解析 UIゼンセン式オルグ
かつて日本の成長産業だった繊維産業は、労働組合を結成する際に元日本共産党最高幹部から転向組である鍋山貞親の一番弟子でもあった宇佐美忠信が中心でした。しかし内紛も非常に多かった産別で除名や分裂も多くあった組織でもあります。有名な事でいえば京セラ労働組合の一件です。元々産別に強い決定権を持つ全繊同盟において、独自で妥結する京セラ労働組合は異端であり、後に京セラだけでなくカネボウ労組も脱退、除名されています。現在では一部復帰しましたが、京セラ労働組合のような独自の動きを見せる労組もあり、順風満帆にここまでやってきたわではないです。ただ古くから組織化には熱心な団体で、繊維産業の風向きが変わってくると、サービス業に目をつけて大規模な組織化を行います。この手の労働運動は先に経営者に話を通して、労働組合を作っていくという一見労使協調どころか、私たちに対する永遠の悪口になる「労使協調」の「御用組合」ではないか?という批判です。
この手の批判は実際組織化には熱心であるが、作った後ケアをしないというゼンセン同盟の悪癖があり、それが内紛騒動の引き金になりやすいのですがただ単純に組織化を追い求めるなら非常に計算がしやすいものです。何せ単純に古くからの階級闘争しか知らない地方の老舗中小企業は案外ゼンセン同盟のオルグのような営業トークに特化した人たちに弱く、事実唯一産別において組織率を上げている以上この手の運動は否とは言い切れません。ただこの手の手法は必ずしもうまくいくものではなくありとあらゆる産別と「領土紛争」も起こり、組織化された以上どの産別よりも中央集権色が強いゼンセンに嫌気がさして大規模脱退が起こるのも事実です。どこが改善点で、どこを取り入れるべきなのか?現在ゼンセンのオルグは地方連合の組織化を担当する役割が多く行い、そうした事情である以上連合傘下の産別はゼンセンのオルグをよく勉強せねばならないといけない立場になりました。この手の話はなかなか正解に行きつかない。試行錯誤の日々でしょう。
ゼンセンの影響力
自民党に統一教会の事情が持ち上がった頃、「富士社会教育センター」というワードが多く報道されました。宗教団体「統一教会」は韓国の新宗教で、日本の保守系や民社党系勢力に多くの資金を注ぎ込み、その政策決定に強い影響力を持ったのは事実です。前述した宇佐美忠信は右翼団体「日本会議」の委員の1人であり、この旧同盟系労組の活動家育成施設であり、政策研究施設「富士社会教育センター」に反共主義の一点で同調し「統一教会」に近い人間が労組にも存在したのは事実です。ただ元は民社党委員長である西村栄一の創立した育成施設であり、「統一教会」というよりソ連などの脅威が消えて無くなれば、そうした人たちも存在感をなくしていき単純に元転向組の鍋山貞親の「反共主義」の影響を受けた人の方が圧倒的に多数派になりました。元はといえば日本の民主労働運動の潮流の一つに鍋山貞親も関わりがあったのだから、むしろ原点回帰でした。
全体の労働運動にどれだけゼンセンが強い決定権を持つかといえば別に他の産別と大きく変わらないです。宮崎県、滋賀県など繊維産業の拠点がある場所は有力単組の一つですが、それ以上のものではありません。どこかの週刊誌では、労働組合のドンとか言われていましたが、連合の組織の性質上ドンは生まれません。山岸章だってOBになれば決定権がなかったように、一時的にリーダーになっても任期があるものです。任期が終われば単純に退連で活動を続けるか、研究家になるかの2択です。例えば輿石東は労働組合出資の政治家として民主党に多大な影響はあっても、労働組合内における影響力はほとんどありません。それはそうです。政党と労組は別物ですから。
ゼンセン式オルグの賛否
連合本部の組織拡大局が打ち出した「組織拡大プラン2030」においてゼンセン式の組織化はかなり重要な役割を果たしています。ズバリ経営者団体や業界団体から交渉しにいくというゼンセン式の運動手法を踏襲しています。と言っても経営者団体は労務管理が楽になりそうという理由で話ぐらいは聞いてはくれますが、業界団体にとってはウンとは言えないでしょう。また労組側にも線引きが非常に難しいのも大きな問題として挙げられます。産業の発展を願うのは労使一緒で、当然自分の仕事が無くなることが労使ともに恐れている事なので、その点については一蓮托生でしょう。ただこうしたものが曖昧になればなるほど一方が豹変すれば深刻な分断が行われます。函館バスの闘争が実に最近では好例でしょう。
地場企業の組織化においてゼンセン型オルグは実に有効的ですが、それが長続きするかどうかはまた別問題です。ゼンセンから離脱した薬粧連合などもこの例ですが組織化が進めばゼンセンのような複合産別において、ケアが難しいのもまた真実です。例えばゼンセン傘下に「介護クラフトユニオン」という組織がありますが、この組織は介護保険で運営されている会社なら基本的に個人組合員になれる資格がありますが、一度個人組合員になると組合のパンフレットが送られてくるだけで基本的に横の繋がりは薄くなりがちです。しかもその後特に調査もしないので、介護クラフトユニオン組合員が転職して加入要件を満たさなくても、実数は不明になります。なので連合の組合員数は、いわゆる二重加盟で人数に関しては、一人一人正確に出すのは相当事務処理能力が必要です。間違いなくダブルで別組合それも連合傘下の労組にというパターンは割とあると考えます。案外こうした事務方の正確性に疑問な部分がある。それも連合労働運動の一面の一つでしょう。
組織拡大は誰がリーダーになるのか?
私はオルグの経験がないので、偉そうな事は言えませんが、かつての敏腕オルグから聞いてみると、誰からも慕われる人、人望がある人をその気にさせて労組のリーダーにすれば多数派は簡単。ほぼ全員が組織化する事も難易度は高くない。と言うものの人選を誤ると、組織化に動いた側はダメージを受けます。ゼンセンは多くの組織化を達成し、多くの組織化に失敗しました。若干筋違いのような気もしますが、その時労働者は会社より労働組合の方を不信になります。期待値が高ければそうなんでしょう。そう言う事はあると常に意識せねば、運動はまた伸び悩む事になります。
ユニオンシップ制度が希薄になった労働組合において組織化は常に悩みです。これは別に大企業労組も同じです。そして執行部と新規組合員の考え方の差も当然表面化しています。全トヨタ労連がいい例でしょう。トヨタ自動車の最大の強みは労組でキャリアを積んでも、最終的には会社が面倒を見てくれるという最大の強みでした。そんな会社が、終身雇用はもう古いと言われると若い社員も転職ありきになります。トヨタ自動車の経営方式は「カイゼン」よりも大家族主義のような会社だから、改善に答えを出すことができたのです。もう日本で車を作る気が失せた。国交省の怠慢がとトヨタの経営陣が国を批判しましたが、それにお追従をするようなトヨタが海外に行ったらどうする!という批判でした。海外に行ったら国内の生産拠点は清算されるだけです。トヨタ経営陣にとっては痛くも痒くもない。むしろ得かもしれない。一部キーボード戦士はトヨタという会社が残れば満足かもしれない。ただ清算された社員達の行く末は?
あのトヨタ自動車ですら不穏なことを言い出した。本当に労働運動の出番は待ったなしです。そうした組織化を軽視した先にあるのは、強力な権威主義でしょう。ゼンセン式でもその改善版でも私達は労働運動の大規模組織化を成功させねばなりません。