースラ](Khosla Ventures)
IPOについては、まだ議論していません。現在の構造ではIPOに向けた準備は整っていません。
[キャロライン・ハイド](Bloomberg)
その企業構造についてお伺いします。Bコープ(公益法人)への移行や、より利益志向の会社にすることについて議論はされているのでしょうか?
[ビノッド・コースラ](Khosla Ventures)
サム(サム・アルトマン)は、具体的な構造変更についての話をしていないものの、公開の場でその可能性に言及していますし、それ以上のことはお話しできないと思います。ただ、必要に応じて資金を調達できるような体制を整えるのは良い考えだと思います。OpenAIは、通常のスタートアップが20年かけて成し遂げる急速な成長を、この2年間で達成しています。ほとんど収益がなかったところから、報道されている通り、数十億ドルの売上を達成しています。これだけの成長を遂げると、データセンターやトレーニングセンターなどへの資本投入が必要になるのは当然です。つまり、20年分の成長を2年間で凝縮した結果、急成長しているわけですから、変化が起こるのは当然だと考えるべきです。
[キャロライン・ハイド](Bloomberg)
内部的には、最初に投資されたときの創業メンバーと現在のリーダーシップが、サムを除いて大きく変わっていることについて、どのように感じていますか?
[ビノッド・コースラ](Khosla Ventures)
確かにチームは変わりましたが、非常に強力な技術チームです。現在は、迅速な動きを実現できるように体制を整えています。ご存じの通り、この会社は、驚異的なスピードでプロダクトを次々と生み出しており、競合他社が追いつけないほど幅広いプロダクトを展開してきました。この競争で重要なのは、他社を気にするのではなく、競争に勝つことです。そして噛み砕いて言えば、売上を急成長させるには、利用者数を大幅に増やすことが不可欠です。
[エド・ラドロー](Bloomberg)
先月、ご自身のブログで『AI: Dystopian or Utopian?』という記事を書かれていましたね。長文でしたが、結論としては、現在の富が限られた10億人以下の人々に集中している状況から、AIを通じて、それを70億から80億人に広げる道が見える、とおっしゃっていました。ただ、私が感じたのは、OpenAIが私たちをどのように導いてくれるのかが明確に書かれていなかったということです。あなたはOpenAIをAI技術に人間がアクセスできるようにするリーダーとして、とても重視されているようですね。
[ビノッド・コースラ](Khosla Ventures)
あの記事ではAIについて、そして批判者たちが抱くディストピア的な懸念についても触れています。リスクがないとは言いませんが、それらについてかなり具体的に対処し、同時にAIがもたらす豊かさについても話しました。AIは、人類史上最も重要なツールであり、豊かさを生み出し、より公正で平等な社会を作るための道具です。AIの競争で勝利する企業がこのレースをリードしますが、複数の企業が参加するでしょう。OpenAIだけでなく、他にも競争者がいるはずです。しかし、私はOpenAIの製品開発や売上成長に非常に期待していますので、リーダー的存在になる可能性が高いと思っています。
[キャロライン・ハイド](Bloomberg)
リーダーとして、サム自身が会社の株式を持つべきだと思いますか?
[ビノッド・コースラ](Khosla Ventures)
それは取締役会が決めることですが、サムがこれまで成し遂げてきたことに対しては、何かを得るべきだとは思います。ただ、そのことは彼の最優先事項ではなく、もっと優先順位の低いものだと思います。
[エド・ラドロー](Bloomberg)
サラ・フライヤー(Sarah Friar:OpenAIのCFO)さんについては、これまでどのように評価されていますか?私が業界の他の方々から聞いた話では、彼女は非常にわかりやすいプレゼンテーションを用意して、ビジネスモデルや今後の道筋を十分に理解していない人々を教育しようとしていたそうです。多くの投資家がそのプレゼンを見て、『これなら納得できる』と賛同したと聞いています。あなたの彼女に対する評価はいかがでしょうか?
[ビノッド・コースラ](Khosla Ventures)
サラとは長い付き合いがあります。彼女がSquare(現Block)でCFOを務めていた頃、私はSquareの取締役をしていたので、当時からの関係です。おっしゃる通り、彼女は非常に簡潔なプレゼンテーションを用意していました。『今の状況はこうで、1年後にはこうなる見込みです』といった、シンプルでストレートな内容でした。それ以上のことは予測が難しいですが、とても説得力のあるプレゼンテーションでした。今回ももちろん、私にとっても納得のいくものでしたし、そうでなければ投資しなかったでしょう。
[キャロライン・ハイド](Bloomberg)
興味深いのは、あなたが「OpenAIは唯一の存在ではないが、リーディングプレイヤーであってほしい」と記載されている点です。今回の投資条件の中に、OpenAIを支援する者は今後、競合他社を支援しないように、という条項があったことが一部で懸念と共に報道されていました。このことは一般的なことなのでしょうか?このような条件が含まれていることについては、どうお考えですか?
