Vol.18「据える」「探る」「求める」「高める」「ぶれない」
「ぶれない軸を持って、社長の役割を果たしています」という印象的な表現。今回の取材では、お父様から引き継いだ事業を、二代目として経営されている長井さんに、その表現にある「ぶれない軸」の意味、「ぶれない軸」にたどり着いた経緯、「ぶれない軸」と自社の組織との関係についてお話しいただきました。
未来を軸の中心に【据える】
「これからの30年後にも、会社が発展している状態を作ることに、自分のあり方を据えています」
長井さんは、未来の自社から逆算して、常に事業や組織と向き合うことに尽力されていると話されます。力強いお言葉の背景には、将来の日本が直面するであろう労働力の減少は避けて通れない点を真っ先にお話しくださいました。
「未来に技術を継承し発展させていくために、人材は要になります。弊社で未来に活躍する人材を今から育てる必要があると思って、新卒採用と育成に力を入れています」
このように未来に軸を据えた経営に取り組まれる道筋が、順風満帆だったわけではないというのも事実。実際、会社の生い立ちは、今、目の前の売上を立てることを起点にした組織形成でした。
「そう、私たちはなんでも作れる技術集団です。優秀な技術者がいます。今はそう。そして、それで売上を立てることもできていました。そこには様々な過酷な環境での研鑽があったからでもあります。ただ、未来の人材を育てる上では、同じ経験をさせるのも無理があるし、その当時と時代も違う。
いかに未来に発展できる会社と人材を育てていくかは、様々な進展で方針を出しながら進めている最中です」
実際、未来を軸に据えた運営をすることで、長井さんから従業員へのコミュニケーションも工夫をされていらっしゃるそうです。
「機会があるごとに、未来を見据えていく意識や場を作っています。また、事業計画発表会を始めました。『未来に向かっていくんですよ。その未来からの逆算で考えると、今、やることはここだ。』というように従業員に対する伝え方も変わってきました」
未来から逆算したら、これをしないと、という考え方は、実は非常に経営をする上で重要な視点です。たとえば、今、目の前で問題や課題になっていないように見えることが、実は未来から逆算したら、すぐに着手すべき課題になることもあるでしょう。しかし、目の前の対応に追われる従業員に、その話をしてもなかなか推進力が出ないといった話が多くなるのも、こういった未来軸の対応です。つまり、経営者も不確実な未来において、ぶれずに進むことを試されるのです。
【探る】ことで見えてきた自分と組織の軸
未来の事業の発展に軸を据えている長井さんですが、ぶれずに続けていくきっかけについてもお話を伺ってみました。
長井さんが事業を引き継いだ当時の会社は、前述した通り、組織というよりも「技術者集団」「誇り高き個人技術者の集まり」という表現があてはまるような状況だったそうです。
「創業当初は本当に明日の売り上げが欲しかったんですよね。だから、前社長が、あなたは何ができますか、どんな機械を設計できるか、という観点を主軸に採用をしていたんです。そういう人が集まって、技術力の高い集団が出来上がりました」
結果的に、優秀な技術者と営業マンが揃っていたので、どんなものでも造れる、どんなものでも販売できるという企業になっていきます。
創業者であるお父様が、必死に立ち上げて成長させてきた会社ですが、長井さんが引き継がれた時に、1つの疑問が湧いたと言います。
「なんでも造れる技術者集団ですが、これって、30年後でも通用する企業だろうか?今は最強で、明日も最強かもしれないが、30年後は今の社員は誰もいなくなっている」
この状況に対して、従業員も、ご自身も明快な答えが出せない状況だったのだと言います。
このような状況を踏まえ、長井さんは「社長として、何をするべきか」を自問し、様々な課題に対する対症療法ではない答えを「探る」ように動き始めます。自問を続ける中で、偶然参加したセミナーを契機に、同じ志をもつ仲間と切磋琢磨しながら、会社のあり方、自分のあり方、100年ビジョン、30年ビジョン、10年ビジョンといったワークを定め、会社の軸、社長としての軸を定め、実践し続け、辿り着いたのが「会社の未来の発展に経営の軸を置く」という、ご自身のあり方なのだそうです。
「何度も自分のあり方や会社のあり方を問い続けました。問い続け実践し、あり方をアップデートし、より明確にしてきたことで、自分は未来についてぶれなくなった。何か周りから言われても、惑わされることなく、未来を見据えた運営ができるまでになったと自負しています」
ビジョンを持つことも、それを実現することも、決して一朝一夕にはいかないと同時に、諦めずに続ける力を試されます。私たちは、強い思いで、ビジョンを描き、掴もうとし、磨く営みが組織でできているでしょうか?
