三上章 『象は鼻が長い』 まとめ
第一章 「ハ」の兼務
本務と兼務
「Xハ」には、本務と兼務の両面がある。
本務
題目の提示、述部の言い切り(文末)と呼応して一文を完成する仕事
兼務
文章の中味への関与
「ガ」「ノ」「二」「ヲ」「 」の代行
兼務の具体的な内容は、主に「ガ」「ノ」「二」「ヲ」「 」(時間を表す空白)の代行。
父は、この本を買ってくれました。
→ 父が、この本を買ってくれた。(「ガ」の代行)
象は、鼻が長い。
→ 象の 、鼻が長い。(「ノ」の代行)
日本は 、温泉が多い。
→ 日本に 、温泉が多い。(「二」の代行)
この本は 、父が買ってくれました。
→ この本を 、父が買ってくれました。(「ヲ」の代行)
昨日は、台風が吹いた。
→ 昨日' '、台風が吹いた。(「 」の代行)
兼務の他の仕方
名詞の反復
タイは、明石沖で取れるのが最上だ。
→ タイ(類概念)の、明石沖で取れるタイ(種概念)が最上だ。
状況の提示
ふむ、これはなにかあったらしい。(これ=なにかがあったという状況)
結果の提示
これは、道を間違えたかな?(これ=道を間違えたという結果)
特殊語法
Aはもとより(もちろん、言うまでもなく)、Bも、Cも…
まとめ
連用―ガ、ヲ、二 【代行】
連体―ノ 【代行】
名詞の反復 【先行】
状況や結果の提示 【先行】
特殊語法?(未検討のもの) 【先行】
※ 先行:代行以外の「ハ」の兼務
第二章 「ハ」の本務
題述の呼応
係助詞「ハ」は大きく大まかに係る(文末にまで達する)。
格助詞「ガ」「二」「ヲ」、連体詞「ノ」は小さくきちんと係る。
例
甲は、乙に丙を紹介しました。
→ 甲は―ました。(本務)
→ 甲が―紹介し(兼務)
「Xニハ」「Xヘハ」「Xトハ」「Xカラハ」などにおいては、「二」「ヘ」「ト」「カラ」がそれぞれ兼務に当たる役割を果たすため、「ハ」は本務のみを果たす。
題目の提示
「ハ」の本務は題目の提示。
その効力はピリオドを越える。
例
吾輩は猫である。
(吾輩は)名前はまだ無い。
(吾輩は)どこで生れたか頓と見当がつかぬ。
(吾輩は)何でも薄暗いじめじめした所でニヤーニヤー泣いて居た事丈は記憶して居る。
一方で、余力があるあまり、明確に遮断しなければ題目の混同を招くことがある。
さらに立ち消えになることもままあるため、注意が必要である。
ソレ
述部において、上の題目を指すときには「ソレ」を使う。提題とは、題目を「ソレ」の領域に差し出すことだとも言える。
例
日本の現代文学は、それ(=日本の現代文学)が始まってからその(=日本の現代文学)伝統ができたと言えるほどの時間も経っていない。
「Xハ」は、通りがけに途中の副次句にも係る。
副次句は2種類に分かれる。
中立法であるか否か、すなわち主要句と対等な副次句であるか従属的な副次句であるか。
例
西ベルリンの会議ホールは、たいへんモダンな建築で、赤い丸い胴体の上にチョウの翼のような屋根がはり出している。
→主要句:会議ホールの赤い丸い胴体の上にチョウの翼のような屋根がはり出しているコト
→対等な副次句:(会議ホールが)たいへんモダンな建築であるコト
例
この機械は、去年買って以来、まだ一度も故障を起こさない。
→主要句:この機械がまだ一度も故障を起こさないコト
→従属的な副次句:(この機械を)去年買ったコト
「Xハ」は、従属句に対しては代行の義務がないため、代行しても通りがけにたまたま代行するという程度。
だから、代行を断って、従属句自身が「ソレ」を備えることも多い。
例
暴力は、それ(=暴力)が如何なる形であろうと、断固として阻止しなければならぬ。
一章の分類における1. 連用は代行一点張り。
対して2. 連体は先行に変わることもある。
この違いは連用と連体との違いから来る。
用言(動詞)はガノニヲを強く要求する。
主要句の要をなす用言はただ一個であり、それが要求する格助詞もある一格は原則として一個。
しかし、体言(名詞)は必ずしもノを要求しない。
また主要句の要となる名詞は二個以上の場合もある。
例
虎は、姿が見えなかった。
→ 「見え」に対して「姿が」が存在するため、この「ハ」は「ノ」の代行。
→ 虎は、その姿が見えなかった。(意味が変わってしまうため、NG)
例
虎は、姿を見せなかった。
→ 「見せ」に対して「虎は」が存在するため、この「ハ」は「ガ」の代行。
→ 虎は、その(=虎)姿を見せなかった。(「ノ」はおまけの代行なので、先行に変わってもよい)
第三章 「ハ」の周囲
「ナラ」
「Xハ」以外にも、題目を提示する形式はいろいろある。
「Xハ」はおおよそ「Xについて言えば」という心持ちのため、条件法的なニュアンスが存在する。
例
新聞が要るなら(ば)、ここにありますよ。
新聞は、ここにありますよ。
Xナラ
相手から話し手に移りつつある題目、条件付きの題目
Xハ
すっかり話し手のものになっている題目、無条件の題目
「モ」
条件法「Xナラ」は「Xハ」の前段階。
「モ」は「ハ」に何かを加えたもの、追加や譲歩を表す。
また「モ」も「ハ」と同じレベルの代行を行う。
単独な提題:彼は来た。
追加の提題:彼も来た。
ただの条件法:雨が降れば、
譲歩の条件法:雨が降っても、
「X―」
もう一つ提題の手法として、助詞を伴わない名詞「X―」がある。
よく抜けるのは「ガ」「ヲ」「二」
例
あの映画―、とても良かったわ。
あの人―、これ―、読めるかしら。