父親定年で戻る本当に夫婦だったのか
小5になったある放課後、新担任から当直室に呼ばれた。男の先生は「ひとり親家庭の児童を教えてくれないかな」と言う。クラス30人弱の家庭環境など知る由もない。沈黙するしかなかった。
新担任に「学級委員ならこれぐらいは知っておこうね」と怒られる。当直室を出て考えた。クラスの半分以上の家すら知らない。ひとり親家庭の把握など無理だ。「それぐらいは分かってよ」。
ひとり親家庭もどきはいた。同級生は母親と姉の3人住まい。父親が家にいるのは年に10日間ほど。私は彼の母親を「のぎくさん」と呼んだ。母親と姓の違う父親は長い間、単身赴任していた。
中2か中3のころ、父親の中田さんが定年で戻って来た。もうお年寄り。中田さんとのぎくさんは本当に夫婦だったのか。北海道でどんな仕事をしていたのなど、昔のことを懐かしく思い出す。