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米国経済は既にソフトランディングの中にある:ポール・クルーグマン(10/25)
2008年度にノーベル経済学賞を受賞し、現在、ニューヨーク・タイムズ紙でコラムニストを行っているポール・クルーグマン氏を迎えてのYahoo Financeのインタビューを参考訳で紹介します。
同氏は、米国経済がインフレ抑制とリセッション回避の両立に成功していることを評価し、「我々はおおよそ1年前にソフトランディングを達成し、その状態を継続している」との見解を示しました。また大統領選挙の結果がもたらす経済への影響について、移民の国外追放と関税強化によって引き起こされるインフレ悪化には強い懸念を示しており、昨今の世論調査と経済専門家の見解の間には大きな乖離があると指摘しています。尚、米国でまことしやかに報道されているカマラ・ハリス政権へのJPモルガン・チェースのCEOであるジェイミー・ダイモン氏の入閣の噂に対するコメントも披露しています。ご参考下さい。
[主なサブテーマ]
米国経済の現状と見通し
FRBの影響力の範囲
次期大統領選挙と経済政策の影響
関税・法人税政策の経済への影響
民間セクター人材の行政区人事登用
1. インタビュー
[シーナ・スミス](Yahoo Finance)
本日発表された新規失業保険申請件数が予想を下回り、最近の増加が労働市場のさらなる悪化を示す兆しではないかという懸念が少し和らぎました。ただ、継続受給件数を見ると、約190万人に増加しており、これは過去約3年間で最多の水準です。このデータは今週初めのFRBのベージュブックが示した米国経済の軟調な見通しと合わせて考えると、最近の他の堅調なデータとやや対照的な結果となっています。
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本日は、経済学者でニューヨーク・タイムズのオピニオンコラムニストであり、2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンさんにお越しいただき、さらに詳しくお伺いします。
ポールさん、本日はお越しいただきありがとうございます。経済を見通す上でFRBは常に重要な存在ですので、避けて通れないのですが、最近の矛盾した経済データを踏まえて、現在の経済状態をどのようにお考えですか?
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[ポール・クルーグマン](ニューヨーク・タイムズ コラムニスト)
全体的に見れば、今は非常に良い状態といえます。選挙結果がわかってからもう一度質問して欲しいところですが、基本的には経済は非常に強い状態です。今話しているのは、経済の細かな部分についてですが、インフレはすでに抑えられ、リセッションも起きていません。景気減速しているのか?という質問については、頻度の多いデータは、正直言って見方次第でどうにでも解釈できます。FRBの利下げペースについても、正直なところよくわかりませんが、データの解釈が難しいことや、もしかしたら担当者のその朝の気分に左右されるのかもしれません。
とはいえ、我々は高いインフレとリセッションへの恐怖のサイクルを経て、結果として非常に良好な状態にたどり着いています。
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[マディソン・ミルズ](Yahoo Finance)
今の状況は、ソフトランディングと言えるものでしょうか?
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[ポール・クルーグマン](ニューヨーク・タイムズ コラムニスト)
そうですね、データの問題や季節調整などをすべて考慮して見ると、我々はおおよそ1年前にソフトランディングを達成しており、それ以降、基本的にその状態が続いていると思います。
[シーナ・スミス](Yahoo Finance)
では、次のFOMCでの利下げにはどれほどの重要性があるのでしょうか。利下げが間違いということもあるのでしょうか?もしFRBが11月に利下げを据え置いた場合、悪影響が出る可能性はありますか?
[ポール・クルーグマン](ニューヨーク・タイムズ コラムニスト)
個々の利下げ決定が経済に与える影響は、それほど大きくないと考えています。経済活動に影響を与えるのは長期金利であり、これは特定のFOMCでの決定ではなく、今後のFRBの政策全体の見通しによって決まります。大幅な利下げが長期金利に与える影響も一時的なもので、その後に経済が少し強く見えるということがあります。ですので、次のFOMCでFRBが何をするかについては、それほど気にしていません。例えば、選挙の影響など、環境が劇的に変化しない限り、FRBが今後1、2年で引き続き利下げを行うのは自然な流れに思えます。というのも、インフレの状況はFRBの目標にしっかりと沿っているからです。
[マディソン・ミルズ](Yahoo Finance)
FRBが使える2つの手段(公開市場操作と政策金利操作)で、どの程度まで経済をコントロールできるのでしょうか?特に、30年固定の住宅ローン金利が50ベーシスポイントの利下げにもかかわらず上昇している状況を踏まえての質問ですが。現状、住宅を手に入れられない人々に対する支援という観点で、金融政策にはどれほどの効果を期待できるのでしょうか?
[ポール・クルーグマン](ニューヨーク・タイムズ コラムニスト)
少し経済学者らしく話すと、結局のところ、FRBは内生変数(endogenous variable)であるといえます。つまり、FRBは経済の状況に応じて動くものです。現在、住宅ローン金利や10年もの長期金利が上昇しているのは、経済が強いと見られていること、そして大幅に拡大した財政赤字への懸念が一因になっているのです。ここで政治に言及するつもりはないですが、トランプ氏の政策を考えると、大量の移民の国外追放による労働力の減少と、関税によるインフレ圧力の増加が予想される彼の政策は「パンデミック2.0」のようなものです。そういった可能性があると人々が考えるとすれば、当然長期金利は上昇します。このことは、FRBが重要でないということではなく、経済環境が大きく変わればFRBもそれに応じて動くと人々は考えている、ということです。
[シーナ・スミス](Yahoo Finance)
以前も何度か言及されていますが、今回の選挙とその結果が今後の経済にかなり大きな影響を及ぼす可能性があるとお考えをお持ちですね。このことについて、最新のウォール・ストリート・ジャーナルの世論調査結果について伺いたいと思います。
この調査では、ハリス氏の政策とトランプ氏の政策が比較され、有権者がどちらに信頼を置くかが問われています。興味深いのは、恐らく反論されると思いますが、有権者がトランプ氏の政策や過去の実績をより好意的に評価し、ハリス氏にはやや否定的な見方をしている点です。特に、経済やインフレ対策においてはトランプ氏に対する信頼が高まっているようです。この結果についてどう思われますか?また、選挙まで2週間を切った中で、ハリス氏にとってどの程度懸念すべき事態だとお考えでしょうか?