[ビノッド・コースラ](Khosla Ventures)
非常に大きな賭けをする場合、これは割と普通のことですし、相互理解に基づくもので、法的な義務ではありません。我々は信頼を重んじて行動しているので、投資家はOpenAIを支援し、その競合他社には関与しないという合意をしたわけです。特にこの規模の投資の場合、これはごく一般的なことだと思います。
[エド・ラドロー](Bloomberg)
最後に、テクノロジーについてお話を伺いたいのですが、私は毎日ChatGPT 4.0を使って会話をしたり、Meta AIをRay-Bansを通して利用しています。時々、妻が私のことを不思議そうに見たり、サンフランシスコの街角では同僚たちもそんな私を見て驚くことがあります。これらを踏まえてお聞きしたいのですが、一般の多くの人々が、このような技術を日常的にどのように活用すべきかを理解し始めたり、日常的に使うべきだと認識し始める転換点は、いつごろだと思いますか?
[ビノッド・コースラ](Khosla Ventures)
私は80年代に名刺にメールアドレスを載せていたんですが、ビジネススクールの友人たちとのディナーの席で、その夜はずっと笑われていました。慣れていないものはそんなものです。今ではAirPodsを使っていますが、10年前なら奇妙に見えたでしょう。人は徐々に慣れていくものですし、早く順応する人もいます。重要なのは、ChatGPTがあなたにとって役に立つか、ということです。私にとっては、非常に多くのタスクで役立っていますし、AI全般が非常に有用です。たとえば、私のテスラの運転も、AIのおかげで非常に価値が高まっています。ですから、重要なのはその技術が役に立つかどうかであって、世間の印象ではありません。もし多くの人にとって本当に役立つのであれば、自然に広まっていくでしょう。
[キャロライン・ハイド](Bloomberg)
最後にもうひとつ、今ChatGPTで一番よく使っているのは何ですか?
[ビノッド・コースラ](Khosla Ventures)
多岐にわたりますが、例えばサイエンスに関連する調べごとに使っています。専門外の科学会議に参加したとき、会話されている内容を理解するのに非常に役立ちます。それから、庭のデザインにも役立ちました。
(2)AI: Dystopian or Utopian?
以下は、インタビューの中でも言及のあった、コースラ氏が自身が掲載した「AI: Dystopia or Utopia?」というブログの概要についての情報です。
[概要]
AIはこれまでの技術革新とは異なり、人間の知性を単に拡張するだけでなく、倍増させる力を持つ。AIは医療、教育、法律、エネルギーなどの分野で専門知識をほぼ無料で提供する未来を実現し、世界中の人々に平等な機会をもたらすとされる。しかし、AIの進展には職の喪失や社会的不平等、権威主義国家による悪用といった懸念も伴う。特に中国とのAI競争における遅れは、自由と民主主義への脅威とされ、これに対応するには政策や社会的な選択が重要である。AIがもたらす未来は、職業の自動化や労働の軽視にとどまらず、創造的な自由を拡張し、新たな仕事を生み出すことで人類全体に豊かな生活を提供する可能性がある。正しい方針と倫理的な判断をもってすれば、AIは人類の福祉に大きく貢献し、持続可能な未来を築く鍵となるだろう。
[論点要約]
(1)AIの本質的な変化と人間知性の拡張
AIは、過去の技術革新と異なり、人間の脳の能力を単に拡大するのではなく、倍増させる。
蒸気機関が筋力を強化したように、AIは知的能力を増幅し、社会のあらゆる分野で大きな影響を与える。
知識や専門的能力がほぼ無償で利用できる未来が見えており、それによって教育、医療、法律など多くの分野が民主化される。
(2)AIに対する懸念とリスク
AIに対する悲観的な見方として、職業の消失や経済的不平等、社会的操作、創造性の喪失などがあるが、これらは政策によって解決可能な問題だと主張している。
最大のリスクは、AI開発競争で西側諸国が中国のような権威主義国家に遅れを取ることであり、これが自由と民主主義の脅威となる。
(3)経済と社会の変革
AIによる仕事の自動化により、労働が軽視され、所得格差が拡大する可能性がある。しかし、適切な介入(ベーシックインカムなど)を通じて、3日間労働週など新しい社会モデルを導入できるとする。
資源の発見と最適化により、AIは持続可能な経済と環境保護にも貢献すると見込まれている。
(4)AIがもたらすユートピア的未来
AIは、無料の医療や教育、創造的な自由を提供し、すべての人々が自分の情熱を追求できる世界を実現する可能性がある。
AIは創造性を拡張し、新しい仕事や職業を生み出すことができ、より多くの人々が文化や科学、競技、冒険などに参加する機会を得る。
現在の資本主義と民主主義も、AIの力を適切に活用すれば、より平等で人間中心のシステムへと進化する可能性がある。
(2)オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloomberg より
(Original Published date : 2024/10/4 EST)
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