見出し画像

2024に読んだ本(星4つ以上)

2024年に読んだ本は121冊でした。昨年の約50%増。

自分の選んだ星4つは18冊。こちらも5冊増えた。詳細はbooklogでご覧ください。

最近はaudibleに比率がいつにも増していて運転中だけでなく電車の中でも聴いています。あくまでも印象ですが、読むより聴いた方が頭に残る気がする。理由はわかりません。読むのは速度が早すぎて記憶に残らず、聴く方がある一定の速度で聴いているからかもしれない。


一線の湖(砥上裕將)星4つ

前作「線は、僕を描く」では水墨の深さに魅了された。今回の作品はその後編にあたる。
さらに磨きをかけて水墨画を魅力的に描き出している。とにかく文字で水墨画を表現する力がすごい。しかし残念ながら頭に描くことが自分にはできない。そこまで水墨画を知らないからだ。とはいえ、圧倒的な表現力に魅了された。
271ページに伸び代のくだりがある。おそらく前作で彼は「伸びしろ」を伸ばし切ってしまった(それだけのことができた)が、今作では壁にぶち当たり自分がやりたいことが見えなくなったのだ。そこで「伸びしろそのものを伸ばす」ことに気づく。「心の内側に余白が必要なのだ」と書いている。自分を振り返ると、忙しくて余裕のない都会での生活では追われるように仕事をしているが、そんな時に伸び代を伸ばす試みや、余白を作る時間が大事に思える。また次作にも期待したい。


くもをさがす(西加奈子)星4つ

カナダでがん患者となった著者。日本とカナダの医療制度の大きな違いに戸惑いながらも力強く戦う姿に帯の通り「共感と絶賛の嵐」だ。
普通ならカナダでガンになり、環境や自分の心境を描くだけなのだろうが、そこはさすがにベストセラー作家だけのことはある。圧倒的な文章力で読者に迫ってくる。
自分もガンになった。だから彼女の書く言葉の一つ一つがストレートに胸に響いてくる。
死者が生者に残すことや、女性の特徴のある臓器を失っても自分のジェンダーを決めるのは自分であるとか(自分は逆だが)ガンと戦いながらもどこか冷静に文章を綴っている。
そしてコロナ後に日本に戻った時の対比もとってもわかりやすい。「日本人は情がありカナダ人には愛がある」がさまざまな違いは日本の狭さにある、という分析は言い得ている。
そして最後の一文は筆者の心の思いとして壮絶に心に刺さった。(これはぜひ読んで欲しいので転機しません)


覇王の轍(相場英雄)星4つ

主人公の樫山順子は毅然とした清廉潔白な警察官。
北海道に赴任して直面した事件に真正面から向き合って解決をしていく姿が清々しい。
そしてJE(これはJRのことだろう)の課題、日本の鉄道政策の問題を作者も真正面から捉えてタブーに踏み込んだ小説と言えると思う。
「規定」を官僚隠語で「キサダ」と発音することから事件性を嗅ぎつけた樫山。実際にキサダという隠語が使われているのだろうが、同じ官僚として被害者に共感しつつも、国の政策を優先して労働者を蔑ろにする官僚に挑む姿に共感できる。
結果的に長いものに巻かれてしまうという結論には読者として後を引いてしまうが、それも著者の狙いなのだろう。
樫山順子にはまだまだ活躍してもらいたい。

白い夏の墓標(帚木蓬生)星4つ

これはなんだ?というのが読み始めて正直な感想。
昭和58年(1983年)作の医療をテーマにした小説。道にウィルスをテーマにヨーロッパで謎に向かって突き進む主人公。ウィルスという最近人類が苦しんだテーマに真正面から向き合った作品だ。ウィルスのメカニズムについて解説もされていて記憶に新しいことが40年前に描かれているのだ。
そしてフランスからピレネー山脈での出来事が深く面白い。
とても40年前の作品と思えない斬新さを楽しめた。

