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生成AIは資産運用に応用できるか

 ChatGPTに代表される生成AIについて改めて語るまでもないが、今後数年間は世界のルールメイカーとして君臨することはほぼ間違いないだろう。大企業を中心として、既にビジネスの世界では実際に活用が始まっている。さて、そんな生成AIの代表格と言えるChatGPTは、個人レベルの資産運用に活用できるのだろうか?
 生成AIを活用する際に最も重要なポイントは「プロンプト」と呼ばれる指示文を的確に書くことだ。生成AIは人間の質問や問いかけに対して、生成AIが回答を作る形で行われることが一般的であるが、質問の意図がわかりにくいケースでは、AIもうまく回答することができない。生成AIの回答が期待している内容と違うことを理由に、「生成AIは使えない」という趣旨の発言をする人物をよく見かけるが、この場合、残念ながら使えないのは質問者の頭の方であって、生成AIではない。
 プロンプトが重要なことが理解できたところで、下記の通り資産運用のアドバイスを求める簡単なプロンプトを書いてみた。早速ChatGPTに質問してみよう。


ープロンプト(筆者作成)ー
#命令文
あなたはプロの投資アドバイザーです。
以下の制約条件をもとに、最も期待値の高い投資戦略を提案してください。

#制約条件
・アドバイスの対象は日本国内に在住する日本人とすること
・顧客の資産状況に関係なく、誰でも採用できる内容であること
・リスクとリターンの期待値が最も高いポートフォリオであること
・運用にかかる費用は最小に抑えること
・ポートフォリオを1種類に限定し、資産分配の割合まで示すこと
・提案は具体的な商品名や銘柄名まで提案すること
・ポートフォリオの持つリスクとリターンの数値を明示すること
・運用の手間が少なく、シンプルなポートフォリオにすること



以下にChatGPTから得た回答を示す。一部ツッコミを入れたい部分はあるが、一読の価値がある内容だ。


投資戦略提案

ポートフォリオ: シンプル全世界株式型(長期成長重視)

資産分配割合

  • 全世界株式インデックスファンド: 100%

推奨ファンド

  • eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)

    • 特徴: MSCI ACWIに連動し、先進国・新興国を幅広くカバー。信託報酬が業界最低水準(0.1133%程度)。

    • メリット: 1本で分散投資が完結。運用コストが非常に低く、初心者でも管理が容易。

リスクとリターン

  • リスク (標準偏差): 15%

  • 期待リターン: 年率 7〜8%

選定理由

  1. 高リターン:

    • 世界全体の株式市場に投資し、経済成長の恩恵を最大限に享受。

    • 新興国の高成長も取り込むことでさらなるリターンを期待。

  2. 低コスト:

    • 信託報酬が0.1%程度と極めて低い。

    • リバランスの必要がないため、運用の手間と費用を最小化。

  3. 分散効果:

    • 先進国と新興国の企業約3,000社に投資するため、国・地域リスクを軽減。

  4. 運用の簡潔さ:

    • 単一ファンドで十分な分散を実現。初心者から経験者まで利用可能。

運用の手間を省く工夫

  • 積立投資: 毎月一定額を購入する「積立設定」を活用し、相場の変動を気にせず運用。

  • NISA活用: 非課税枠を最大限利用して運用益を確保。

総評

このポートフォリオは、運用の手間を最小限に抑えつつ、世界経済の成長を最大限取り込む設計です。シンプルで初心者にも扱いやすく、長期投資に最適な選択肢です。



 さて、回答内容について少し考察してみよう。まず大前提として、今回筆者が作成したプロンプトは難しい注文を数多く付けている。「日本人が誰でも実行でき、リスクとリターンの期待値が最も高く、低コストで実現できるポートフォリオを作成し、その際に具体的なファンド名まで示し、リスクとリターンの数値を明確化した上で、個人でも運用が簡単な資産運用の提案をせよ」という内容だ。プロや専門家と呼ばれるような人物でもこの質問に的確に回答できるのは、ほんの一握りだろう。
 ChatGPTの提案は全世界株式インデックス1本のみで運用する極めてシンプルな内容である。重要なポイントは今回プロンプトに盛り込んだ制約条件は全て投資家側にとっては有利な内容ばかりである点だ。投資家が有利な条件を詰め込んで、なるべく簡単な運用にしてほしいと質問すると、全世界株式インデックスが最適ということだ。(言うまでもないことだが、少しでもプロンプトの条件を変えると、ChatGPTも回答を変化させるので、盲信は禁物である)
 時価総額ベースの全世界株式インデックスならシンプルかつ効率的な運用を実現できることは事実であり、機関投資家やアクティブファンド、ヘッジファンドなどを含めたほぼ全ての投資家にとって、全世界株式インデックスに勝つのは容易なことではない。一方、全世界株式インデックスにデメリットが存在しないわけではない。メリットの方が遥かに大きいことは事実だが、以前デメリットに焦点を当てて考察したことがあるので、興味があれば合わせてご覧いただきたい。

結論

 ChatGPTは資産運用の分野でも活用できる可能性がある。ただし、人間が指示を出す際に作成する「プロンプト」が最大の肝であり、聞き方が曖昧だと回答も曖昧になる。プロンプトの作成は短文であっても要点を捉え、AIが問いかけの意図を具体的に理解できる内容にする必要がある。例えば、「簡単に儲かる投資方法を教えてください」などという抽象的な質問をしても、本記事で紹介した内容とは全く異なる回答が返ってくるので、読者諸君も試してみてほしい。
 また、生成AIは極めて利便性の高いツールであるが、回答内容の良し悪しについて、最低限の判断ができる基礎知識はあった方が良い。前提知識がないと、そもそも「良いプロンプト」が書けないし、情報の良し悪しが判断ができない状態は情報弱者そのものだ。プロンプトを作成する際に、生成AIの回答について、事前にある程度推測できるくらいの知識レベルが人間側(質問者)にも必要だ。今後、生成AIが進化したとしても、AIに全てを任せられるということにはならないだろう。
 前提となる基礎知識を持った上で活用すれば、生成AIは資産運用の世界でも強力なツールとして活用できるだろう。

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