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年商100億円くらいまでの経営管理

自己紹介

こんにちは、Twitterではkという名前で活動している者です。

もともとは霞が関の人でしたが、金融機関の事業企画に転職した後、何を血迷ったか有象無象のベンチャーを転々として人生詰みかけたところに奇跡的に某Sの字の電機系列の社員数200人くらいの会社に拾われ、そこで経理や経営管理を本業にし始めてからまあなんとか人生を立て直しました。

小さめの会社で数字を見ながら会社の切り盛りをするのが楽しくなり、プロ経営者やターンアラウンドマネージャーにでもなりたいなとワナビーな気持ちでスモールキャップのPEファンドの投資先に転職、直後にコロナ禍の直撃を受けて毎月現預金が減る中、会社の数字をじっと見ながら気づいたポイントに投資していくことでなんとかV字回復して生き延びた経験があります。

その後、データ分析のための技術を高めようと一時期エンジニアもといSEをやったりしていましたが、今は大手流通・小売業の事業会社にいます。

とはいえ今後もキャリアはどうするか流動的で、またPE案件や中小企業の経営にかかわれたら良いなとうっすら思っています。何か話してみたいなと思う方はお気軽に声をかけてください。

対象読者とこの記事でわかること

上記のような経歴なので、大きい会社のサラリーマン人生はあまりわかりません。

小さい会社では、基本的に座っていて誰かに仕事を振ったらあとはよろしくアウトプットが出てくるということはなく、また、ある仕事のごく一部だけを担当することもなく、だいたい何でも首を突っ込んで手を動かす必要があります。

ということで、私の知見が役に立つとしたら、イメージでは従業員10人~数百人または年商1~100億円くらいの会社で、トップラインは見てるけどなんか会社は大きくなっていかないし従業員は定着しないし、精神論以上のマネジメントがわからん、あと、3年後5年後の目標ってどうやって立てるんやという会社さんなんかがターゲットになるのではないでしょうか。

本稿でわかることとしては、「どういう数字を拾って会社経営の軸にするか」「会議体では何をやるか」「予実を合わせるにはどうするか」あたりかと思います。


前提条件

とりあえず、月次決算はそれなりに回っているものとします。月次決算のやり方とかはここで詳細に書かなくても、書籍や税理士会計士さんのブログとか、別のコンテンツで解説したほうが良いと思いますので割愛。これはこれで大変なんですけどね。

財務モデルと変動損益計算書を作ろう

財務モデル

財務モデルというのは、TLの会計金融界隈だとやたら有名なのでご存知の方も多いと思います。PL、BSとキャッシュフロー計算書(以下、「CF計算書」という。)のいわゆる「財務三表」がExcelの式でつながっていて、基本的にはPLを更新するとBSとCF計算書が動くやつです。製造業だったらCR(製造原価報告書)も作っときます。

会社の大きさや管理したい粒度にもよりますが、基本的には月次でやりたいですね。月次で作って年度は別途集計。

まだ会社の体をなしてないような、仲間数人でやってて、帳簿は年度末に税理士が綺麗にしてますみたいなレベルだと、最初に年次で粗く組んでしまってまず数年後の目指す姿を探っても良いかもしれません。

財務モデルの組み方は何冊か初歩の本があるのと、ネットに講座がいくつか落ちているのでそちらに課金すれば事業会社の人間として充分なレベルでは組めると思います。

なぜ財務モデルを作るのかというと、

  • フロント側の解像度が上がる

  • その結果、目標と現在のギャップをシミュレーションできる

  • キャッシュフローと資産効率の管理ができる

からです。

財務モデルはPLを作成するときに営業企画的な考え方をしてフロント側の構造を分解することになります。

トップラインをKPIツリーに分解してシミュレーションするので、大まかな事業の構造が見えます。例えば、BtoBだったら案件数×単価とか、BtoCだったら客数×単価とか。労働集約的な事業ならスタッフ数と生産性とか掛け算します。