楽園の犬(岩井圭也)星4つ


楽園=サイパン、犬=スパイ
太平洋戦争下のしかもサイパンだけを舞台にした、さらに海軍のスパイという設定でここまで読ませるのはすごいことだ。海軍だけでなく、陸軍の海軍へのスパイであるとか、米軍の犬(スパイ)であるとか、入り組んだストーリーに加えて太平洋戦争におけるしっかりとした調査も伺える。
そしてエピソードも考えられている。主人公の息子は成人となり、父親の末路を聞かされることになる。戦時下に南国の島に捨て置かれた元スパイの悲哀を感じた。事実に基づいていてもそうでなくても、これがあったと思わせる筆致だった。

しろがねの葉(千早茜)星4つ


銀山では男は鉱物を吸い込みながら仕事をするので短命になり、女は3回嫁に行くという。
主人公は女性。子供の頃に村を一人で逃げ出して鉱山に行き着いた。夜目の効く特殊性で生き延びて大人になるが、やはり男たちは身体を壊してしまう。そして子供の頃は男勝りで働いていたが、時がたって女の身体となり、男たちと嫌が上にも対峙することとなる。そして幾度か主人も変わり多くの子をなすが、その息子たちも早死にしてしまう。
銀山の間歩(マブ:坑道)や山の描き方が詳細でその香りまで連れてくる。
銀山という隔離された生活の場で変わり映えのない生活をしながら娯楽もなく、絶望を感じる余裕もなく日々を暮らしていく、戦国末期。現代の礎となるそんな時代があったことを感じる小説だった。直木賞に値する内容です。

この夏の星を見る(辻村深月)星4つ

巻末を読むと茨城県の高校で実際に天体望遠鏡を作って観測をしている生徒たちがいて、それを題材にしているような感じを受ける。
五島と茨城と東京の中学生、高校生たちが生き生きと描き出されている。こういうのいいなぁ。高校時代に戻りたいなぁ、と思える作品。この生徒たちのように自分は高校時代に何かをしたのか?と真剣に思い返してみる。そうするとなんとなくやり残したような気がしてくる。逆に「今でも出来るのでは?やっちゃえ」ぐらいな気持ちにもなる。
自分が「宇宙好き少年」だったので気持ちがよくわかる。改めて夜の宇を眺めてみたくなる。爽やかな読後感に包まれる。

悪逆(黒川博行)星4つ

黒川氏の小説の面白さはズバリ「大阪弁」。自分は小学5年性まで関西だったのでスルッと入るし、本書を読んでいると自分の頭での呟きが関西弁になってしまう。
これまでは面白さはそれだけだった(失礼)感じだったが、本書は当初から犯人を主人公の一人にすることで追う側と追われる側が同期してそれぞれに感情移入しながら読むことができた。どうやって犯人を追い詰めるか?これが残り数ページまで全然分からないのだが、多少「まぁそれね」という感じがないわけではない。
しかし大阪弁で(漫才のように)ツッコミ合う二人の刑事。一方の犯人は理知的な標準語。この対比が面白かったのか、止まらなくなった。

俺たちの箱根駅伝(池井戸潤)星4つ

箱根駅伝を扱った小説はいくつかある。それも関東学生連合チームを扱った堂場さんの「チーム」もその一つ。
記録が公式に認められないのになぜ選手たちは走るのか。その10名の心のうちをしっかりと描き切った。さらににわか監督(実は本気)の社会人としての商社での経験への思い。
テレビ局の中での対立。と構図が多面的で面白い。というか池井戸さんが描いて面白くないはずがない。
新監督に反対していたOB連中の最後の反応が嬉し涙を誘う。改めて駅伝をながらで見るのではなく、真剣にテレビと向き合って応援したくなる。できれば沿道で応援もしたくなった。

木挽町のあだ討ち(永井紗耶子)星4つ

仇討ちを題材にし、江戸の暮らしぶりや情の厚い庶民をうまく描き出している。
菊之助の仇討ちを調べに来た縁者。彼が江戸の芝居小屋に滞在していた菊之助の背景を聞き回るが、その一人一人の仇討ちの状況を聞き出すだけでなく、彼らがなぜここに来るに至ったか、今の生活について滔々と語り出す。それぞれが仇討ちから脱線しているのだが、だからこそ菊之助を助けたいという情を持っているのだと感じる。
そして徐々に仇討ちに至った背景が語られ、仇討ちの対象は実は菊之助の信頼する人物で、とある故郷の不正事件に絡んで冤罪を被っていることが明かされる。そこで一計を案じたのが芝居小屋の面々。
お見事な終章。暑い夏に爽やかな江戸時代の人情を感じる良書でした!

