新たなシリコンバレー?急成長を遂げるフランスのスタートアップ・エコシステムの4つの事実
「スタートアップ」と聞いて、シリコンバレーを思い浮かべる人は多いと思います。
シリコンバレーのような、世界中から起業家が集まり、新たな製品・サービスを続々と生み出すスタートアップ・エコシステムは世界中の大都市に存在します。
スタートアップ・エコシステムのサイズは都市によって様々ですが、近年、フランスのエコシステムが急成長を遂げている事をご存知ですか?
ロンドンに次ぎ、欧州内で二番目に大きいスタートアップの中心地として進化をしているのです。
本記事では、あまり知られていないフランスのスタートアップ・エコシステムに関する4つの事実を紹介します。
1. 100億ユーロの投資 - 国家の主要戦略
フランスは欧州でもトップのスタートアップの発祥地になる事を目指しています。実は、フランス政府は自国を「デジタル共和国」や「スタートアップ国家」へ育てる事を、目標として公に掲げているのです。
フランスのスタートアップ育成への意欲はその投資額やリソースの投入規模から伺えます。
スタートアップ育成へ本格的に舵を取ったのは2013年。ラ・フレンチテック・イニシアチブをローンチします。フランス発のスタートアップを「フレンチテック」として売り出し、起業家をサポートするため様々なプログラムを打ち出しました。
2017年には、フランス政府は100億ユーロを捻出し、スタートアップ創出を促進する為のイノベーション・ファンドを設立しました。
その後も2022年に至るまで約570億ユーロを投資し続け、NETVAやYEiなどのプログラムを生み出し、アクセラレータープログラムの増加や若年層の起業家輩出を実現しました。
実際に数字を見ると、国家戦略としての成果を確認できます。
2022年現在、フランスには10,000以上ものスタートアップが存在しています。過去4年間で30%もの成長を遂げました。
2000年以降に創立されたスタートアップの価値は総額1,930億ユーロにも登ります。(2010年の数値と比べると、18倍まで成長しました)
2. ユニコーン大国
2022年現在、フランスは26ものユニコーンを有しています。(日本国内では10つのユニコーンが存在しています)
ユニコーンとは、「上場をしていない10億ドル以上もの価値を持つスタートアップ」を指し、スタートアップエコシステムの魅力度を示す指標として時折使用されます。
ユニコーンに関するデータを見てみると、フランスのスタートアップエコシステムがどれほど急成長を遂げているのかを実感できます。
例えば、フランス国内で創立されたユニコーンの総数は31を超えました。これはヨーロッパでもユニコーンの輩出数で有名なスウェーデンとオランダのユニコーン総数を超えたものになります。
ユニコーンの誕生するスピードも欧州内でトップを争い、2016年から7.5倍も成長しました。
それだけではありません。フランスには90以上ものユニコーンへの成長が見込まれるスタートアップが存在します。この数はイギリスとドイツに次いで欧州内で3番目に大きい数字です。
ユニコーンの成長に伴い、マクロン大統領はデカコーンを新たなスタンダードとして見据えています。(デカコーンとは100億ドルもの価値を超えるスタートアップを指します)
世界中に存在する44ものデカコーンの内、フランス発のデカコーンはまだありません。しかし、近年の目まぐるしい成長を考慮すると、フランス発のデカコーンの誕生は目前に迫っているかもしれません。
フランス発のスタートアップが気になる方へ、いくつか例を紹介します。
Alanは健康保険を簡単かつ安価でアクセス出来る事を目標としたプラットフォームです。
Ynsectは環境技術を用いた、アグロフードのスタートアップです。
Meeroは人工知能 (AI) を用いた写真加工技術を提供します。
3. フィンテックと人工知能 (AI) 分野における強み
スタートアップでも、フランスが牽引をしている分野が2つあります。フィンテックと人工知能 (AI)です。
フィンテックをまず紹介します。2021年、フランス発のフィンテック・スタートアップは総額272万ユーロの調達に成功しました。
