衝撃を受けた写真集のお話
元々ぼくは記憶することが苦手だ。有名人の名前とか、曲のタイトルとか、ブランド名とか。名前に全く興味を持てないので、名前を覚える時は試験前のようにがんばる必要がある。まさに単語帳に書いて都度都度確認するくらいのやつ。ただがんばって覚えたと思っても、すぐに記憶からどこかにいってしまう。
初めてのLeicaを手に入れて2年くらいたって、レンズの名前も最近になってやっとわかってきた気がする。ズミクロンとかズミルックスとかアポズミとかノクチとか。やっぱりあまり興味がない。みんながそんな話をしているとき、ぼくはいつも気の抜けた表情をしているかもしれない。
そんなぼくとは違い、ともだちのフネちゃんはとても詳しい。ぼくの知らない名前がポンポン溢れ出てくる。例えばカメラにしてもレンズにしても写真家にしてもファッション、車、その他諸々。ぼくはいつも「いろいろ知っていてすごいなー」と思いながら、朝の電車でラジオを聞き流すように彼の話を聞いている。楽しそうに話してくれているのが楽しい。決して聞き流してはいないよ。
そしてまんまとフネちゃんの影響を受けて、最近写真家さんの作品集を物色する機会が増えてきた。カルティエさん(時計業界に身を置くから覚えやすい)やファン・ホーさん。ソールライターさんにアーウィットさん。少しだけ名前を覚えたし写真集も買った。いいなーと思う作品はそれぞれにあるけど、作品と作家とタイトルが結びつかない。まぁ、すこしがんばってる。そんな中フネちゃんにボソッと伝えられた。
『アラーキーも花を撮ってますよ』
アラーキーの名前は聞いたことがある。荒木経惟さん。ぼくの中では多くの女性を美しく撮っているイメージが強かった。そんなアラーキーが花を撮っている。まったくイメージが湧かず、その意外性にとても興味が出てきた。ただしぼくが知らなかっただけで、アラーキーはずっと花を撮り続けていたようだ。無知でよかった。
いろいろ調べているうちに『花人生』というタイトルに行きついた。つい昨年にも写真展が行われていたようだった。同名の写真集も出ていた。とりあえずAMAZONで調べてみるものの...
「たっっっっっか...」
中古であるにはあるが価格に納得いくわけもなく。AMAZONで調べるのは諦め、条件を変更しながらさらに検索を繰り返した。そして定価で新品を販売している場所をついに見つけた。ていうか出版元にまだ在庫があった。
購入するために生まれて初めての現金書留を経験し、商品代金を郵送した数日後、やっと待望の写真集が届いた。Thanks for フネちゃん。
そしてその感想をお伝えしたいところなのだが、『花人生』の感想を述べる語彙力はぼくには具わっていない。まったく言葉が出なかった。いや、出なかったというよりも言葉が無かった。というのが感想だ。
ただただページをめくる度に鼓動が高鳴り、恐怖にも似たとんでもない圧を感じた。まるで心が得体のしれないなにかに飲み込まれてしまうような。人生で二度目の感覚。当然ながら、SNS界隈でワチャワチャやってるところのんから感じるものとは全く別のものだ。もっと熱く、厚く、重いもの。
ちなみに一度目のこの感じは、岡本太郎さんの作品。展示会に行ったものの途中でその場から離れたくなった。そして作品数点をカメラに収めてはいたが、その作品たちの迫力に気圧されて、結局撮影した作品のデータは削除した。
ぼくも今まで花を撮ってきたけれど、いったいなにを撮ってきたんだろうか。撮りたいものを撮りたい様に撮ってきた。しかしながらその中に1枚でも何かが誰かに伝わる様なものはあったのだろうか。そしてこの写真集との出会いで、ぼくの中のなにかが変わるのだろうか。それともなにも変わらないのだろうか。
とかまぁ、そんな小難しいことに思いを馳せてもしゃーない。何様でもないぼくだからね。今後も楽しく飲んで撮ってマイペースに歩いていく🍻