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ナイキ(NIKE):自らの失策が招いた業績低迷。早すぎたデジタル施策からのリカバリーを目指す。


 ナイキ(NIKE: NKE)は、6月27日に2024年度第4四半期の決算を発表しました。結果は、減収増益という四半期決算でしたが、その翌日に株価は暴落。前日値から窓を開けて19.98%も暴落してしまいした。しかも窓を開けて株価が暴落したのは今回だけではなく、前回、前々回に続く連続3回目の窓上げ暴落となってしまいました。そして現在、その株価は、COVID-19発生直後の2020年3月の市場全体が暴落した際の株価に迫っている状況にあります。

過去に3回連続で窓を開けて株価下落したことを示すチャート(クリックして拡大)

 株価の下落はもちろん、決算結果が投資家の期待に沿えなかったことが要因にはなっているのですが、直近の数字だけでなく、ナイキを取り巻く状況は大きく変わってきてしまっています。一般的には、フットウェア市場で新興スニーカーブランドの勃興と猛追を許してしまってシェアを落としてしまったことや消費者需要が低迷していることが、ナイキのビジネスの先行きに影を落とし、結果として、株価は下落し、かつての王者の輝きが失われつつある、という状況にあると言えます。

 しかしながら、このような状況になった経緯には、ナイキのシェアを奪うことになった新興ブランドの商品戦略や商品の魅力もあるのですが、実は、ナイキ自身が自分の首を絞めることになった失策の存在があります。

 この投稿では、8月2日に公開されたBloombergの「How Nike Ran Into Trouble」(ナイキは、いかにしてトラブルに陥ったのか)という特集プログラムを参考訳をつけて共有するものです。

 なぜナイキが業績不調に陥っているのか? また、そのナイキが行った失策とは何か? そして、現状を打開するためにどのような手をナイキは打とうとしているのかについて紹介されています。ご参考下さい。



[参考]
 
8月8日の本日、以下のようなニュースが流れていました。オリンピック施策が奏功して効果がでているのかもしれません。今は、下値を追っているような銘柄ですが、もしかすると時間と共に状況は好転するかもしれませんね。今々、全体の相場感は良くはないですが、この銘柄については良い〇〇場なのかもしれません。

2024/8/8のニュース記事
ナイキにパリ五輪効果、通販サイトへのアクセス増加(By ロイター編集)

(↓↓↓ 株価チャートはクリック  ↓↓↓ )



(1)HOW NIKE RAN INTO TROUBLE

(ナイキは、いかにしてトラブルに陥ったのか)


 パリ・オリンピック。これはナイキにとってまさに黄金の瞬間であるはずです。何百人ものアスリートが着用するアパレルに、その象徴的な商標が輝き、多くの表彰台でその姿が刻まれています。しかし、カメラの外側では、この創立60年の会社はつまずいているのです。


ナイキは、成長企業の中でも特に成功してきた会社です。この成長を予想していなかった投資家たちには、その成功は驚きでした。

[キム・バシン](ブルームバーグ・ニュース)


ナイキ第4四半期決算:市場予想128億6,000万ドルに対して、
結果126億1,000万ドルとネガティブ・サプライズ

第4四半期の決算では、ほぼすべての面で期待を下回る結果となりました。

(ブルームバーグ・ニュース)


ナイキ株、決算発表後の時間外取引で下落($89.10 ↓ 5.40%)

ナイキが競争環境に本格的に苦戦しているのを見るのは今回が初めてです。

(ブルームバーグ・ニュース)


 ナイキの市場価値は過去数年間で急落し、前回の夏季オリンピックの頃よりも1,000億ドル以上も減少しました。その一方で、ライバルのアディダスはより良い成績を収めています。

時価総額の減少:ナイキとアディダス


 アディダスは、広報の深刻な問題を抱えているにもかかわらず、です。

アディダスのイージー問題(※)は、
ビジネスにとって数十億ドルの悪夢である(2023年5月25日)


 これは、世界のトップアスリートブランドである二社の間で、逆転現象が見られるような状況です。

[プーナム・ゴヤル](ブルームバーグ・インテリジェンス)


ナイキ株、売上未達と需要減少で下落

業界は競争が激しく、「アシックス」や「ホカ」も競争参入しています。

(ブルームバーグ・ニュース)


 では、ナイキはどのようにしてトラブルに陥ってしまったのでしょうか?