合わせて費用も数式で引っ張るので、「売上いくらにしたときには事業がこんな姿」というのがだいたい見えます。社員が何人いてどの費用がどれくらいかかって、みたいな。

逆に、役員報酬がこれくらい欲しいとしたらPLはこうなって、そのためには社員が何人要るとか、目指すゴールからの逆算もできます。退職率もだいたい把握していれば、必要な採用数などもここから計算できるわけですね。

そして、BSとCF計算書も見えているので、資金繰りと投資の管理もまあできるわけです。

資金繰りはいつ頃キャッシュが厳しいとかこのタイミングなら投資できるとかそういう話ですが、後者の投資の管理というのは、資産のライフサイクル管理ができるというような意味ですね。

身が軽いサービス業なんかはともかく、お店や工場を持っているような業態だと、定期的にリニューアルしないとどんどんお店や工場(資産)の稼ぐ力が落ちていくわけです。

経年で管理したりするわけですが、KPIとして資産効率も追えたりするので、BSが見えるのは嬉しいわけですね。

在庫の管理が改善するとCFがどれくらい良くなるのかなども見えるのも良いです。

変動損益計算書

PLをちょっと組み替えたやつです。簿記二級の工業簿記で出てくる直接原価計算とCVP分析ですね。

普通のPLは売上から売上原価(売上に紐づいて使ったリソースの費用みたいなやつ)を引いて売上総利益(粗利)を出し、そこから販管費を引いて営業利益を出します。次のようなやつです。

通常のPL

これでもないよりは相当マシですし、業種によっては普通のPLでも充分ですが、通常は変動損益計算書(以下、「変動PL」という。)のほうがやりやすいです。

変動PLはその名のとおり「変動費か固定費か」で費用を分けてPLを作るもので、普通のPLが売上原価と販管費に費用を分けているのと違います。次のようなやつです。

変動PL

例えば、上記の例ではWeb制作会社が案件の受託金額の25%を目安に外注さんを使っているとします。この場合、外注費は売上(受託金額)に連動して変動します。よって上記のような組み替えになるわけです。

厳密には棚卸資産があると少し複雑になりますが、在庫が少ない事業なら簡易に上記のように並べ替えるだけで作成して良いでしょう。管理会計はだいたいでいいのよ。

別途作るのは面倒なので、財務モデルの中に入れてしまって良いと思います。

変動PLがあると何が嬉しいかというと、会社というのは短期的(今期とか今月とか)にはどういう活動をしている生き物なのかが見えて、オペレーションのカイゼン活動以外に会社としてどういう施策をやっていくかがわかることですね。オペレーションのカイゼン活動は次章のマーケティングファネルを見て、「リピート率を上げるにはどうするか」みたいな話を考えます。

簡単にいうと、短期的には会社経営というゲームは固定費を限界利益(売上-変動費)で回収して黒字にするゲームです。図解します。

例えば人件費と家賃で毎月100万円出ていくお店なら固定費はこうなります。数量というのは受注数や客数などの「ボリューム」だと思ってください。

固定費

これがWeb制作会社だとすると、案件が何個あろうが毎月100万円かかることに変わりはないわけです。仕事が何もなくたって毎月100万円出ていくわけですね。

そして、売上と変動費は以下のようになります。

売上と変動費

このWeb制作会社、案件の40%は外注費を使って納品するとしましょう。この場合、外注費は受注した売上に対して一定割合で発生し、案件数が増えると外注費も増えるので変動費になります。そうすると売上100に対して変動費は40になります。差し引きが限界利益ですから、限界利益率は60%です。

仮にこのWeb制作会社の単価が50万円だとすると、案件ひとつ50万円の売上、変動費(外注費)は20万円、限界利益は30万円です。この30万円を積み上げて固定費100万円を回収するのが毎月の営みというわけです。4件納品できたら黒字ですし、3件なら赤字ですね。