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[ポール・クルーグマン](ニューヨーク・タイムズ コラムニスト)
異なる世論調査がそれぞれ違う結果を示しているので、ここで断言するのは難しいです。そもそも世論調査は不正確なアートですし、選挙結果への影響を予想することもできません。経済やインフレに関する調査では拮抗しているものもあれば、トランプ氏が優勢とするものもあります。しかし、経済学者、つまり、アカデミックな専門家もビジネス分野のエコノミストも大多数がトランプ氏のほうが経済に悪影響を与える、と見ており、特にインフレに対してその傾向が強いと考えています。シカゴ大学の調査では、回答した経済学者の70%が「トランプ氏の方がインフレ悪化のリスクが大きい」としており、「ハリス氏の方が悪化させる」と考えたのはわずか3%でした。つまり、世論は実際の政策を分析した専門家の意見と大きく食い違っています。しかし、世の中の人々は経済分析をしているわけではありません。パンデミック前、トランプ氏のもとでインフレが低かった記憶があり、その後バイデン政権での予想外のインフレに衝撃を受けているのです。ですから、どうなるかはわかりません。
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[マディソン・ミルズ](Yahoo Finance)
今朝、カンファレンス・ボードによる調査で、CEOたちが関税や法人税の影響についてさらに悲観的になっているとの結果が出ました。これら二つが経済に与える影響について、お考えをお伺いしたいと思います。関税がインフレ要因になると話されていますが、法人税の減税がその反対の効果をもたらす可能性もあるでしょうか?
[ポール・クルーグマン](ニューヨーク・タイムズ コラムニスト)
2017年に大幅な法人税減税が実施されましたが、データを見る限り、それが経済に与えた影響は明らかではありません。もしかすると、注意深く見れば事業投資にわずかな影響があったのかもしれませんが、一般的には、我々が今話している範囲において、法人税変更では事業投資や経済を大きく動かす効果はほとんどないことが証明されています。その一方で、関税問題は極めて重大です。これは最近の経済政策の転換どころか、90年にわたる米国の貿易拡大施策の歴史からの劇的な変化になります。このことは、他のどの政策よりも大きなインフレショックをもたらす可能性が高く、特に、大量の移民の国外追放と組み合わせると、経済に対して非常に大きな悪影響をもたらすことになるでしょう。
[シーナ・スミス](Yahoo Finance)
最後にお伺いしたいのが、注目ニュースのひとつである新政権の人事に関する報道についてです。最新の報道によると、JPモルガンのCEOであるジェイミー・ダイモン氏がハリス政権への参加に興味を示しており、財務長官になる可能性がささやかれています。彼がその役割に就く可能性について、どうお考えですか?
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[ポール・クルーグマン](ニューヨーク・タイムズ コラムニスト)
可笑しな話ですね。確かに彼は優れたビジネスマンですが、そのことがそのまま優れた財務長官になるかというと疑問です。ビジネスと財務政策では必要なスキルがまったく異なります。考えてみれば、偉大なビジネスマンが大統領を務めたのはいつでしょうか?その答えは、ハーバート・フーヴァー(訳注:1929年より第31代の大統領、第3代の商務長官を歴任)まで遡ります。ですから、ダイモン氏が現在の職務で素晴らしい働きをしているのは間違いありませんが、行政の経済担当として必要とされる全く別のスキルを備えているかどうかは確信が持てません。
[マディソン・ミルズ](Yahoo Finance)
彼は良い大統領になると思われますか?
[ポール・クルーグマン](ニューヨーク・タイムズ コラムニスト)
ハーバート・フーヴァーの例を出したように何もわかりません。ただ、断言はできませんが、この話は実現しないのではないでしょうか。いずれにせよ、政治と経済政策、そして大企業の経営は全く別の領域です。私自身が政治家になるべきでないのと同様に、それぞれの領域に異なるスキルが必要です。ある分野で成功しているからといって、他の分野でも優れているとは限らないのです。これは何度も繰り返されている幻想です。大金を稼いだ人が他の分野でも優れていると我々は思いがちですが、実際にはそう簡単ではないのです。
[マディソン・ミルズ](Yahoo Finance)
ポール・クルーグマンさん、本日はご参加いただきありがとうございました。お時間をいただき、感謝いたします。
2. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご視聴になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Yahoo Financeより
(Original Published date : 2024/10/25 EST)
[出演]
ニューヨーク・タイムズ コラムニスト
ポール・クルーグマン(Paul Krugman)
経済学者、2008年にノーベル経済学賞を受賞
Yahoo finance
シーナ・スミス(Seana Smith)
マディソン・ミルズ(Mady Mills)
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だうじょん
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