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ベルコ闘争2014

 雇用の流動化。ついに俎上に上がっており、所詮は一党派に過ぎなかった維新の会のみの政策が自民党総裁選の争点として上がってきています。仮に非正規雇用の問題はありますが、非正規はその福利厚生が不十分な面が大きいにしろ、「雇用」されています。雇用が大前提の日本の労使関係は外国からギグワークという概念が輸入され、早速外資が手広く全国に拠点を置いています。その流れに乗った日本企業も同じようなビジネスモデルを導入し、現在労働運動側としても多くのギグワーカー労働運動を指揮しています。自営業者なのか、労働者なのか?会社というものはよくも悪くも売上が下降したら、人件費はスパッと切られるものです。例え自分が自営業だと思ったとしても、一つ二つ好条件を勝ち取るのは、できれば職を失った後に担保にできるようなものを会社から勝ち取る運動も必要です。
 民族資本というものはとうに消え去り、多くの日本企業と言われる組織も海外に拠点を置き現地の人間を雇っています。先日某自民党の事務所が右翼民族派からNTT法についてなぜか攻撃を受けていましたが、NTTという企業でもすでに企業買収や海外展開などでグループの半数の社員が外国人です。その某自民党代議士は安倍晋三政権において、右翼的な内政を擁護しながら急速にグローバル資本主義体制を確立していった人間ではありますが、それをいうならもはや右翼民族派が望む日本の大企業はゼロです。日本の技術力を誇っている人もいますが、これだけ多角経営の結果日本国内の技術力はさっぱり。最後は組立だけ日本で行って、かつての日本製のブランドでさらに海外の上客相手に売り捌く。一種のブランド化に成功したのは、功績であると思いますが技術大国日本という評価はもはや当てにはならず、サービス産業が特化している現状、民族派も今後どう立場を変えるか分かりません。すでにそういう兆候はあります。日本版トランプ現象もルペンもメローニもリズ・トラスも望まない。しかしその下地は形成されてきているように感じます。日本の労働運動は別の闘いに移行します。

ベルコの雇用破壊のビジネスモデル

 きっかけは2014年に連合北海道にかかってきた一本の電話でした。どうも自分達は解雇されそうだ、どうすればいいか?普通の労働相談だと思っていました。聞けばCMもやっている大企業です。水面下で組織化を進めていた労働側は会社に露見してしまい、委託契約を解除されました。おかしな話と思いませんか?解雇の相談にきた労働者が実際会社側には委託契約の解除を受け、仕事を失った。これは冠婚葬祭企業大手の「ベルコ」の実態でした。一般的な企業であれば、本社が頂点に君臨し、支社が本社の統括に置かれ、支店が支社の管理下に置かれます。これは間接的とはいえ支店を管理しているのは本社です。支店の従業員は当然法人全体と雇用契約を結んでいるので、その契約を一方的に解除するやり方は、不当解雇に該当するケースもあります。
 それではベルコの場合はどうだったのか?まず本社と支社の関係は業務委託契約です。つまり、本社が支社をたたむ場合は業務委託を解除するだけで解雇要件などはベルコには契約上存在しない事になります。本社はまた支店に当たる代理店とも業務委託契約を結んでおり、その代理店の店長が従業員と労働契約を結んでいる状態です。コンビニエンスストアのオーナー契約に近いでしょう。支社と代理店の関係は雇用関係も業務委託関係もありませんが、支社が代理店全ての業務を管理します。ベルコの異常なところは代理店の店長どころか支社長すら業務委託契約であり、社員数7000人を超える大企業に正社員が30人ほどというあまりに前衛的とも言えるビジネスモデルでした。従業員に多大なノルマを課し、さらに業務委託契約で少し多めに報酬は与えられますが、社会保険は自己負担。結果手取りで25万が精々。これは非常に深刻な問題でした。法の隙間をついた労働法逃れであり、労働組合としては今後の運動に大きく禍根を残す社会問題として浮かび上がりました。
 こうした状況に本来なら指揮を取るのは連合北海道や全ベルコ労働組合が加入した情報労連でしたが、連合にも闘争本部が置かれ当時の逢見直人事務局長以下、村上陽子や山根木晴久など重量級のメンバーを揃えました。しかし労働者団体であり、労働組合ではない連合がこの闘争に直接交渉する事はできません。全国一斉的な闘争に関わらず、スピード感に欠けスケールメリットが活かせたかというといささか疑問でした。