とすると、この会社がやることは、以下の3つです。

  • オペレーションの話

    • がんばって4件以上納品する

  • 事業構造の話

    • 固定費を下げる

    • 限界利益率を高める

ここで注意すべきはオペレーションの話と事業構造の話は違うということですね。

前者は日々の努力の話であって、「数字足りてねえじゃん、ああん?」の世界です。Excelのヨミ表とかSFAとか使って商談数積み上げたり、基本的には足し算というか100本ノックと打率の話です。お店のある商売だったら主にお店の仕事です。

後者は事業や会社のコスト構造や商品コンセプト自体を変えてしまおうというもので、努力というよりは「こうしよう」という意思決定の話になります。家賃の安いオフィスに引っ越すとか、同じ変動費でもより良い製品が作れるように制作ノウハウを磨いて高く売れるようにするとか、そもそも売り先を変えるとかです。いわゆる企業努力はだいたい限界利益率に反映されます。お店のある商売だったら主に本社の仕事です。

よって、まず変動PLを作ってみて、「オペレーション的にはこれ契約●件取らないとダメだなあ」とか「それやりながら徐々に固定費の適正化と限界利益率の向上施策をやっていくか、まずは・・・」とか考えるわけです。

フロント側のマーケティングファネルも可視化

変動PLや財務モデルのPLを作るときにKPIツリーを置くのでそちらと重複するところもありますが、フロント(事業部・営業)側の可視化もしておくとさらに経営管理のクオリティが上がります。

例えばtoCの客商売ならPL作成時に「客数×客単価」、客数をさらに「スタッフ数×一人当たり接客数」などに分解してシミュレーションしますが、これをもう少しマーケティングファネルっぽく把握します。

新規客数とそこからのリピート率(残存率)、LTVなどですね。店舗商売でPOSデータが取れれば可視化できるはずです。

このあたりは、おそらく大きな会社だと経営企画、経営管理または経理よりはマーケティングや営業企画の仕事になりますが、「財務諸表の売上部分はどうやってできているのか」を細分化して管理しているとも考えられるので、小さい会社だと経営企画・経営管理が乗り込んでいい領域だと思います。

「お客さんが我々の会社に初めて接してから会社の銀行口座に入金があるまで」をトレースし、途中経過を測定できるようにしておきます。

これをやっておくと予実の精度が上がりますし、何よりも「業績アップのためには売上を上げて費用を下げましょう」という財務諸表マンがこれしか言えないトートロジーから脱却することができます。

アセット活用率もモニタリング

中小やベンチャーだと、大型の装置産業である場合は少ないので、人と店舗くらいがアセット(資産)であることが多いと思います。

ここでアセットと言っているのは会計上の資産とイコールではなく、必要経費以外の「利益の原動力となるモノ」みたいなイメージです。資産計上されているものもあれば、毎月の固定費で出ているものもありますね。

変動PLではだいたい固定費に出ているので、「資産の有効活用」というと、「固定費をなるべく使い倒す」みたいなイメージになります。

例えばマッサージ屋さんなんかだと、マッサージ師がヒマでヒマでずっとスマホをいじってるなんてのは固定費(人件費)が死んでいるわけで、なるべく稼働して売上を立ててくれないと困るわけです。同様にベッドの稼働率なんかも見ます。小売だと売場をアセットと考えて売場面積当たりの売上高など見てますね。

ただし経験上、理論上の稼働率100%に予算設定すると人間は息が詰まるので、80%くらいのところが適性だったなあと思います。

財務モデルと変動PL以外はBIでダッシュボード化

何をExcelで作って何をダッシュボードにするかは好みですが、一般的には財務諸表はBIで扱うのは難しいですし、フォーマットを決めてモニタリングというよりは手元でぐりぐりいじってシミュレーションする用途も大きいので、財務モデルと変動PLはExcelが使いやすいかなあと思います。

一方で、マーケティングファネルやアセット(スタッフ・ベッド等)の稼働率などは、一度データソースを決めてしまえばあとはダッシュボードにしてしまったほうが楽だと思います。私はPOSレジベンダーに乗り込んで日次でもらえるようにしたPOSデータと勤怠システムの打刻データを突合してスタッフの稼働率とか人時生産性とかデイリーで見ていました。

