夜の帳の影から覗く厳かな1曲をそっと
クロムノワール
会場内に漂う夏特有のジメッとした暑さの中で、このイントロ。会場の空気が一瞬にして凍りついてしまうほど、話好きの政治家を一瞬にして黙らせてしまうほど、圧倒的な存在感がある。冬の厳しい寒さの中でも何にも言わずにただただ仁王立ちの状態で、まっすぐ前だけを見つめているような力強さの中には、その鎧を被って立ち続けることへの疲れのようなものも見え隠れしている。
そう、初めて聴いたのは、夏真っ盛りのライブ会場。歌って踊って楽しんでいる中に突如、インパクトがありすぎるイントロが流れ、本当に目に見えて空気の流れが止まったことを実感した。なかなかの存在感で、ちょっと緊迫感のようなものを持ち込んだなとすら思った。モニターに映るメンバーも、モノクロになった。
TERUの足元からモクモクとドライアイスが空気中に漂い始め、マイクスタンドを握るTERUのシルエットがなんとも神々しい。いつもよりもゆっくりとドライアイスがTERUの足元に広がって行くように感じられるほど、空気の流れが一気に変わった。楽曲の持つ力によって、こんなにも会場の雰囲気を一変させられるとは。。。と思わずにはいられない。
1日の終わりの疲れを癒すような楽曲と、この楽曲をテーマソングとする夜のニュース番組のインタビューでTAKUROは語っていたが、荘厳で高貴な雰囲気を持つこの楽曲は、夜の時間帯であっても、まだ自身を鼓舞し、明日を生き抜くための準備に勤しむようにと、背筋が伸びるようなメッセージとして、自分は受け取った。それだけ、この楽曲が差し出すメッセージ性が強い。TERUの歌い上げるその声の迫力は、癒しよりは、明日への活力という表現の方がしっくりくる。
明日はきっと今日より優しい
夜の寝息は誰にも優しい
でも最後のこの2行(という表現しかできない自分。。。)は、そっと疲れた体に温かい手を置いてもらったような安心感がある。その手の温もりに、ようやく体を支配していた緊張感がほぐれ、ふーっと長い長いため息をつけるようなそんな優しさや温かさを感じる。緊張と緩和が1曲の中に詰まっている楽曲。それを表現しきる技術には、さすがバンド活動35年にのぼるベテラン感が隠しきれない。
ゆったりとした椅子の背もたれにもたれながら、いつもより度数の高いアルコールをキュッと1杯体に流し込み、「クロムノワール」の世界観に埋没する平日夜、なんて贅沢な夜だろう。