タスキ彼方(額賀澪)星4つ

戦時下の箱根駅伝と令和の箱根駅伝が交錯する。
太平洋戦争真っ只中に陸上を愛した大学生たち。学徒出陣が始まり、それでも箱根を走りたい情熱。その思うがひしひしと伝わる。
一方の令和ではパリオリンピックを決めた現役の大学生アスリート。駅伝なんか、と歯牙にも掛けないのだが、コーチの祖父と箱根駅伝との関係が明らかになるにつれて気持ちが動く。
戦時下の駅伝、令和の駅伝ともになんとなく想像ができる擬名の大学が登場する。ご丁寧に最後に令和の箱根駅伝の記録が記載されているが、実在の大学ではない(名前は似ている)のであまり意味をなさない。
思い切って実在の大学名で書くことはできなかったのか?特に戦時中の部分についてはかなり詳細に調べられたと思うので、実在の大学と人物を使っても良かったのではないかと思う。令和に繋がるのは選手ではなかったわけだし。
一方で青学、駒沢と強い大学が偏っている現代では実在の大学名が使えない事情はわかる。特に今回の主役はピンクの「日東大学」。これは日大と想像できるのだけど実際太平洋戦争前から戦時中にかけてほぼ優勝常連チームだった。
中途半端に大学名が想像出来てしまうので、小説と割り切って思い切って実在の大学名で書いてしまっても良かったのではないかな、と自分は思った。
いずれにしても小説の内容は素晴らしく、戦時中に駅伝をなんとか継続したいという強い思い、戦後にGHQを説き伏せて復活させるという熱意。
出征のため、復路で走りたかった選手を往路で走らせ、そのまま戦地に向けて出発した選手が描かれている。戦時中に走った選手たちが戦争で命を落とした記載には涙が出る。箱根駅伝はそんな想いを背負いながら脈々と続いていると考えるともっと真剣に向き合ってあげたいと言う気持ちになる。

トヨトミの世襲(梶山三郎)星4つ

相変わらず切れ味鋭い。梶山三郎(著者)とは何者なんだろうか?経済に詳しく、ストーリーも生み出せる。覆面作家は過去にもあった。もしかすると二人か?岡島二人のように。
しかしこのリアルな内容はどうなのだろう?自分は頭の中で実際の企業、ト◯タ、とか日本◯産と読み変えながら読んでしまった。なんたって顔を思い浮かべることができるから。
EVシフトに世襲と独裁経営者の課題をうまく掛け合わせながら展開するシナリオに目が離せない。自分はモーターの会社の株を持っていて、これが全然反転しないのでイラついているが、それもこういう問題なのかなぁ、とリアルに感心してしまった。まさに経済小説の最高峰だと思える。

魂の歌が聞こえるか(真保裕一)星4つ

自分の全く知らない業界、ポピュラー音楽、特にアマチュアバンドをデビューさせる。
そもそもA&Rという仕事自体知らず、ネットで調べたほど。アマチュア発掘をして、それをデビューさせ成功させることは本当に大変なんだな。
真保氏もかなりの勉強をされたに違いない。
落ち目のミュージシャンと飛ぶ鳥を落とす勢いでデビューした若手バンドの対比がよく描かれている。すごく臨場感のある内容だった。

