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正しい街、について

「アナーキーなあなたに似合うためにさめざめ泣いたりしないから今すぐここでキスして」と椎名林檎が書いたのは17歳だし、「最後のキスは煙草のフレーバーがした」と宇多田ヒカルが歌い上げたのは16歳。

いずれも名曲揃いだが、名歌手たちの当時の若さに震えてしまう。

これらの曲には彼女達の青春が存分に詰まっているのだろうと思う。
タイムカプセルのように曲の中に閉じ込めた気持ちは、歌を口ずさむたびに想い溢れてしまうのではないだろうか。


最近、よく聞いている歌で椎名林檎の「正しい街」という曲がある。
これは彼女が18歳のときに制作した曲で、デビュー直前、福岡で交際していた当時の恋人へ上京するための別れを告げた際のやりとりと心情を綴った曲だそうだ。もしかしたら、「ここでキスして」で大好きだった「彼」と同一人物だったのかもしれない。
この歌詞には、福岡の地名である「百道浜」や「室見川」が登場するので、なんだか少し親近感を覚えてしまう。
彼女は、この曲を必ずアルバムの1曲目に収録すると決めていたそうで、実際に1stシングルである「無罪モラトリアム」の一曲目を飾っている。

何て大それたことを夢見てしまったんだろう
あんな傲慢な類の愛を押し付けたり
都会では冬の匂いも正しくもない
百道浜も君も室見川もない

もう我が儘など 云えないことは分かっているから
明日の空港に 最後でも来てなんてとても云えない
忠告は全て いま罰として現実になった

あの日飛び出した 此の街と君が正しかったのにね

彼女にとっての「正しい街」が故郷・福岡で、最愛の彼を振り切って夢を追って向かった東京は「正しくない」のだ。

この、「正しい / 正しくない」という表現がなんだかとても青くて、ストレートで胸にそっと迫るのだ。1999年にリリースされた曲である。


「ああ、あんな気持ちがあったね」と、歌うたびに思い出すのだろうか。
そして、その曲を聞いた誰かも、自分の記憶と重ね合わせて少し切ない気持ちになったり、そういうことがあるのだろうか。
そんなことを考えてしまった。



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しらも
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