無事に帰れたハセツネCUP2024
ハセツネCUPを走ってきました。いや、そんなに走ってないな。結構歩いて19時間半かかりました。人生最長の行動時間です。
ハセツネがどんな大会かというと、制限時間24時間で、奥多摩山域の71.5kmを走るトレイルランニングレースです。
とてもサバイバル色の濃い大会で、大きな特徴が二つあります。
13時スタートなので、必ず夜の山を走る。というか走っている時間のほとんどが夜。
給水は42km地点の一か所のみ。そこまでの水分はすべて担いでいく必要あり。更に補給食の提供は一切ないのでゴールまで必要な食料はすべて担いでいく必要あり。誰かから補給を受けたら失格。選手間の受け渡しもアウト。
なかなか過酷ですよね。
武蔵五日市の中学校がスタートで、奥多摩山域を時計回りに周回してスタート地点に戻ってくるコースレイアウトです。
こまかいアップダウンが多くて大きな山はないけれど、累積の標高は4582mあります。71.5km走るにしてはかなり上り下りしなきゃいけません。ウィキペディアによれば「コースは平均的なハイカーのペースで約5日半(45時間)かかる距離」だそうです。
日本のトレイルランニングの草分け的なレースで、正式名称は「日本山岳耐久レース~長谷川恒男CUP」といいます。今回で32回目。ランニングよりも山岳よりの香りのするレースで、登山系の人たちもまあまあ参加している印象です。山力が問われるレースですね。
こんなレースなのに、世の中にはもの好きが多いらしくかなり人気の大会になっています。エントリーは先着順なので、毎年ランネットのエントリーサイトでクリック合戦が行われています。自分はここを首尾よくクリアすることができました。
出場資格は特に求められなかったと思います。クリック合戦を突破できれば誰でも走れる大会ですが、未経験で出るのは無謀すぎます。
春に行われるハセツネ30Kで男子500位以内、女子50位以内に入って優先エントリー権を手に入れる方法もあります。
こんな感じの大会ですが、自分は数年前までロードのマラソンばかりやっていて、トレランに興味はあったけれど山は行ってませんでした。ハセツネの存在は知っていたもののまさか自分が出ることになるとは思っていなかったのですが、きっかけは登山が趣味の知人の一言でした。
「ハセツネは全部歩いちゃっても完走できますよ。」
これはびっくりしましたが、それなら自分もやってみようかって気になり、何本かトレランレースもやってみて、タイムや順位にこだわらず完走するだけなら何とかなりそう、と思えたのでエントリーしたわけです。
実際出場してみて、最初から最後まで全部歩きで完走(歩?)するのはかなりきついんじゃないかな・・・と思いました。多分、制限時間ギリギリになるでしょうね。歩行スピードや休息時間にもよりますけど。
さて、レース当日はこれ以上ないくらいの絶好のお天気でした。スタート前の昼頃はかなり日差しが強く日なたにいると暑かったのですが、山に入ってしまえば木陰が心地よく、Tシャツにランニングショーツでちょうど気持ちよく走れる気候でした。
トレイル率のとても高い大会で、ロードはちょっとだけしか走らないのです。
もし雨が降ったりしていたら完走をあきらめていたかもしれません。雨の年は結構あるんですけどね。
午前10時過ぎに会場入りし、更衣・待機場所として割り当てられた体育館でゆっくり装備を整えました。同時並行でコンビニのおにぎり、サンドイッチなどを2時間くらいだらだらと時間をかけて食べ、事前のエネルギーを体内に溜めました。
徹夜に備えて仮眠をとっている人も結構いましたね。
荷物を詰め切ったザックを持ち上げると、ちょっと怯むくらい重い。水分2.2リットルと20時間分の食料、トレッキングポールやレインウェア諸々ですからねえ。
13時に武蔵五日市の中学校をスタートしてしばらくは断続的に渋滞が発生しました。なにせトレランレースとしてはとても多い1800人以上という参加者で、これが一気に山に入っていくわけですから毎年渋滞が起きるのは当然です。
タイムや順位は狙っていないので、ここは焦らずちょうどいい休息が取れていると思えました。
序盤は、渋滞以外はほかのトレランレースと大きく違う感じはしませんでした。ザックは重かったものの、ペースをかなり抑えていたのでそこまで負担には感じませんでした。
