『正欲』と『聖なるズー』
直木賞って同じ作家が2回以上取れるのでしょうか?
朝井リョウの『何者』は、直木賞にふさわしい完成度でかなり楽しめましたが、同じ作家が一度しか受賞できないのであれば、『正欲』のほうに。『何者』は、本屋大賞ってことで。
この著者のエッセイ集『風と共にゆとりぬ』『時をかけるゆとり』を読んだ直後だった。朝井リョウのことを「隣のアパートに住むおっちょこちょいの若者、ノリのいい普通の学生、ちょっとヘタレなお兄さん」のイメージが出来上がって手にした『正欲』。
ごめんなさい、大作家さん朝井先生。舐めてました、『桐島、部活やめるってよ』も『何者』も読んでいながら、まだこの作家の凄さに気づいてないとは。
だってエッセイ集があまりにおバカで笑わせるから・・・笑わせすぎ・・・
LGBTの文字が、違和感なく私の日常に溶け込んだかと思ったら、もう時代はLGBTQになっていて、アップデートに忙しい。
そして、この本に描かれる欲望。『聖なるズー』ほどのついていけなさはなかった。理解できると言ってもいいかも。少なくとも生理的嫌悪感は微塵も感じなかった。
ズーのほうは、申し訳ないけど私の理解の範疇を超えてました。登場人物の誰にも共感出来なかった。著書がノンフィクションライターとして、真摯に取り組んでいる熱意は伝わるが、「怖い世界を垣間見てしまった」という幼稚な感想しか、書けない。
『正欲』のほうは、諸橋大也にも佐々木佳道にも桐生夏月にも、共感できる部分がある。友達だったら理解している。かつて学生時代からの友人に、「同性を好きになった」と打ち明けられた時、ビックリするくらいビックリしなかった。むしろ応援したかった。その時と同じ気分。
この小説とノンフィクションの『聖なるズー』を比べるのも変だが、『正欲』を読んでいる間、1年ほど前に読んだこの本を思い出していた。
さて、『正欲』は読後の感想イコールネタバレになってしまいそうなので、未読の場合はこの下を読まないで下さい。
「明日、死にたくないと思っている」「いなくならないから」、この二つの言葉に希望を見出すしかない。