近くて遠い異国の話
私の住む街にはアメリカが存在します。 ベースと呼ばれる所謂アメリカ海軍基地。
子供の頃から歩いてると肌の色が違う人が「Hey!」「It’s cute!」と声をかけてウインクをするそんな所で私は育ちました。子供の頃からそれらは当たり前だったので中学生の頃には普通に会釈したり時には挨拶を交わしたりが私の日常でした。
然しながらそれが夜のベース付近となったら
話は別格です。ベースのある町はBARやスナック、クラブにライブハウス、ダーツにビリヤードやカラオケが置いてある遊技場とミリタリーショプにホテルとスーベニア※等々のお店が軒を連ねるストリートがあります。
ベースのゲート前には大きなイヤリングをぶらさげて化粧臭とNAVY※が好みらしい甘いVanillaの香水を振りまいた派手で如何にも普通の人とは違う異様な形相のyellowcab※と呼称される沢山の女性達がゲートから出てくるNAVYを今か今かと待ち構えています。
※NAVY 米海軍兵の全体の呼称
※yellowcab 女性蔑称の言葉なので最近は耳にしませんが、誰でも乗せる女性の事をそう呼ばれていたようです。
※スーベニア アメリカに帰る時に持ち帰る
お土産屋で、主に和柄の飾り物や浴衣など
海外の方が気に入る物を置いてます。
そんな場所だから子供の頃は親からベースの町に行くのは厳しく禁止されていました。 私が通う学校は丁度、家とベースに挟まれた位置にあり時間で言うとどちらにもそう遠くなく行ける距離でした。そして街の繁華街からベースまではもっと近い場所です。私が通う塾は繁華街の真ん中に位置し徒歩かバスで通い帰りはいつもNAVYや酔っ払いのいる遅い時間なのでバスで帰る日もあれば時には親が迎えに来る日もありました。
前置きが長くなりましたが..
そんな冬のある日。塾へ向かうバスの中でのこと。バスの後部座席に座るふたりの20代前半のお姉さんたちがベースの近くにあるとあるBARで今夜ロケがあるとコソコソ話。私の住む街は昔からよくロケがあるので特に気にせず、私は窓の外に目をやりながら洩れてくる話し声を聞いていると何やらドラマロケとの事。それも主人公は学校でも話題に上がる人気の歌手だった。
そこまで聞くとバスは私の降りる停車場に到着。信憑性のない内容に嘘かも知れないしと気を取り成して塾の階段を駆け上がり今日の教室に飛び込み息を整えて、嘘か誠か解らないけど先に来ていた仲間達に「嘘かも知れないけど..」とひと言付け足しバスの中の出来事を語り始めました。
10人位いた友達が最初はなんの話?と不思議そうに聞きはじめたと思ったらみんなビックリ顔。一斉に「うそ~?!」クラスがてんやわんやその内誰かひとりが「行ってみるか!」と「親から禁止されてる場所だし怖くない?」と女子。「俺らいるし大丈夫だろ」「見たらすぐ帰れば大丈夫しょっ」と男子達が顔見合わせ、ああだこうだ言いながら結局みんなあわよくば歌手や女優さんに会えるかもと思った様でロケに行く事に決定。いつもなら授業が終わると先生と雑談したり解らない場所を聞いたり試験範囲を勉強したりするのに授業を終えるとバタバタと教科書や筆箱ノートを急いでしまい少し緊張した面持ちとワクワクの高揚感を見せながらロケに行きたい子男女合わせて8人みんなで顔を見合わせて気を引き締めて隣町に向かいます。
続