17時前に醍醐丸に着きました。八王子市の最高峰らしいです。
そろそろ暗くなってきそうなのでここでヘッドランプを装着。夜と標高の上昇による寒さに備えてアームカバーも装着。ウィンドシェルやフリース、レインウェア等も持っていましたが、このあと極端な冷え込みはなく最後までアームカバーの上げ下げによる調節とグローブ付け外しだけで事足りました。
醍醐丸の応援はすごかったです。駐車場からかなりトレイルをあがってこなきゃいけないはずなのに、笑っちゃうくらいものすごい熱量の応援をいただきました。あれを一体何時間続けてたんでしょうねえ。ありがたや。
それにしても本当にいい天候でした。月も星もきれいに見えました。ハセツネではほぼ毎年出るという霧も一瞬出ただけでした。せっかく霧対策で黄色いセロファンを貼ったハンドライトも持ってきたのにちょっとだけしか使えませんでした。でも霧にはかなり効果的なことがわかったので良かったです。
19時前に23km地点の浅間峠に到着。ここが第一関門です。おおまかに想定していたタイムより1時間ほど遅れていましたが目標は完走なので気にしません。ここからトレッキングポールの使用が可能になるのでザックに装着していたポールを組み立てました。
このあとポールは登りではかなり助けになりましたが、使い方に慣れていない・・・というか8月に買ってハセツネの前に一度しか使ったことがないので、下りのポールの使い方がへたくそすぎてまいりました。何度かすっころんで怖い思いをしたのです。ポールはもっと練習しなきゃダメですね。
登りだけポールを使って、下りはポールをしまって両手をあけた方がマシだったかもしれません。ハセツネは登り下りの切替がとても多いので、いちいち出したりしまったりするのは面倒ですが、私ぐらいドへたくそだとトータルではそっちの方がよかったような気がします。
この辺りからコース脇で座り込んでいる人がちらほら出てきました。中には早くもしっかり寝る体勢に入っている人もいました。まだ後50km近くあるのになかなか厳しい戦いです。
浅間峠を出てしばらく行くと、ハセツネコースの最高高度の三頭山の登りに入ります。ここはポールの助けもあって、ゆっくりでしたがほとんど止まらずに登りきることができました。登りのトレーニングを重点的にやっていたおかげもあったのだと思います。
登っている途中に三頭山の避難小屋の休息スペースがありましたが、居心地がとてもよさそうで、これは出てこられなくなる場所だと思いトイレに寄っただけでスルーしました。
三頭山山頂は22時半くらいに到着。
三頭山を下りてもそんなに高度は下がりません。高度1200mくらいのところを上り下りしながら行くと、深夜1時半頃に第二関門の42km地点の月夜見第二駐車場に着きました。
ここでやっと給水が受けられます。でも手持ちの水分は200ml以上は残っていました。持っていった水の量はちょうどよかったようです。もっと暑かったらあと500mlはほしいところ。残りを飲み干してからペットボトルをもらいに行きます。
もらえるのは水かポカリのみ。組み合わせ自由で500mlペットボトル3本だけです。迷った挙句ポカリ×1に水×2にしました。
椅子に座って、ペットボトルからソフトフラスクとハイドレーションパックに水分を移し替えます。ここがこのレースで一番長く休んだところだったと思います。
この辺りから、コース脇で横たわる人が増えてきました。
自分はそんなに眠くはなっていなかったのですが、集中力の低下が怖かったので深夜2時頃にカフェイン錠のトメルミンを1錠投入しました。
この効果は劇的でした。
身体は当然疲れているのですが、即効で頭がくっきりとさえわたり、やる気がみなぎり、それがずっと続きます。ちょっと効きすぎて怖くなったので、もう1錠持っていたけどそれは飲むのを控えたのですが、結局ゴール、いや帰りの電車の途中まで眠くなりませんでした。
乱用すると恐ろしいことになりそうです。法律で規制されてもおかしくないレベル。
次はコース上で2番目に高い山、1405mの御前山です。まあまあ大変だったような気はするのですが、この辺は記憶があいまいです。
御前山を下りていくと大ダワというところに出ます。広場になっててたぶん峠なんだと思うのですが定かではありません。そもそも「ダワ」ってなに?人生で一度も聞いたことのない単語です。不思議な名前ダワー。
