見出し画像

【エッセイ】ストレスとビタミンC 野宮ゆり

年末に勤務先のウォシュレットが破壊された。

誰でも出入り可能な雑居ビルなので外部の人間の窃盗未遂ではないかと疑われるようなグニャリと傾く10年来の老いた便座の末路は哀れであった。

犯人さがしよりも温かい便座のありがたさに思いを馳せた数日間、別の部署の一つしかないトイレを借りる不便さにストレスを感じつつ過ごし……
以前、同僚の一人に健康オタクがいて、トラブルに巻き込まれて嘆くたびに
「今、アタシの中のビタミンCが一億個死んだ!」
と更に嘆きをかぶせていたのを思い出す。

現在、新しい便座が設置されるまでみんなで口々に
「冷たい便座は嫌だよねー」
「ヒヤッとして心臓とび出るね」
「ちょっとだけお尻を浮かせてみるけど不便だよねー」
「壊した犯人誰なんだろう。迷宮入りかな?」
と眉をひそめて言い合い、あの不快感の体内ビタミンC破壊力は相当なものだよな、と身震いさえおぼえた。

新便座設置、実は部品や水漏れ関係で工事中断のままである。


野宮ゆりさんが「荒れ野にて」「鏡の記憶」を寄稿された詩誌LaVague vol.2はこちらから購入できます。


よろしければサポートをお願いします。いただいた分は、詩誌の発行費用・ゲストへの謝金・新たなコラボを生み出すための資金として使用させていただきます。