そのプレゼンの目的は何なのか?それを常に意識してスライドをデザインする
プレゼンスライドをデザインするとき、その目的が何なのかをしっかりと意識しておく必要があります。このプレゼンスライドで、見る人を感動させたいのか、注目を集めたいのか、あるいは情報を伝えたいのか。日常的な業務の中で必要に迫られてプレゼンスライドを作っている人の多くは、3番目がその動機となっていると思います。デザインも、その目的に合ったものにしなければなりません。TPOに合わせたスライドデザインが求められます。
すばらしいプレゼンの代表格としてしばしば引き合いに出されるのが、アップル共同創業者の1人であるスティーブ・ジョブズ氏のプレゼンです。アップルが毎年開催している開発者向け会議World Wide Developers Conference(WWDC)でのジョブズ氏のプレゼンがとくに有名ですが、そこで使われているプレゼンスライドは極めてシンプルです。ワンフレーズのみ、製品写真のみ、もしくは写真とワンフレーズ、といったデザインです。その中でも、プレゼンが終盤に差し掛かったころに登場する“One more thing …”(そして、もう一つ…)とだけ書かれたスライドは超有名です。これは新商品やサービスを発表する場面で前振りとして使われるスライドで、たしかに毎回この極めてシンプルなスライドによって会場が大いに盛り上がって、聴衆の注目を一気に集めます。
しかし、この単語3つだけのシンプルなスライドは、アップルが新製品や新サービスを発表するタイミングで聴衆の注目を集めるために使われるからこそ威力が発揮されるわけで、もしも同様のデザインのスライドを、工学部の大学4年生が卒論研究発表会で使ったらどうなるでしょうか。おそらく、そんな前振りに時間を使うぐらいなら、さっさと研究成果を見せなさいといった感じで、審査する教授陣の反応も微妙なものになることでしょう。つまり、プレゼンスライドには使用される場面とその目的に合ったデザインがあるということです。そのポイントを外してしまうと、どんなにデザインが素晴らしくても意味はありません。
逆に、デザイン的に評判がよくないプレゼンスライドの代表が、お役所が作るプレゼンスライドです。X(旧Twitter)でもダメなデザインの実例としてたびたび話題に上っていますが、例えば、内閣府が作る「科学技術・イノベーション基本計画」に関するスライドを例に考えてみましょう。その概要版は、非常に小さい文字で、A4サイズの1ページにびっしり情報が詰め込まれていて、やたらとたくさんの色を使って、各要素の関係をむりやり図示するようなレイアウトになっています。おそらくスクリーンに投影すると、文字はほぼ読めないでしょう。そもそもこの資料は、相手にその内容を説明するときには、紙に印刷して使うことを想定しているものだと思われます。
この内閣府が作成したプレゼンスライドは、確かに見た目のデザインには難ありと言わざるをえません。しかし、これを一笑に付してそれで終わりにしていいかというと、そういうわけでもありません。じつはこれはこれで、政府の説明資料としては、錬りに練られた秀逸な内容になっているという一面もあります。というのも、こういった政府資料には、各省庁の思惑を調整しつくした結果が集約されているわけで、文言ひとつとってもみても、その文言がそこにあるという事実が、いずれかの省庁の施策や予算に大きく影響します。そういう意味では、見た目は度外視されているものの、これも特定の目的のために「デザイン」された、すばらしいプレゼンスライドになっていると言えるのではないでしょうか。
プレゼンスライドにおいては、こうしておけば間違いないという、絶対的な正解のデザインがあるわけではありません。その目的や使われる場面ごとに最適なデザインがいくつもあるということです。なので、何のためのプレゼンスライドなのかを常に意識しながら、デザインしていく必要があります。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?