ここでポールをたたんで再びザックに取り付けました。ここから登っていく、コース上で3番目の高さ1266mの大岳山は結構危ないところがあるという話を聞いていたので、私の技術ではポールなしの方がよいだろうと思ったからです。
これは正解でした。
そして、大岳山は岩場だらけの、想像していた以上に怖いところでした。特に下り。
坂下りマニアを名乗ってはおりますが、こういう下りは全然好きじゃないです。昼間だったらまだいいのですが、真っ暗な中、急な岩場のくだりをへっぴり腰で降りていくのはかなりの恐怖でした。
難所をクリアするたびにしばらく立ち止まって息を整えていると、後ろからどんどん抜かれていきます。
割と皆さん躊躇せずに降りていかれるので、私がビビりすぎだったんだろうと思いますが、ポールを持ちかえながら上手にこなしていく姿を見送っていると、ここまでこの方たちより先行していたことが不思議に思えてきます。
試走を全くしていなかったことも怖さに拍車をかけていたかもしれません。ハセツネは事前にコースを2,3回に分けて試走しておく人は多いのです。
私も試走はしたいなーと思っていたのですが、不案内な場所なので一人で行くのは不安でした。有料の試走ツアーのようなものもいくつかあったので、そういうのに参加することも考えたのですが、日程や走力レベルがあっていなかったりで参加しそびれてしまったのです。
でも、コースを知らなかったことで思い切ってここまで来られたという面もあったと思います。マーキングなどの案内はしっかりしているし、前後にいっぱい人はいるので道迷いをしそうなレースではありませんし。試走していたらここに来るのが嫌で仕方ない状態になっていたかもしれません。
それにしてもトップ選手はここをどうやってこなしているのか。タイムを考えるとどう考えても勢いよく駆け下りているとしか思えないのですが、いったいどうやってるんでしょうねえ。不思議ダワー。
岩場の下りをやっとのことで抜けてちょっと行くと、今度は崖上に細い道がついている更に怖い箇所に差し掛かりました。鎖などはちゃんとついているのですが、「滑落注意」とか「滑落事故発生」なんて看板がいくつもあります。こんなに一度に滑落という文字を見たことありません。そして谷底は真っ暗で全く見えません。怖さのあまり、
「こんなとこコースにすんなよ!」
と思わず声に出してしまいました。
何とかクリアしましたが、大岳山は高所恐怖症にはつらい場所でした。雨だったら無理かも。
精神的にかなり削られました。
このあとはだんだんと明るくなり、割と平和な下り基調の道だったのですが、ここまで来たら絶対怪我したくない!という思いがとても強くなり、かなり歩いてしまいました。
朝のトレイルはとても美しかったのですが、大岳山の怖さのダメージを引きずって、早く終わりにしたい、こういうトレイルはもう飽きたよ、と思ってばかりいました。もったいない。
でもやっぱりゴールは格別です。最後の1〜2kmは全力で駆け抜けることができました。達成感というより、無事に帰ってこられたという安堵感が大きかったですね。
ハセツネは浅間峠まで、月夜見まで、ゴールまでの3区間で区切ると、タイムは3:3:4の比率になるという法則があるのですが、自分のタイムを調べてみると29.4%:29.1%:41.5%になってました。ほぼ法則通り。
終盤だいぶ歩いてしまったなあと思ったのですが、結局自分の今の実力通りということだったようです。
色々攻略し甲斐のあるレースだと思いますが、やり残した感はあまりないし2回目はやらなくていいかな。怖いし、いい天気ばかりじゃないだろうし、出たい人はいっぱいいるのだし。
死ぬまでにやっておきたいことリストの一項目を消すことができたなーって感じです。いつ死んじゃうかわかんないからやりたいことはやっておかないとね。
レース中にピクミンブルームは一度も開きませんでしたが(それどころじゃなかったしそもそも電波の届かないところが多い)、山ピクミンは思いのほか手に入りました。三頭山と大岳山がなかったのは残念。
補給と装備のことはあまり書かなかったので、後でちょっと書こうと思います。
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