夢日記『綺麗な鼻』2020/9/27
私は高校生だった。なんでもない普通の制服に身を包み、女の子ばかりの空間で立ち尽くしていた。振り返ると後輩が笑った。
可愛い子であった。形の良い鼻が右斜め上からざっくりと削がれて、辛うじて空いた二つの穴に今もまだ血が滲んでいた。
「居た」
私は微笑んだ。
「行こうか」
彼女も微笑んだ。穏やかな顔を縁取る髪が、ゆっくりと頷いた拍子に彼女の肩を滑って、さらりと揺れた。
二人で連れ立って歩いた。手は繋がなかった。
私たちの横を沢山の同じ服を着た女の子が過ぎていった。
脇を歩く彼女の顔は凪いで、春の泉のように柔らかであった。どこか哀しみを湛えた静けさが私の胸にひたひたと触れた。
真ん中が抉れても、彼女は変わらず綺麗な顔をしていた。
「せっかく綺麗な鼻だったのにね」
彼女は泣き笑いで顔を歪めると私の肩に寄りかかった。優しい赤ん坊のような匂いが鼻先を撫でていった。
彼女は知らない女の子であった。それでも私の愛しい後輩であった。
夢日記 2020/9/27
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