そうすると、「この店はスタッフの稼働率がパンパンだからヒマな店から人を持ってきたほうが良い」とか「もうベッドの稼働率がいっぱいだから増床するか近隣に店舗作ったほうが良い」とかわかります。

会議体は共通の数字を見ながら行う

以上のように可視化を進めると、会議体で数字が使えるようになってきます。

だいたいはPLと主要KPIを月次で一覧表にしたものを投影して、何が足りないとかあとどれだけで、そのためには何を何件やらなければとか議論すれば、ずっと感想を言い合うよりはるかにマシな会議体になります。

本社側ではなくフロント側(店舗など)の会議体の場合は、財務諸表を見せると情報過多な場合もあるので、売上とそれを分解したKPIツリーくらいを月次の一覧表にして、「先月の客単価が上がってますがこれは何かやりましたか?」とか、質問して答えてもらうことを繰り返しているとだんだん鍛えられてきます。

ここで重要なのは質問に対する答えが正解かどうかではなく、「質問される→自分なりに考える→答える」が続くと、「本社はここが気になってるんだな」とか「うちの商売はこういう要素で成り立っていて、ここを変えれば数字が動くんだな」が頭に入ってくることです。

会社というのはスタッフの一つ一つの行動の集合体なので、本社で誰かが素晴らしいパワポを描くだけではなく、お店でスタッフが「ポテトはいかがですか」と一声かける確率が上がって利益が上がるものです。なるべく多くのスタッフが意思決定のサイコロを振るときに「KPIを上げるほう」の目を出してくれるようにしなければなりません。

経営管理の優先順位

いろいろと書きましたが、状況によってはそんなにデータも人的リソースもないときもあると思います。そんなとき最低限何から手を付けるかですが、とりあえずは「変動PL+売上を簡単に分解したKPIツリー」で良いのではないでしょうか。変動PLが難しかったら、サービス業ならまあ普通のPLでも良いかもしれません。

時系列で推移が見られるようにして、変化について議論するだけでも、「まったく関係ないことを議論している」「精神論ばっかり」状態にはならないと思います。

また、項目の優先順位としては、

  • オペレーションの話(努力、根性、カイゼン活動)

    • 例:がんばって●件以上納品する

  • 事業構造の話(前提を変える、ゲームのルールを変える)

    • 固定費を下げる

    • 限界利益率を高める

のうち、レイヤーが高い会議ほど事業構造の話が多くなる方が良いです。理想としては。

よく見られる例として、「経営会議が営業会議化している」がありますが、それはオペレーションの話を経営レイヤーでずっとしている状態です。足元の数字は大事なのでほっとくとその話題ばかりになるのはわかりますが、役職が上の人や本社にしかできないこと(商品企画、ブランディング、マーケティング、店舗の改廃・移転、人の異動など)があるので、それをやるのがレイヤー上位の仕事ですね。経営会議と営業会議は分けるのもお勧めです。

まとめ

140文字に慣れすぎて久々に長い文章を書いたので、構造化が上手くできていないような気がします。説明の粒度もそろっていないかなと…

事業構造を変える(固定費と限界利益率を変える)には投資が必要なので変動PLを見るだけでなく次の投資を考えながら手元現金を残すとか、なければ調達するとか、BSやCFも見ながら会社の運転をする必要があり、それは今回あまり触れられていません。

また、要員計画・人事管理は会計畑からキャリアを伸ばしてきた計数管理屋が忘れがちで、気づいたら来期の売上に必要なスタッフがいないとか、採用とリテンションにテコ入れしないと中計実現不可能なのに気づいてないとかありがちです。そのへんの話も今回入っていません。

PL経営と揶揄されがちですが、まずはPLと主なKPIを時系列で可視化して、「オペレーションの話なのか、事業構造の話なのか」を意識しながら会話するところからが第一歩ではないでしょうか。

お粗末様でした。

無料部分に全部書きましたが、もし投げ銭してもいいなと思われたら以下からどうぞ。

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