夜が明けるまで~連載第六話 「昭和のおっさんからの質問」
~これは過去に長期失業した経験を小説風にした孤独な戦い第六話です~
怒涛のような就職活動中では、いろんな憂き目に遭うものである。
季節は夏になっていたが、そんなことは関係なく就職活動は続く。
その日、いつものように「非正規社員から正社員を目指すハローワーク」に行くと、東横線沿線にある音楽教室の受付の仕事がある、と担当のハローワーク職員はニコニコ顔だった。
それもそのはず。これは今、私がアルバイトで通っている仕事と全く重なるではないか。
職場はかなり遠いが、よし受けてみよう、ということで、ハローワークの担当者も自信満々に私を推薦してくれたのである。
ところが、これが今世紀最悪の面接になるとは、この時は予想もしなかった。地図を見ながら、ゆるやかな坂を上りその音楽教室を見つけた私は、
「大丈夫か?」と思った。
私がバイト中の世田谷の音楽教室より更に古そうな建物。
1階は一応楽器と楽譜が置いてあるが、店員というか係の人の雰囲気が如何にも景気が悪そうなやる気のない様子。
「2時に面接のアポイントを頂いている者ですが。」と声をかけると、面倒くさそうに
「ああ、2階へどうぞ。上がった廊下の突き当りです。」と案内される。
言われた通り2階に上り、廊下を歩いてそのドアを見つけた。
「これが社長室?文房具を収納する倉庫じゃないの?」という風情。
恐る恐るノックすると
「どうぞ。」と言うので入ると、少しくたびれたポロシャツ姿のおじさんが座っていた。
およそ音楽教室を運営にしているようには見えない。
そして私の予想したとおり、応接間兼倉庫のようだった。
よくみると、部屋の端にある棚には文房具やその横には古いもう使っていないだろうと思われる楽器が無造作に置かれている。
私の履歴書にサッと目を通したその社長は、
「ふ~ん、結婚していないんだ。あれ?子供もいないの?ふ~ん。」
一瞬、何を言われているのかわからなかった。
衝撃だった。
今どきこういうことを平気で言う、生きた化石のような昭和のオジサンがここに生息していたのだ。
あまりの屈辱に、一瞬言葉を失うが、なんとか気を取り直して、職歴と志望動機を説明した。
しかし、
「貴方が今、勤めている○○楽器の社長とはゴルフ仲間なんだよね。だから、その大切な人材を僕がもらったら悪いからね。それに貴方、ちょっと家が遠すぎるでしょう。」
暗にその場で断られたのだった。
ハローワークから担当者が電話したときに、既に現在働いている会社名も最寄りの駅も伝えている。
私は
「だったら、先にハローワークの人が電話してくれたときに、面接に来ても無駄だってわかったでしょう。その場で断ってくれたら、遠路はるばる来なかったのに。」と椅子を蹴って怒りたかったが、、、必死に堪えた。
さっき上ってきた坂道をとぼとぼと下りながらため息をつく。しかし、冷静になってから、その教室と社長の貧相な様子に
「そもそも人を新たに採用したり、ゴルフに行く余裕なんてあの会社、あの社長にあるのかしら。」と疑問が浮かんだ。
あの場では心から憤慨したが、落ちて良かったのかもしれない、と自分を慰めたのだった。(第七話に続く)