2020年と比較すると、調達額は74%も増加しました。また、イギリス(800万ユーロ)とドイツ (350万ユーロ)に次いで欧州内で3番目に大きい額になります。
2021年に誕生した13ものユニコーンの中でも、5つがフィンテック・スタートアップです。(Ledger, Lydia, Swile, Alan, Swift Technology)The Paris Fintech Forumなどの欧州内最大級のフィンテックイベントもフランスで開催されています。
その一方、フランスはAIの分野においてもリーダーとして頭角を現しつつあります。実はフランス政府のスタートアップ戦略の中でも、マクロン大統領は「デジタル、AI、サイバーセキュリティ、量子」に特に力を入れているのです。
現在、フランスには520ものAIスタートアップが存在し、2021年の調達額は総額16億ユーロに上りました。
フランス政府は更なるAIスタートアップの育成を目指しています。2021年にマクロン政権が発表した投資プラン、フランス2030では、人工知能分野におけるフランスの発展がひとつのプライオリティとして挙げられています。
実際、フランス政府はAIの発展を目指しフランス政府は20億ユーロの追加投資を検討しています。
フィンテックと同じく、フランスのAIスタートアップの総額調達額は2021年から2022年の間に7億800万ユーロから16億ユーロへと急増しました。
この背景とフランス政府の投資プランを鑑みると、更にAI関連のユニコーンがフランスから誕生するのではないかと考えられています。
4. グローバル展開とプロモーション
今までフランス国内の背景を紹介しましたが、ここでフランスがどのようにグローバルステークホルダーを巻き込んでいるのか、自国のスタートアップ・エコシステムを投資家などにどう宣伝をしているのかに触れたいと思います。
主な例として、政府とスタートアップを繋げる役目を果たすラ・フレンチテックがあります。
ラ・フレンチテックは世界中に拠点を持っており、フランス国内の拠点を含めるとその数は108にも及びます。各拠点ごと、現地のフランス人起業家や投資家から成り立つコミュニティとして機能しています。
ラ・フレンチテック東京では日本拠点のフランス人起業家や日本人投資家などをサポートしています。直近では日本進出を果たしたフランスのユニコーン、バックマーケットにインタビューを行い、日本進出の背景やフランス人起業家へのアドバイス等を伺いました。
海外に拠点を持つフランス人起業家をサポートする傍、フランス政府はラ・フレンチテックを自国のスタートアップ・エコシステムのプロモーションのチャンネルとしても使用しています。
実際、フランスのスタートアップ・エコシステムの成長に海外投資家は大きな役割を果たしています。2021年、フランスのスタートアップへの投資総額の内、60%もの投資は海外投資家からによるものでした。
(最近では日本のソフトバンク社がフランスのユニコーン、Sorareに5億8000万ユーロ投資を決めた例があります。)
ラ・フレンチテックなど、世界中に広がるコミュニティを使用し、フランス人起業家のグローバル展開をサポートする間、海外投資家などにスタートアップ・エコシステムを宣伝し、自国のスタートアップを育てていく - フランスがスタートアップ大国として成長を遂げている背景には、ラ・フレンチテックが大きな役割を果たしています。
まとめ
結論として、フランスは目まぐるしい進化を遂げています。
スタートアップの数や調達した資金量などのデータを見ると、フランスのスタートアップ・エコシステムが大きな成長を遂げ、世界中の投資家が更に注目をしている事が伺えます。
まさに自国が掲げたスタートアップ大国へと成長しつつあるのです。
シリコンバレーがスタートアップの代名詞となった様に、フランスが欧州のスタートアップの代名詞になる日は近いかもしれません。
記事にあるように、ラ・フレンチテック東京ではフランスへ事業拡大を検討している日本人起業家、フランススタートアップへの投資を検討している日本人投資家のサポートも行っています。ご興味があればぜひご一報ください!(基本的にサイトやニュースレターでは英語で発信をしていますが日本人スタッフもおりますので日本語でお気兼ねなくお問合せください)