雪の夜のように静かに
やがて
院に進んだ父は信州を離れ、
「女の園」を訪れる人もゆるやかに、穏やかに、
少なくなっていく。
たのしかったね、
また行きたいね。
そうやって思い出の中だけに建っているような、
そんな十数年を経て、
「女の園」は古びた山小屋になった。
我が家と和田家の交流自体はずっと続いていて、
父に連れられて私も
和田医院や松本のかづ子さんの家には
たまに遊びに行っていたのだけれど、
みんなの話に出てくる山小屋が
まだ建っていることすら知らずに育った。
「もうあんまり様子を見にも行けないけど、手放せないよねぇ…」
ぽつんとかづ子さんが言っていたのは
お母様の具合が良くなくなってきた頃だったかなぁ…と思う。
つまっている思い出が大きすぎて、
誰もいない山小屋は
さみしい遠い場所になってしまっていた。
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