敗訴からの反撃

 2018年札幌地裁は一つの判断を下しました。法律を裁く裁判所ですが、その労働者性を判断した基準が多くの人が指摘するように分かりにくいものでした。「業務の方針や成果に関しては細部にわたってYからの指示があり、これを拒否することは相当程度困難であった一方で、具体的な労務の遂行方法や労務の時間、場所については一定程度の裁量があったということができ、業務の代替性は乏しいものの、その業務を自己の計算によって行い、報酬額が労務の成果と対応しているものである。

したがって、KはYに従属し、Yに使用されて労務を提供しているとは言えないから、KがYの使用人であるということはできない」
この判決のおかしさは、懸念が大きいというより極めて企業側の思惑を代弁した不当判決でした。多くの人が指摘した通り、非正規雇用の労働者だってガチガチのマニュアル通りに動いている訳ではなく経験上から多少の裁量を持って職務を行います。労働者性の問題を事実上無くそうと考える悪徳企業経営者がこの判決を元で多く出ることも不思議ではないです。しかもベルコという会社は企業買収を仕掛けて肥大化した企業でした。いつのまにかベルコに雇用されていると思ったら、雇用されていなかったという人も多いのです。こういうことが常態化すれば日本の雇用契約は間違いなく無茶苦茶になります。
 次の闘争は労働委員会でした。連合は大々的なキャンペーンを傘下労組に向けて実施。様々なシンポジウムを経て、何度も闘うため多くの資金を集めました。
 2019年道労委では労働者性を認め、ベルコに対して誠実な労使交渉と謝罪文の提示を命じられました。2014年に起こった平成最後の大闘争は中央労働委員会と札幌高裁に当てられました。

雇用を守るために

 時系列としては2022年1月に札幌高裁においてベルコと全ベルコ労働組合との間に和解が成立しました。北海道労働委員会の判断を高裁もそのまま援用しました。法廷闘争は裁判所だけではなく労働委員会も重要な場所です。連合は棗一郎弁護士など労働弁護士を揃え、一部組織内が国会で問題提起をしてくれたため追い風は吹いていました。早稲田大学の石田眞教授は19世紀の労使モデルに近くなっていると指摘しました。当時の鉱山は事業者と労働者の間に中間管理をするもの現場では親方と言われましたが、彼らを挟むことで事業者としての責任を逃れようとしたケースが非常に多かったどころか、それが普通のビジネスでした。19世紀、労働運動が本格化した時代のビジネスモデルが労働運動が弱体化した現在に蘇った。何ともいえない気持ちです。
 中央労働委員会ではベルコ本社と支社との関係が一体なのか、契約上はなんら雇用契約を結んでいる訳ではないが実質的に代理店は支店の傘下であり、その責任はベルコ本社に問われるかどうかが焦点でした。棗一郎弁護士はじめ、こちらは正真正銘労働法のトップレベルの弁護士で臨んだ絶対に負けられない闘争だったので、その力点は様々な単組にも影響を与えました。
 2022年3月の中央労働委員会では全面的に連合側の主張は認められ、完全勝利します。そして連合側には一つの課題が浮かび上がりました。連合が労働組合ではないので、こうした法廷闘争の際、もっとスピード感持った組織体を設置すべき事と集団的労使関係の再構築です。従業員を個人ではなく1つの集団とみなし、企業と対等な関係を構築する考え方。これは労働組合があるかなしかに限らず、こうした運動を行っていかなければアメーバのように広がるベルコのような企業に対応が出来なくなる、一つの対案でした。当時連合ではJAMが中心となっていた日本コンベヤ闘争と同時進行でしたが、企業買収をきっかけとした労組潰しなど労働側として早急に対応をしないと存在意義すらなくなる瀬戸際だったと考えています。
 ベルコ闘争は2014年から2022年。期間としては7年半という長期闘争になりました。闘争は関ヶ原の戦いのように一瞬で決まるものではなく全ては長期戦を覚悟するものです。今後始まるんでしょうね。私の経験上、彼らがそのまま引っ込むとは考えられないです。解雇規制の問題が焦点に上がった時、ついにあの手の人間が錦の御旗を引っ提げやってきたと感じました。ただ私達にも旗はあります。ILO憲章という世界で多く認められた、国際労働法という御旗が。


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