マネーモンスター(黒木亮)星4つ

相変わらず経済小説として完成度が高い。
3つの題材が繋がっている。
まさに今年、日本の液晶が韓国の有機ELに取って代わられたニュース。水素トラックについてもこれからの新しいエネルギーを題材にして市場を操る「詐欺師」。そして地銀の借り手を騙しても金儲けに走る経営者と支店長。
カラ売り屋はこれらの課題を市場より先に情報を掴んでカラ売りし、更にレポートを出して市場を煽る。
いずれもそう簡単には利益を出し切らないが、時間をかけて株を紙屑のように下げて莫大な利益を得る。
合間に美味しいレストランの描写、国技館での相撲力士を眺めたり、朝の山の挫折と成功を織り交ぜて。

書いてはいけない(森永卓郎)星4つ

あまりにリアル。
怖いもの知らずの森永さん。説得力がある。
日航ジャンボ墜落が半導体の日本弱体化まで繋がっているのかと。

世界の富裕層は旅に何を求めているか(山口由美)星4つ

日本ではなく「世界の」富裕層は?という疑問。
そこには想像を超える世界があった。特にアフリカのブッシュを切り開いた、まさに自然の中のホテル。朝夕にオープンエアの車で野生を堪能。世界の富裕層は「コンフォートゾーン(安全で快適)」の外側に踏み出している。「人生で一度の体験」「スリル」を求めて。
対して日本人の求めるラグジュアリーは温泉と豪華な食事。これも素敵ではあるが外国人にはあまり受けない。なぜならこの旅館のシステムは中長期の滞在に向かないし先の求める物には応えられない。日本人は冒険を好まないが世界の富裕層は冒険したい。
そもそも著者の経験ではラグジュアリーを開発したのはアジアにおけるアマンリゾートだそうだ。「排他」から「包摂」に変化をしている。排他は他との違いをだし囲い込んで特別感を出すが、包摂は自然や観光をそのまま包み込んで全てを受け入れで良さを出すこと。そしてそこにはSDGsに繋がる考えがあり、提供される食事に関しても地球環境を意識している。一例がフカヒレで、ヒレを切り取られたサメは泳げなくなり海で死んでしまうため、欧米の一流ホテルでは(日本でさえ)フカヒレ料理は提供しないそうだ。
これからは日本でも豪華一辺倒から、人生で一度の体験を提供するラグジュアリーな旅が出てくるに違いない。
一つだけ残念なのはあまりにアマンの歴史を細かく記述されていて冒頭から食傷気味になることかな。しかし読んでいて死ぬまでに一度でいいので、こんな体験をしたい、と思わせる内容だった。できれば大判で写真を入れた本を出して欲しいな。

ザイム心理教(森永卓郎)星4つ

消費税増税がなされたので日本経済は低迷。消費が落ち込んだから。しかし財務省は「税金を取ること」だけが目的で、政治家や官僚を洗脳。
言われてみれば日本経済だけが先進国に比べてデフレからの脱却だ遅れている。円安が続くし、物価が上がるのに消費は増えない。
官僚の待遇は企業のサラリーマンよりもかなり良い。給料面もあるが都心への住居など含めて。これらを一般家庭並みにすることでかなりの節約になるがそこには手をつけない。
事実の羅列なので読んでいてだんだんと腹が立ってくる。日本人はなんて従順なのか。どんどん増税されても反対派しなし。
まさに103万円の壁問題で自民党が大敗してしまうという現象が起きているが、ゆっくりと国民は反乱を始めているのか。しかしこれも洗脳された人たちによって税収が減るというメッセージが刷り込まれている。
国民よ、立ちあがろう!という森永さんのメッセージが読める。

ヴィクトリアン・ホテル(下村敦史)星4つ

実はaudibleで聴いた。
登場人物が多くてついて行けるかなと感じながら。しかし問題はなかった。短い中でしっかり登場人物を描いていて。
紙で読んだわけではないので読み返すことができないし、車の運転中に聴いていたので名前など頭から飛ばしてしまって?になることもあった。更に時代が飛んでいることに最後になるまで気づかなかったということで途中チンプンカンプンになったりしたが、最後のストーリーで氷解。
時を経て登場人物たちがまた触れ合うというこのストーリーにちょっと感動を覚えた。
これ、絶対に映画化ドラマにして欲しい!

いいなと思ったら応援しよう!