従業員にも【求める】未来思考
未来思考は、もちろん従業員にも求められています。実際、今いる誰かではなく、これからの人材のために会社づくりをする。事業計画発表会などの取り組みはあれど、目の前の成果も必要とされる従業員の皆さんに、未来の会社のあり方を考えてもらうのは至難の技とも言えます。改めて、従業員の方の反応や運営の方針などを長井さんにも伺ってみました。
「なかなか理解されないし、全員がすぐに未来思考にはなりません。例えばユニフォームを変更した際は、社員の意見を必要以上に聞いたり尋ねたりしません。なぜなら基準は今の従業員の趣向よりも、将来自社で働く社員を優先したいから。ユニフォームを変更する目的や、あり方をを考えると自ずとそうなると思っています。はじめは不満の声も出てきますが、客先や協力会社、若い人たちからの良い評判により、徐々に受け入れてくれました。そういう小さなところでも、未来の取り組みは受け入れられたりすると思っています」
未来を担う方からの取り組みへのエールが、今の意識をほぐしてくれることも多いのかもしれません。ぶれずに、未来と向き合う尊さを改めて感じさせられますね。
さらに、長井さんは、従業員の方も未来について考えていけるようになる途上だからこそと前置きした上で、こう話してくださいました。
「合議制、いわゆる従業員との多数決で決めないことも多いです。『未来の会社基準』『未来の従業員基準』でビシッと組織としてぶれずに意思決定できるようになるのはもう少し先ですね。だから誰よりも未来を考えている私が決めてることも多いです。それで方向性が定ったら、その範囲内で組織的に決めていくことは容易だと考えています」
これも、長井さんが未来から自分の軸をぶらさずにいられるからこその覚悟ではないでしょうか。その上で、長井さんはこんな心持ちも教えてくださいました。
「全て用意周到に分析し、準備して実行するのではなく、自分のアイデアを「7割発進」させることも多いです。未来のことだからこそ、そのくらいの緩みはあります。そして、『効率を求めすぎない。求めるのは、効率ではなく効果』としています」
確かに、効率を求めて、現状を最適化しようとするのではなく、10年後、30年後の未来を実現するために最も効果の高いこと、効果の高い行動を意識する。私たちに、今、できているでしょうか。何が未来に効果が高いことなのか。常に意識していたい視点でもあります。
あり方の純度を【高める】ことによって、もっと【ぶれない】組織経営になる
「未来に向かっている限り、問題が起きて、精神的に多少へこむことはあっても、軸は『ぶれない』はずです。ただ、今でも、その軸の考え方は微妙にアップデートされていきますし、その考え方の軸と、自分のあり方の軸というのはそれぞれ育っている感じがします」まさに、長井さんの中では、常に、未来のあり方の純度を高め続けている状況なのが分かるお言葉をいただくことができました。
常に、ご自身や会社のあり方を問い続けているからこそ、ぶれない組織運営へと一歩ずつ進んでいっていらっしゃるという自負も感じられるお話の数々でした。
私たちは、未来に向けて組織を動かしているのですが、時に信じた未来を見失ったり、描くのを諦めてしまうこともあります。
だからこそ、しっかりと未来の会社について、改めて見つめ直し、描き、伝えていきたいと心から思う、そんなお話を伺うことができました。
【取材協力】
株式会社ナミックス CEO/代表取締役
長井 剛敏様
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