ナイキはいかにしてトラブルに陥ったか


 1964年1月には、多くの影響力のある人物が誕生しました。ジェフ・ベゾスやミシェル・オバマ、そして少し比喩的には、ナイキもその一つです。
 ナイキは、イノベーション、パートナーシップ、そしてアイコニックなマーケティングを通じて、スポーツウェア業界を支配してきました。
 そして、この言葉が、無敵のスローガンを作り上げました。

「Just Do It」です。


ナイキはストーリーテリングが非常に上手です。そして、素晴らしいアスリートたちがその名簿に名を連ねています。人々はナイキを身に着けることで気分が高揚し、マイケル・ジョーダンのような憧れの存在に近づいた気持ちになれます。

[ダニ・バック](スニーカーインフルエンサー:元ナイキ従業員)


 ナイキの長い歴史の中では、顧客との関係は(物理的な)店舗に依存していました。しかし、過去10年の間で、ナイキは「本当に彼ら(店舗)が必要なのか?」と自問をし始めました。

 ナイキのCEOであるジョン・ドナホーが2020年に就任したとき、彼はナイキのオンライン事業を本格的にモダナイズするために迎えられました。つまり、アプリやeコマースストアの強化です。ドナホーは、史上最大のeコマース企業の一つであるeBay出身だったのです。
 しかし、パンデミックが起こると、すべてがオンラインに移行しました。すべてがeコマースになり、アプリでの購入が主流となり、Amazonなどが重要な存在になりました。

[キム・バシン](ブルームバーグニュース)
ナイキCEOのジョン・ドナホー


「Sneakers App」というアプリがありますが、そこで限定リリースの商品が販売されます。すべてこのアプリと一部のトップクラスの店舗でのみ、発売されるのです。

[ダニ・バック](スニーカーインフルエンサー:元ナイキ従業員)


 パンデミックを経て、人々はよりカジュアルな服装に移行し、その中にはスニーカーも含まれました。仕事に行かなくなり、フォーマルな靴を履く必要がなくなりました。ハイヒールの需要も減少しました。これらは、履かなくてもよいもの、そしてスニーカーほど快適ではありません。

[キム・バシン](ブルームバーグニュース)


 このようなカジュアルな商品は快適で、かっこよく、買い物客に大変人気がでました。CEOのドナホーはその結果を、自分の戦略が成功している証拠として示し、小売業者との関係を断ち始めました。

ナイキ、売上と利益が予想を上回り記録的な急騰(2020年9月22日)


 ナイキはデジタル事業を全体の60%にすることを目指していたと思います。デジタルと店舗を含むダイレクト・トゥ・コンシューマ事業では、バランスを取ることを考えていました。

[プーナム・ゴヤル](ブルームバーグ・インテリジェンス)


 ナイキの方針は、フットロッカー(スポーツシューズやアパレルの専門小売店)のような会社にとって、ナイキへの依存を突然減らさざるを得ない状況をつくり出します。彼らは「HOKA」や「On」、「アディダス」など、ナイキに代わるブランドを見つけて、消費者に販売するために店舗の棚を埋める必要に迫られます。

[キム・バシン](ブルームバーグニュース)


 これは、小規模で新興の競合他社にとって有利に働き、既存の市場シェアを奪われる結果につながりました。これが、「On」や「HOKA」の親会社であるデッカーズの株式に対する投資家の関心が高まった要因の一つです。

主要シューズ・ブランドの株価推移


 世界が再び開かれると、人々はやはり店舗で靴を購入するのが好きだとわかりました。しかし、ナイキの靴は以前ほど多くの店舗には並んでおらず、その代わりに、買い物客はライバル企業や新興ブランドの提供する新しく革新的なスタイルの靴を見つけ、求めるようになりました。
 

 小売業には店舗からテクノロジーへの移行という周期的なトレンドがあることは知られていますが、ナイキはテクノロジーへのシフトを急ぎすぎたようです。

[チャーリー・ウェルズ](ブルームバーグニュース)


 ナイキのAir Force OneやDunksなどのライフスタイルブランドへの注力はパンデミック中には功を奏しましたが、新しい商品が不足していたことが今になって明らかになりました。

 最初は、Dunkが大人気で、皆が欲しがっていましたが、その後、ほぼ毎日のようにさまざまな色のモデルが発売されるようになりました。新しい要素はなく、ただ色違いのモデルが何百種類も出たのです。その結果、顧客に飽きられてしまい、熱狂も収まりました。

[ダニ・バック](スニーカーインフルエンサー:元ナイキ従業員)


