Vol.20「育てる」「飛び込む」「背負う」「与える」「地に足をつける」
今回は、アメリカで人事系のコンサルティング会社を起業。そこでノウハウを蓄積し、ネットワークを構築された後、現在は日本に拠点を移し「ブランディング」「イノベーション」の切り口でコンサルティングを展開されている関野さんにお話を伺いました。
経営戦略、組織戦略の専門家である関野さんにとって、組織としての面白さ、ダイナミズムを育てる上で、新卒採用が事業成長のための要のひとつであることをお聞きするとともに、今後の私たち経営者と組織の向き合い方などについても伺いました。
【育てる】ことを諦めない。【固める】をしすぎない
一般的に、コンサルティング会社では、即戦力としてのキャリア採用が人材確保の主流ですが、関野さんは「新卒採用を積極的に行っている」とおっしゃいます。
このような考えは、アメリカで起業された時からのものだということです。というのも、日本の優秀な学生が「アメリカで仕事をしたい。でも、ビザをサポートしてくれる受け手企業が見つからない」という状況の中、関野さんの会社が機会を提供することが学生へのインセンティブとなり、将来の自社を背負ってくれる優秀な学生を採用することができたというのです。
拠点を日本に移し新卒採用を目指した時に、会社としての知名度がなかったため、思うような学生の応募がなく、一旦は、新卒採用をあきらめて、中途採用に戻されたそうです。
「やはり、中途採用だけでは、イノベーションが起きないし、ダイナミズムが出せずに組織を固めてしまい、面白さがない」
関野さんは、そんな違和感を組織に感じ、新卒採用を再開していきます。
新卒採用について、関野さんはこんなこともおっしゃっています。
「新卒を採用するということは、社を挙げて、若い人材を教育していくと覚悟すること。だから、在籍している社員、特に管理職は、諦めずに新卒社員を『育てる』ことも与えられた役割だという認識をしなければいけない」。
【飛び込む】リスクを、管理職が【背負う】気概はあるか?
では、関野さんのおっしゃる「社を挙げての新卒社員の教育」とはどういうものなのでしょうか。
「経営に関わるコンサルタントは、クライアントである経営者以上に経営のことを理解していないといけない」という基本的な考え方と、「若手であっても、ブランディングについて経営者にアドバイスをし、その会社のイノベーターのような仕事をしないとコンサルタントとしての価値は生まれない」という考えが、「新卒社員を教育して、一人前に育てる」ということに繋がっていくということです。
実際、どのように若手の教育をされているのかを伺ったところ、新人も上司と共にコンサルティングの現場に「飛び込む」ことをされるそうです。現場に飛び込んで、価値を出すためには、事前に十分な準備をしなければいけませんし、何より、飛び込むための勇気と覚悟が必要です。その勇気と覚悟は、机上で醸成できるものではなく、現場、つまり、経営者の前に出ていくことによって鍛えられていくと、関野さんは話されます。
また、現場に飛び込ませる管理職にも求められるものがあります。それは、リスクを「背負う」ことです。
コンサルティングを受ける経営者にしてみれば「えっ、こんな若者がコンサルタント?」という不安感を持たれるリスクが大いにあります。管理職は、こういったクライアント側に対する反応も含め、様々なリスクも背負って、現場での教育をすることが求められるのです。
「現場に出るのは、マナーやルールを全部教えてからでもいいのでは」という管理職の声もあったそうですが、現場に飛び込んで鍛えられた新人が成長し、「自分が現場で教育を受けて成長したから、自分も後輩や部下をしっかり教育しよう」というサイクルが回り、それが企業文化となり、会社や組織の成長につながっていくとおっしゃっています。まさに、人材育成としての先行投資と言えるお考えではないでしょうか。
場を【与える】というのも大事
もうひとつ挙げていただいたポイントがあります。それは、「場を『与える』」ということ。
管理職が新人を現場に飛び込ませるためには、「場」を準備しなければいけません。ベテランになればなるほど「自分でやった方が早いし、品質も高い」と考える傾向が出てきますが、関野さんは、それでも「若手に場を与える。つまりそれは、成長のチャンスを与えるということ」と考えておられます。
「与えられた場が人材を作り育てる。だからこそ、若いうちからプレッシャーのかかる環境の中で経験をすることで、自立した負けない人材に育つ。そうして育った人材は、会社の方針に沿って自己実現させていくし、イノベーションを起こす力にもなっていく。温室で育った人材は中途半端」という言葉は、自社の社員の成長を願う関野さんの温かさだと感じますが、場を与える側も失敗を恐れずにプレッシャーに向かう器量を試されることは言うまでもありません。
ぶらさがるだけでいいのか。【地に足をつける】としたらどうするか
「日本の将来を考える上で『ぶらさがる』状況を是正することが課題だととらえている」というご指摘はとてもわかりやすいものでした。
「大企業の傘下にある子会社、孫会社、関連会社は全て親会社のブランドにぶらさがっているように見えるが、本当にそれでいいのだろうか。また、会社にぶらさがっている緊張感のない社員が多いとも聞くが、これからの厳しい時代を乗り越えていけるのだろうか」という問題意識。とくに、ぶらさがり社員については「仕事がきつく、リスクも高い管理職にはなりたくない。定年までそこそこ働ければそれでいい。という時代ではないはず」とも。
かつて日本式経営の中心概念とされた年功序列、終身雇用の成功体験が、高度経済成長時代からの潜在意識として残っているのかもしれないと感じるとともに、1つの解決策として「自立した、負けない社員を育てる」というテーマに帰着するのだと納得しました。
「だからちゃんと地に足がついた取り組みで、自分の足で社会に貢献できる人材を育成しなければいけないというのが人材育成の軸なわけです」と関野さんもおっしゃっています。
組織の活性化のために積極的に新卒採用を行う。採用した人材を大事に育てる方法として、現場で早期に良質な経験を積ませていく。そして、会社は人材に対して経験の場を提供し、失敗するかもしれないリスクも取るという度量と器量を持つ。このような関野さんのお考えは、自身のご経験で得られたものだと想像します。
今、経営者、マネジメントを担う方々は、場を作り、自社の人材に様々な試行錯誤をする経験を生み出しているか?
ただ、社員のぶらさがりを嘆くだけではなく、経営者自身も、会社の状況にぶらさがってはいないか?
今回の取材は、そんな問いかけを頂き、私たちのキャリアとの向き合い方も改めて振り返る機会となりました。
【取材協力】
株式会社イマジナ 代表取締役社長
関野 吉記様
www.imajina.com
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