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《近未来?空想科学社会妄想小説》《ショートショート最新作》     『20XX年、最新式H2P型(水素力)空母【勝海舟】、就役』            歳池若夫・作

 JMSDF改め新生日本防衛海軍がこの度就役させた水素を動力源とする初の航空母艦aircraftcarrierの艦名は、【勝海舟かつかいしゅう】に決まったとか。
 他にも、【西郷隆盛】とか【大久保利通】とか【岩倉具視】とか英傑の名前が候補に挙がっていたらしいけれども。
 実のところ、大昔の明治維新時の賊軍敗軍の艦長名を政府軍新造艦に冠するのは如何なものかという意見もあったらしい。それでも、今世紀半ばから起きた地球全域に拡がる社会動乱の中で、自国民に大衆受けして士気を大いに高めるであろうという虫のいい予想や、名前が「勝つ海の船」と縁起良く解釈できるという事で、栄えあるH2P空母【勝海舟】に決まったようである。(ずいぶんまぁ、軽佻浮薄な話だと思うが……)

 そんな新生帝国海軍旗艦一番艦の就役式を取材しに、わたしは、同僚の記者を伴って、神奈川県横須賀にある国防総省海軍鎮守府総合基地に赴いた。
「しっかし、GDPがカナダにも抜かれたっていうこの御時分に、よくまぁこんなドでかい軍艦造るよなぁ。何考えてんだか。我が国トップのひろ……西村首相殿は」
「しゃぁしゃぁと憲法まで改正しちまってよぅ。国民の意見や意思は真っ二つに分断されて、社会は混迷の坩堝るつぼに陥ってるってのに……」
「おいおい、あまりぼやきなさんなって。落ちぶれた我々新聞記者は、目の前にある事実だけそのまま大衆に伝えりゃいいんだ。今は、純然たる客観報道しか許されてないんだから」
「ふん。わかってらぃッ。俺たちゃ時代遅れのオールド・メディア人だって事くらい。でも、ま、新空母の艦名が【東郷平八郎】や【山本五十六】や【中曽根某】とか【安倍某】にならなかっただけマシか。海の向こうのアメリカじゃ、最新の原子力宇宙軌道戦略ステーションに【ドナルド】だの【イーロン】だの命名してるんだしな」
「世界はすっかり変わっちまったんだ。変わってないのは、俺たちカビの生えた古いブン屋の頭の中と、ペンを持つ手だけさ。おっと、『ブン屋』だの『ペン』で記事書くなんて言い方は、文字通りもうカビが生えてるわな。たはははは……」

 タクシー代をケチな会社から出してもらえない私たちは、てくてくと自分の足で歩いて、横須賀鎮守府基地のゲートをくぐった。
 旧アメリカ海軍基地の跡地に造られたこの広大な基地の中には、先ごろ沖縄の海底から引き上げられた旧帝国海軍一番艦【大和やまと】の巨大な復元モニュメントも展示されている。
 私は、特設3番バースに横付けされた新造の超巨大最新鋭国産水素動力H2・powered空母の姿を見た。
 おめーら大袈裟に騒いでんじゃねぇっと、べらんめぇ口調で周囲を威嚇するかのごときそのフネは、先ごろ北方の海域に出現した巨大原子力空母【ウラジミール・なにがし】や、西のお隣にある某大国が持つ自画自賛最強戦艦【ぼうチー……】には及ばないものの、全長980メートルのカタパルトを装備した巨躯は、まるで動く海上空港のようである。
 市ヶ谷にある国防総省の軍楽隊が懐かしいアナログ楽器で景気のいいマーチを演奏する中、私と同僚記者の二人はタラップの階段に足を掛けた。
 巨大な特殊合金製の壁の頭上で、私たちの勤める某老舗全国系新聞社の社旗に図案がよく似た朝の太陽の旗がはためいている。その伝統の旧々帝国海軍・旧JMSDFの旗と一緒に、まっさらの白地に赤い丸の日本国旗が美しく映える。
 視線を後方に向ければ、堂々たる艦体の船尾には、今回の新造艦の名前が楷書を使って掲げられてあった。
 その字体こそ、西村首相の盟友とも言われている現官房長官が、浮かれて酔っぱらって殴り書きで揮毫きごうしたものらしいが……
(どうでもいいけど、新任の堀江官房長官、ホントは西村総理と仲がいいのか、悪いのか……まあ、お二方とも、この船も日本の国も、沈没させないようしっかりお願いしますよ)

 私は、【勝海舟】の艦名の横に掲げられた或る紋章を見逃さなかった。控えめに小さく掲示されてはいるが、それは、我が民族の先人たちが築き上げた英々たる歴史と誇りを表すものであった。
 インスタに載せる写真をあちこち撮りまくってる同僚を横目に、私は、艦名の隣に刻印された件の紋章「あおいの御紋」を一瞥し、不謹慎ながら鼻歌を口遊くちずさんでしまった。
 その曲こそは、遠い遠い昔にあった平和な世で、祖々父のじいちゃんから子守歌で聞かされた当時の国民的人気TV時代劇『水戸黄門』のテーマソングであった。
……じ~んせぇ、○×▼♯▲◇≒●

(※江戸時代末期に活躍した幕臣勝海舟〔勝安芳〕の家紋は、実際には『丸に剣花菱』でした。この小説では、日米修好通商条約批准書交換のためアメリカに渡った徳川幕府所有の軍艦『咸臨丸』に、勝海舟艦長があおいの御紋の艦旗を掲げようとしたという逸話を基にしております)  

  ――(了) 

(※この作品は妄想小説フィクションです。登場する人物や団体組織や艦船などはすべて架空のものです)
(※この作品の他にも、おバカな空想科学?未来?妄想小説や、本格謎解き探偵小説〔バカミス?〕など幾つかの習作をnoteにて公開しております。ご笑読いたたけましたら幸いです)

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