 これは、パンデミックによる販売ブームに隠された失敗の物語です。ナイキは、ロックダウンが終わった後も多くの小売パートナーが必要になるとは考えていませんでした。小売パートナーを軽視することで、ライバル企業が革新的なスタイルをアピールする棚のスペースを確保することになりました。
 このことがナイキを追い詰め、2024年初めに利益警告を出す事態に至ったのです。 

ナイキ、通年見通しの悪化で2001年以来の株価大幅下落(2024年6月27日)


 その結果、2024年6月27日の同社2024年度Q4決算発表後の株価は、1日の過去最大の下落を記録しました。
 しかしながら、ナイキ・ブランドの力は強大であり、同社は依然として世界最大のスポーツウェア小売業者に位置しており、この強固な基盤が、立て直しのための大きな力になります。

ナイキの株価推移


 まず、ナイキは30年のベテラン幹部であり、4年前に引退したトム・ペティを呼び戻しました。目的はただ一つ、小売業者との関係を再構築することです。

ナイキ、売上低迷を解決するために引退した幹部を復帰(2024年7月8日)

”ナイキに30年間勤務し、2020年に引退を発表したベテラン経営者、トム・ペディが、マーケットプレイス・パートナー担当副社長として復帰”


 今、ナイキはこれらの店舗に魅力的な商品を提供する必要があります。これには時間がかかるため、ドナホーは投資家に対し、2025年度は事業の転換期になると説明しました。しかし、彼によれば、ブランドの復活はすでに始まっているというのです。

 ナイキは、特にランニングやライフスタイル分野において、製品ライン全体でより新しいものを積極的に投入する必要があります。これは、これらの分野で競合他社に遅れを取っているためです。

[プーナム・ゴヤル](ブルームバーグ・インテリジェンス)


 そして、「On」や「HOKA」といった厄介なライバルがフィットネス愛好家を魅了しています。ドナホーは、ランニングを競争の激しい戦場と表現しましたが、ナイキはイノベーションと大規模なマーケティングで戦うつもりです。
 今年の夏季オリンピックが重要な理由の一つはこれです。ドナホーの言葉を借りれば、「スポーツに対する私たちのビジョンを世界に伝える絶好の機会」になります。ナイキのイノベーションがメダルに結びつく姿を、史上最大の視聴者に見せることができるのです。
 

 レブロンやケビン・デュラントなどの多くのナイキ契約アスリートたちが夏季オリンピックで勝利することが、ナイキにとって成功の鍵となります。

[キム・バシン](ブルームバーグニュース)




(※)訳注
 アディダスの「イージー(Yeezy)」問題とは、主にアディダスとラッパーのカニエ・ウェスト(現在はYeと名乗っている)とのパートナーシップに関連する一連の問題を指します。このパートナーシップは、2013年に開始され、カニエ・ウェストがデザインした「Yeezy」ブランドのスニーカーが世界中で大きな成功を収めました。しかし近年、この関係に問題が生じています。

<主な問題点>
(1)カニエ・ウェストの言動
 カニエ・ウェストはしばしば物議を醸す発言や行動を行っており、それがブランドイメージに影響を与えることがありました。特に彼の政治的発言や社会的な立場は、多くの人々に強い反応を引き起こしました。

(2)製品供給とマーケティング
 「Yeezy」ブランドの製品は非常に人気が高く、需要が供給を上回ることがしばしばありました。この供給不足は、消費者の不満を引き起こすことがありました。 また一方で、アディダスのマーケティング戦略や価格設定についても批判が起こりました。

(3)契約と財務問題
 カニエ・ウェストとアディダスの契約に関する不透明な部分や、財務的な問題も報告されています。これには、利益配分や製品のライセンスに関する問題が含まれます。

(4)関係の悪化:
 カニエ・ウェストとアディダスの関係は次第に悪化しており、契約の更新や将来のパートナーシップに関する不確実性が高まっています。

<最新の動向>
 アディダスとカニエ・ウェストの関係についての最新情報は、具体的な動向や新しい発表があるかどうかに依存します。例えば、カニエ・ウェストがアディダスから独立して新しいブランドを立ち上げる可能性や、アディダスが「Yeezy」ブランドをどのように取り扱うかなどが注目されます。

 このように、アディダスの「イージー問題」は、多岐にわたる要素が絡み合った複雑な問題であり、ブランドイメージや経営戦略に大きな影響を与えています。



(2)オリジナル・コンテンツ

 オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。

Bloomberg Originalチャネルより
(Original Published date : 2024/08/02 EST)



以上です。


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だうじょん


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