「お掃除屋さんは見た!家の裏側はミステリー」第20話〜T様宅〜
本日のお客様はT様。
T様は、とにかくキャンセルの多いお客様でした。
ハウスクリーニング業界にとって、1年に1度の稼ぎ時『年末大掃除』のシーズン。
T様のご希望で『水回りまるごとクリーニング』で2日間のご予約を承った時、
「すみません。子どもが熱を出して」
予約前日の夜中にご連絡をいただいてキャンセルになり。
暑い夏にご依頼の殺到する『エアコンクリーニング』の時期には……
「ごめんなさい。私が風邪っぽくて」
エアコン3台のご予約を、予約当日の朝キャンセルされ。
引越しシーズンで忙しい時には……
「夫が腰を痛めて動けず」
床ワックスのご依頼を、伺う1時間前にキャンセル。
キャンセルの理由が『体調不良』で仕方がないとは言え、ハイシーズン中のキャンセルは、T様の希望日にお断りしたお客様にも多大なご迷惑がかかります。
そこで、スタッフを集めてキャンセル対策のミーティングを行うことにしました。
「オーナーは性善説で動きすぎなんですよ!もしかしたらT様、ライバル店の関係者かもしれませんよ?」
「そんな…お客様を疑うなんて」
「それがこの業界、結構あるらしいですよ!ホテルやレストランみたいに、キャンセル料を取ってはどうですか?」
スタッフから意見が出て、他店を調査することに。
スタッフと手分けして近隣の家事代行サービス・ハウスクリーニング店を検索すると、『キャンセル料』を明記しているところが33件中21件ありました。
【キャンセル料の例】
・A店舗
2日前まで:キャンセル料なし
前日キャンセル:料金の50%
当日キャンセル:料金の100%
・B店舗
2日前まで:10%
前日キャンセル:30%
当日キャンセル(連絡あり):50%
当日キャンセル(連絡なし):100%
・C店舗
10日前まで:10%
9日前まで:20%
〜
前日:90%
当日:100%
などなど。
店舗によって内容は違いますが、キャンセル料を設定しているところが多かったので、私たちのお店でも導入することにしました。
【当店のキャンセル料】
・当日キャンセル:料金の50%
・前日キャンセル:料金の30%
・2日前キャンセル:料金の10%
・連絡なしキャンセルの場合:今後のご依頼は承ることができません。
お店のウェブサイトと申込メールフォームにも、キャンセル料について明記して、【キャンセル料について了承しました】のチェックボタンを押さないと注文できない仕組みに変更。
これで、キャンセルに対する意識が変わるかな?と思っていたところ……
翌週、T様よりご予約のメールが入りました。
「実家のエアコン2台のクリーニングをお願いします。T」
念のため、T様への返信メールに、キャンセル料について記載したページを「ご確認ください」とメッセージを添えてお送りしました。
そして、T様のご実家のエアコンクリーニングに伺う日。
朝早くお店の電話が鳴りました。
「はい。こちら○○クリーニングです」
「あの…Tです。今日のエアコンクリーニング、キャンセルするの忘れていて」
(T様だ!ん?キャンセルを忘れていた?)
「T様ですね。いつもお世話になっております。『キャンセルするのを忘れた』と言うのは、キャンセルする予定だったということでしょうか?」
「それが…あの…キャンセルを頼まれてて……」
しどろもどろになるT様。
「キャンセルするよう頼まれたということですか?それは業務妨害に当たる行為で犯罪です。T様、どなたに頼まれたのか教えていただけますか?正直に話していただければ、T様を訴えることはせず、キャンセル料も請求しませんので」
「すみません!実は…予約してキャンセルすると3000円もらえるって、ネットのバイト掲示板に書き込まれてて……」
T様に教えていただいたウェブサイトを見ると、確かにキャンセル1つに付き3000円支払うと掲載されています。
その書き込み記事のスクショを撮って、記載された連絡先をメモした私は、そのサイトの管理者へ連絡を取りました。
「こちらは掲示板を提供しているだけで、内容は個々人に任せている」
との短い返信だけでした。
(なんて不親切!)
近くの交番へも相談に行きました。
「でも実質の被害はないんでしょ?」
そう言って取り合ってくれません。
(確かに被害という被害ではないけれど……)
出勤してきたスタッフに伝えると、
「だから言ったじゃないですか。オーナーは人を信じすぎるんですよ!」
バシッと厳しく言われました。
(性善説でスミマセン……)
「ちょっと待ってください。弁護士の友人に聞いてみます」
実は高学歴のスタッフ。大学の同級生だという弁護士につないでいただき、状況をお伝えしました。
「それは偽計業務妨害罪に該当します。ご希望でしたら今後の対応はお受けします。費用は…悪友のよしみで相談料は無料。かかった費用は相手方に請求させていただきます」
心強いサポートをいただき、この件はスタッフの悪友(?)の弁護士さんに全部お任せすることにしました。
弁護士さんが動くと非常にスムーズに進み……
ネットにキャンセルバイトを掲載していた相手もすぐに判明。
ライバル店の関係者でもなんでもなく、ぜんぜん関わりのない人で、
「暇だからやった」とのことでした。
(愉快犯ってやつ?)
弁護士が警察に被害届を提出し、他にも余罪が見つかったとか。
私のお店の件では刑事罰までは求めず、損害賠償請求を行い弁護士費用とキャンセルになった分の料金を示談でお支払いいただきました。
T様はその人に騙されて行っただけなので、お咎めなし。
ただ、今後のために「怪しいバイトはしない」と反省文を書いて提出していただきました。
人を信じたいけれど、線引きやルールを決めることは大切。
そして、弁護士の知り合いがいると心強い。
そう学んだ出来事でした。
その後、反省したT様より本物のお掃除の依頼をいただき、キャンセルなしでクリーニングに伺ったのですが……それはまた別のお話。
お店でも何でも、気軽なキャンセルはどうぞお控えくださいね。
↓お掃除ミステリーの続きはマガジンへ↓