打ちつける波にさらわれてしまおうか
海を目の前にすると、なんだか急に消えたくなってしまうのだけど、どうしてだろう。
たくさんの針が地面に打たれて刺さるような雨の中で海沿いを歩いていたときに、そんな気持ちになった。
決して暗い気持ちから来ているわけではないのはわかっていたのだけど、どうしようも無くちっぽけな自分を目の当たりにして、ああ、この荒れていく海に雨と一緒にさらわれて溶けてしまいたいなと思ったのだ。そうしたら、目に映る藍色の渦の中に溶け込んでゆく自分はどうしようもなく痛々しい世界と一体になれるかもしれない、そんな気がしたから。
生まれてからずっと生きていくことは辛い。たくさんの棘にぶつかって痛みを抱えながら歩いていくのはとてもとても耐え難い。孤独から逃れられない。孤独から逃れたい。もっと愛したい、愛して欲しい。変わらないことなんてない。永遠を約束できる覚悟もない。果てない夜明けの中で何を望みとするのだろう。そうした色々な気泡がぶくぶくと水底から湧き上がってくる。
いっときはもう動けないのではと思うほどの強かった雨が、だんだん弱まって止んできたみたい。
水面の揺れが静まってきて、あたりは音のない景色が広がっていた。穏やかな波の、ドレープのたっぷりついたスカートの裾のように美しさに見惚れた。この海をずっとずっと遠くまで渡ったらまたきっと、幾千の人が踏みしめてきた大地が見えるんだろうね。大丈夫だよ、大きな渦に足を取られてもきっともがいていける。
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